粛々 (しゅくしゅく) と
「粛々と」などと言うと、なんだか政治家が何か批判などを受けたときに「粛々と調査を継続してまいります」とか「粛々と作業を進めてまいります」などのように答弁の決まり文句のように使っている感じもしますが、私も海外赴任中は仲間内で、あるいは私の頭の中で「粛々と仕事を進めていくしかない」などのようによく使っていた気がします。
膨大な課題や問題点が判明して仕事が期限内に間に合いそうもない時、パートナーや株主などからの多くの要請に応えなければならない時、人手不足が解消できず多くの仕事を抱え込んでしまった時など、私たちはこの言葉を使って、自分自身を落ち着かせ、鼓舞し、仕事を放りだしたりしないように、前を向こうとしていたような気がします。
仕事が思うように進まない原因は、自分たちの読みが甘い時もあります。突発的な問題や人員不足の発生による場合もあります。パートナーや株主などと意向が合わなかったり意思疎通がうまく取れなかったりして立ち往生してしまう場合もあります。
「それでも、粛々とやるべきことをやり、交渉をし、説明をしていけば、解決や理解の糸口が見えてきて、いつかは決着するときがくる。いつかはなんとかなる。」それが私たちの「粛々と進めていくしかない」の意味だったような気がします。
この言葉は相手に説明する際に使う言葉というよりも、自分に言い聞かすために使っていたように思います。
本来はそんな意味の言葉ではないのかなと思いますが、自分の行動の仕方を他人に説明するためにこの言葉を使うと、「淡々と」無機質に仕事を進めていこうとしているような、とにかくルールに従ってあるいは既定路線に従って仕事を進めていくような、当事者意識が薄いというか、血が通っていないというか、上から目線というか、そんな印象を与えてしまうことがあるのかもしれません。
2015年4月、当時の翁長雄志沖縄県知事が、当時の菅義偉官房長官と会談した後の記者会見で、「『粛々』という言葉を使う官房長官の姿が、米軍軍政下の最高権力者キャラウェイ高等弁務官と重なる。上から目線の『粛々』という言葉を使うほど、県民の心は離れ、怒りは増幅し、辺野古へのこの新基地は絶対に建設することはできない」と述べていたことが思い出されます。
[東京新聞 2020年10月22日 05時50分]
粛々と仕事を進めていくしかない時があるとは思いますが、相手の立場や気持ちを考えると、相手に向かって自分の仕事の仕方を説明する言葉としては使いにくい言葉だと感じます。
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