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一人でぐるぐる悩み考える大学時代の地質調査

数年前に母校や他大学の地質系学科の先生に話をうかがったときに、大学での進級論文 (進論) や卒業論文 (卒論) 時の地質調査では、安全性の観点から学生一人では地質調査に行かせられなくなってきていると聞きました。

私たちが学生の頃は、学生一人で山に入り地質調査を行うことは当たり前のように行われていましたが、現在は安全のために一人では山に入らせないという方向に変わって来たようです。

自然を相手にする調査ですから、天候による落雷、増水、土石流、がけ崩れ、冬場や春先の雪崩などのほかにも、崖からの滑落、転倒などの事故や遭難など、登山や沢登りと同様のリスクはどうしても伴います。

調査中の危険性は昔も今もそれほど変わらないと思われますので、世間や大学の安全管理に対する考え方や認識が変わってきたということなのかもしれません。

ただ、地質調査に使える機器も格段に発達してきています。GPSや携帯電話などは遭難時や緊急時の連絡に効果を発揮します。また、携帯電話が使えない地域でも、衛星電話を使えばより広いエリアでの通話が可能となります。

リスクへの対応方法はいくつかあります。(1) 調査自体を行わない「リスク回避」、(2) 二人以上での調査やお金はかかるが衛星電話などの機器を導入するなどしてリスクを減らす「リスク軽減」、(3) 傷害保険を含む損害保険などに加入して損害に備える「リスク移転」、(4) リスクはリスクとして受け入れ特になにもしない「リスク保有」。

私は地質調査は地質学の基本であると思っていますので、(1)のオプションはこの場合除きたいですし、(4)はそれなりの確率でリスクがあり、リスクに対応する現実的な軽減方法もありそうなので、選択肢から外せると思います。

つまり、(2)の「リスク軽減」と(3)の「リスク移転」が取りうるオプションだと思います。

私たちが学生の頃にはあまり意識したことがありませんでしたが、傷害保険は地質学科の学生に限らず、今の学生にとっては普通に考えられるオプションだと思います。必要に応じて学科として学生を傷害保険に加入させることも考えられると思います。

数年前、大学の先生に聞いたころには、地質調査は2名以上で行うことがリスク軽減策として考えられていたようです。

指導教官が常にすべての学生の調査に付き合うことは現実的ではありませんので (進論で約1ヶ月、卒論だと数か月の野外調査になることもある)、二人以上で調査を行うとした場合、学生をペアで調査に入れるか、付き添いができる補助スタッフを用意することになるのでしょうか。

補助スタッフは集めるのも、大学の予算で賄うのもかなり難しいと思われます。

そして、学生のタイプにもよりますが、進論、卒論は一人で調査し、データを集め、考察し、結論を出す訓練の集大成の場だと考えていますので、できれば、人の助けを簡単には借りられない場に身をおいて、自分で悩み解決する時間をとらせてあげたいと思います。

私が石油会社に入って強く感じたのは、地質技術者として必要であり役に立つ能力の一つは、自分自身で課題を見つけ解決していくことだということです。必要に応じて人に頼ることも社会人としては必要ですが、どこかで自分で考え解決する訓練もぜひじっくり行ってきてほしいと思っています。

これらを考えると、多少のコストはかかりますが、大学はGPSや衛星電話を学生に貸与し、調査期間中は朝晩など定期的に連絡を入れさせ、傷害保険に加入してもらい、このようにリスクを軽減したうえで、学生・保護者の理解を得ながら、ある程度のリスクは保有するというのが現実的であり、地質学に携わる技術者のレベルを維持するための落としどころかなと思います。もちろん、学生個々の状況によってフレキシビリティーもあって良いと思います。

その後、現在の大学地質系学科事情はどうなっているのでしょうか?

私は、進論でも卒論でも、一人で悩みぐるぐる考えながら調査していました。そしてたまに調査地域に来ていただける指導教官や、先輩・後輩に自分の見た決定的証拠と思われる露頭などを見てもらいながら自分の考えを説明し、それに対する意見や反論を聞かせてもらい、自分の考察をブラッシュアップしていくやり方で、非常に鍛えられたと思っています。

それは社会人になっても同様で、石油開発会社の仕事に非常に役立ちましたし、技術士としても通用するやり方だったのではないかと思っています。

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