六本木『潮』展 読み解きのヒント
東京・六本木で開催中の個展で展示中のシリーズ《潮》は、統計データを使って仮想の地形を作り、社会の姿を捉えようとする試みです。この作品の仕組みと読み解き方について解説します。
地理空間に横たわる流れをシミュレーションする作品《潮》について
《潮》は、地理空間に横たわる不可視な流れを、社会統計データから生成した仮想地形を使って描きだそうとする作品シリーズです。
このシリーズは「社会にある資本・リソース・文化の、不可視で捉えがたい流れを観測することはできないか」というアイデアを原点に制作しています。例えばエネルギーがインフラに沿って都市に集まる一方、文化が地方に流れわたっていく、そういった現象を、言葉で示すよりも高い解像度で観察できるような道具を作ることを目指しています。
自然界では水や空気のような流体が存在しますが、これらの動きを決めるのは地表の地形です。《潮》では、社会をセンシングした観測値である統計データを用いて仮想の「地形」を生み出し、それを用いたシミュレーションによって社会的な「流れ」を捉えることを試みています。
六本木展における展示構成
六本木での展示での構成は以下の通りです。すべて同じ六本木の「地形」のモデルをもとに、可視化の方法を変えて出力したものです。
潮(六本木)
潮(六本木) - 標高地形図
潮(六本木) - 陰影起伏図
潮(六本木) - データレイヤ
正面の壁にある映像作品(1)では、《潮》の核となる「流れ」が、航空写真から溶け出すような粒子の流れで描かれます。
左右の壁(2)(3)(4)ではこの「流れ」を生み出した「地形」の様子が図で示されます。白い図は等高線が描かれた「地形図」、青い図は地形を立体的に捉えるために用いられる「陰影起伏図」です。
データの合成による地形生成
左右の壁の図は、統計データから地形を生成する過程を対比し眺めるために展示しています。
統計データから「地形」を生成するにあたり、単一のデータを用いるだけでは、社会の単一の側面を示したに過ぎません。《潮》では、異なる側面を持つ複数のデータを合成することで、社会を成す複雑な性質をひとつに表すことができるのではないかという仮説を取りました。
本展で展示している地形の生成には、4種類の統計データを使っています。
基準地価 [円/m^2]
市区別昼間人口 [人]
交通騒音 [dB]
Wikipedia 項目別の日次閲覧数 [回]
右壁の小さい図(4)が4種類それぞれのデータで生成した地形、それらを合成してできたのが左壁の大きな2枚の図(2)(3)、および正面の映像(1)です。
地図を読み解くヒント
プロセスが妥当なものであったとすれば、これらの地図や映像は社会的な「流れ」の存在を示した、観察の材料となっているはずです。作家としてはこの観察に答えを用意するつもりはありませんが、作品を見ていただくに際して役立つかもしれないヒントを提供したいと思います。
地図の上には使用した統計データの点を見えるように表示しています。粒子が特徴的に流れる場所には、地図上ではなにがあるでしょうか?
目立つ山や谷を作っている要因となるデータはなんでしょうか?
この縮尺において統計データはかなり密度が低いため、合成前のデータセットは粗くデジタルなものに見えますが、合成後は自然の産物であるかのような複雑性が現れます。メカニズムを見出すことはできるでしょうか?
上に加えて、合成前の地形にはそれぞれどのような特徴があるでしょうか?
会場で配布しているハンドアウトの裏面には、地形図の簡易版を印刷しています。会場から持ち出して実際の街を探検していただくことで、データから生まれた地形の妥当性を検証するとともに、社会を観察する新たな視点を得ることができれば嬉しく思います。
六本木での展示は4/8までです。ご来場をお待ちしています。