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水飽和率データを平均するときはそのまま単純平均しない

昨日に引き続いて、入社後の研修で学んだことです。

油田の原始埋蔵量 (IOIP)はざっくりと以下のような計算式で表せます。

IOIP=GRV×NGR×φ×So/Bo

ただし、
GRV: グロス・ロック・ボリューム、油田内の石油が存在する領域の (油水界面より上) 貯留岩全体の体積
NGR: 有効層厚比、孔隙率が小さい、水飽和率が高い、あるいは浸透率が小さいなどの理由で、油・ガスの採取の対象となり得ない部分を除いた(cut off した)層厚 (有効層厚, net thickness) と 総層厚 (gross thickness) との比(net-gross ratio, N/G 比)
φ: 平均孔隙率、貯留岩の有効部分の平均孔隙率 (岩石中の隙間の割合)
So: 平均油飽和率、貯留岩の有効部分の孔隙に占める油の割合の平均値
Bo: 油容積係数、地表条件における単位体積の原油または天然ガスが油層またはガス層で占める体積。

ちなみに、孔隙率とは岩石全体の体積に対する孔隙 (隙間) の割合、油飽和率  (または水飽和率) は、孔隙の中に占める油 (または水の割合) を指します。水飽和率が1という時は、岩石中の孔隙がすべて水で満たされているということです。

油層モデルは小さなセルの集まりで油層を表現します。従って、上記計算式のGRVをセルの体積として、各セルに含まれる油の体積を求め、すべてのセルの石油の体積を合計すれば、その油田における原始埋蔵量を求めることができます。

セルごとに計算する場合、通常 NGR=1と考え、各セル全体の体積を有効体積と考え、セルの平均孔隙率と平均油飽和率を計算に用います。

各セルに入れるパラメータは、簡易的には各坑井で記録された物理検層 (ログ) から求めた孔隙率 (φ) ログと水飽和率 (Sw) ログデータをセルのサイズに合わせて平均します。油層の孔隙内に水と油だけが存在すると考えられる場合、油飽和率 (So) は、So = 1-Sw で計算できます。

つまりセルの中の油層状態での油の体積 (Oil_Vol_in_Cell) は以下の簡単な式で表せます。

Oil_Vol_in_Cell = Cell_Vol×φ×(1-Sw)

ただし、
Cell_Vol : セルの体積
φ: セルの平均孔隙率、孔隙率ログデータを平均して求める
Sw: セルの平均水飽和率、水飽和率ログデータを平均して求める

孔隙率ログと水飽和率ログが通るセルは、ログデータを平均すればよいのですが、ログデータが通っていないセルの値は、近くのログデータで値が決まったセルから、内挿・外挿を行って値を推定してあげます (実はこの値の決め方が油層モデルの一つのキモとなります)。

水飽和率モデルの作り方には、ログデータを直接使わずに、ロックタイプごとに自由水面 (FWL: Free Water Level) からの高さとSw の関係を定義してあげて、Sw 分布モデルを作る方法も一般的に行われていますが、ここでは省略します。

さて、本題です。

セルを通るログデータを使ってセルの平均孔隙率、平均水飽和率を計算するのですが、入社後すぐの新米の私は、ごく普通の算術平均 (arithmetic mean) で計算してみました。データの値を足してデータの数で割るという方法です。

一応、ログデータは等間隔のデータなのでデータ1ポイントごとの重みは同じと考えました。

下図のような簡単なセルとログデータを考えてみます。セルには4つのデータポイントがあるとします。

単純に孔隙率と水飽和率を算術平均して見ると

平均孔隙率=(0.05+0,15+0.3+0.1)/4 = 0.15 (15%)
平均水飽和率=(0.8+0.15+0.05+0.25)/4 = 0.3125 (31.3%)

講師に言われたのは、「じゃあこのセルの体積を1とするとセルの中の水の体積 (Water_Vol_in_Cell) は以下の通りでいいんですね?」

Water_Vol_in_Cell = Cell_Vol×φ×Sw = 1 x 0.15 x 0.3125 = 0.046875

「試しに各データポイントが代表する体積を1/4として水の体積を計算してみてください。」

そこでセルを4等分したと考え、それぞれ1/4の体積で、各データポイントの値を使って計算してみます。

1/4 セル4つの水の体積の合計は 0.025625 となりました。セルの中の水の体積は先ほどの計算よりもだいぶ少ないようです。

これは、孔隙率の非常に小さい部分 (5%) で測定された大きな水飽和率 (80%) をそのまま算術平均で使った影響が大きいようです。

岩石中の孔隙率の大きいところと小さいところで、水飽和率の水体積に及ぼす影響が違うのに、孔隙の大きさを考慮しなかった、水飽和率の平均方法の失敗と言えます。

この場合、水飽和率の平均の計算では、孔隙率で重み付けした「加重平均 (Weighted arithmetic mean)」を使うべきだと学びました。

加重平均は、各データポイントの水飽和率にそのポイントの孔隙率をかけて、それらを合計して、孔隙率の合計で割ることで求められます。

式にすると、

加重平均水飽和率=(0.05x0.8 + 0.15x0.15 + 0.3x0.05 + 0.1x0.25) / (0.05+0.15+0.3+0.1) = 0.170833 (17.08%)

ずいぶん算術平均の水飽和率 (31.3%) より小さくなりました。セル内の水の体積を計算すると、

Water_Vol_in_Cell = Cell_Vol×φ×Sw = 1 x 0.15 x 0.170833 = 0.025625

データポイントごとに水体積を計算して合計した結果と同じになりました。

Water_Vol_in_Cell = 1 x 平均孔隙率 x 加重平均水飽和率 
(0.05+0,15+0.3+0.1)/4 x (0.05x0.8 + 0.15x0.15 + 0.3x0.05 + 0.1x0.25) / (0.05+0.15+0.3+0.1)
= 1/4 x (0.05x0.8 + 0.15x0.15 + 0.3x0.05 + 0.1x0.25)

ということなので、まさに上の図のように、セルを4つのエリアに分けて、それぞれの部分の水体積を計算して合計して計算するのと同じ結果になるわけですね。

考えてみれば当たり前なのですが、漫然と計算していてはいけないということですね。いまだにコントラクターのモデリングの専門家でもうっかりなのか、水飽和率の平均で単純算術平均の罠にはまっている人を見かけます。

水飽和率の平均、特に孔隙率が変化するようなところでは、単純な算術平均では埋蔵量の見積もりを間違えそうです。講師の指摘によって、水飽和率の平均には孔隙率で加重した加重平均をとるべきだということがしっかり頭に焼き付きました。

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