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油層モデルアップスケールの小さな罠

石油の開発計画を立てるために、あるいは生産予測をするために、私たちは3次元油層モデルをつくります。

3次元油層モデルは、セルまたはグリッドと呼ばれる小さな立体の集まりで表現します。

通常油層モデルの元となる地質モデルは小さなセルサイズで表現して、できるだけデータから予想される油層の不均質性を表現しようとします。一つ一つのセルサイズが小さいほど、モデルの解像度を高めることができて、油層の不均質性をより細かく表現できるようになります。

しかしながら、開発計画や生産予測をするためにシミュレーションを流して流体の動きを再現しようとする場合、あまり細かいセルの集まりでモデルを表現するとセルの数が多すぎて計算時間が膨大にかかってしまいます。

そこで、地質モデルでは細かいセルサイズで油層の不均質を表現していたものを、シミュレーションのためのモデル (ダイナミック・モデル) では、シミュレーション結果に大きく影響を与えない程度にセルをいくつかまとめて大きなセルサイズとして、セルの数を減らして計算時間を短くする努力をします。

このセルをいくつかまとめて粗いセルのモデルにすることをモデルのアップスケールと呼んでいます。

以前、新入社員の頃研修で学んだ水飽和率や浸透率をアップスケールするときの注意点、特にデータを平均するときの注意点を備忘録的に記事にしました。

今回も、その続きのような話ですが、油層の特徴を孔隙率 (Porosity) と浸透率 (Permeability) の関係で表現している場合、アップスケールの際には注意が必要だという話です。

例えば、下図は非常に簡略化していますが、細かいセルの地質モデルで各セルの孔隙率と浸透率の関係が浸透率の対数をとった時に直線で表現できる関係があったとします。この関係がこの油層性状の特徴であるとします。

この小さいセルスケールのモデルをアップスケールするために、二つのセルを一つにまとめて大きなセルを作ることを考えてみます。一つにまとめる2つのセルがそれぞれ赤丸と青丸で囲ったポイントの値を持っているとします。

  • 赤丸セル:孔隙率 5 %、浸透率 0.1 mD

  • 青丸セル:孔隙率 20 %、浸透率10 mD

話を単純化するためにアップスケールしてまとめようとする2つのセルは同じ体積だとします。孔隙率、浸透率をそれぞれ単純に算術平均するとどうなるでしょうか。

  • 孔隙率 = (5+20)/2 =12.5 %

  • 浸透率 = (0.1+10)/2 = 5.05 mD

これをプロットして見ると下図の黄丸ようになります。

浸透率は対数をとった時に孔隙率と直線関係にあるので、単純に算術平均してしまうとこの関係が壊れてしまいます。考えてみれば当たり前のことなのですが、単純に算術平均してしまうとこのようなことが起こります。

試しに浸透率を、対数をとってから平均して真数に戻してみましょう。(このような平均の仕方を幾何平均と呼びます。)

  • 浸透率=10^((log10(0.1)+log10(10))/2) = 1 mD

この浸透率と先ほど計算した孔隙率 12.5 % の組み合わせでプロットして見ると、下図の緑丸のようになります。元の孔隙率と浸透率の関係が維持できました。

実は黄丸、緑丸、どちらが正しいとは必ずしも言えません。セルサイズを大きくすると小さなセルサイズで示された孔隙率と浸透率の関係が変わるとも言えます。

アップスケールの考え方にはいろいろあり、もっと複雑な理論もあります。小さなセルを集めて大きなセルにアップスケールをするときには十分注意が必要です。

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