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ただそれだけの記憶

場所とか時間とか、細かい周辺情報はあまり覚えていない断片的な記憶が、いくつかある。

大抵はフラッシュバックしてしまう嫌な思い出なのだが、
稀に、素敵で大切にしたいものもある。

それは、大学の時に、複数の研究室で飲んで、二次会をする飲み屋に向かう時だったと思う。例年ゴールデンウィークに開催していたBBQの後だっただろうか。

その頃、僕の周りでは珍しくバンドやライブの話ができる、2つ下の後輩の女の子がいた。研究室も違えば入っている建物も違ったので、飲み会でもしなければ会わない人だった。

頻度が高くないので、毎度話題はしっかりあって、毎回盛り上がった。
話の合う人、という認識だった。

信号待ちをしていた。
先輩たちの集団からちょっと遅れて、僕ら2人が追いついた。
少し離れたところで立ち止まって、なぜか僕は手を繋いだ。

そんな積極的な性格ではないし、相手の好意を確信していたわけでもない。自分からそんなことをできると思っていなかったので、自分でも驚いた。
ただ、彼女は黙って受け入れてくれた。

信号が青になった。

歩き出すタイミングで、手を離したんじゃないかと思う。前の集団の誰かに話しかけられるかもしれないと思ったはずだ。


その後、周りの口添えもあってお付き合いすることになるのだが、
あの瞬間だけは、絶対に忘れないと思う。

つらつらと書いた情報が、実は全部間違っている可能性もある。
ただ、あの瞬間、なぜか手を繋いだことだけは、事実だ。

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