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【行ってよかった美術展】ハマスホイとデンマーク絵画(2020)

今回は、運良く行けた美術展についての投稿を。

2008年に国立西洋美術館で初めて大々的に紹介され、観た人の多くに衝撃を与えたといわれるハマスホイ(ハンマースホイとも)。その彼の絵画を中心としたデンマーク絵画の美術展は、2020年の年が明け、少しお正月気分も落ち着いたかなという頃、東京都美術館で開催された。日本では、実に10年以上振りとなる大規模なハマスホイの企画展の開催だった。

が、閉幕まで あと2週間というところで、この美術展は途中終了してしまった。理由はそう、あのコロナの本格的な大流行によるものだった。人によっては幻の美術展になってしまったことだろう。そこから数ヶ月間、美術館自体が休館になったり、開館していても、世間では(自分も含め)多くの人が自粛するようになってしまって、全く行けなくなってしまったと記憶している。

※その後 山口県立美術館に巡回したが、こちらも予定より1ヶ月以上遅れての開始だったらしい。

結果的に1度しか鑑賞出来なかったので残念この上無かったわけだが、それでも、あんな状況下で1度でも生でハマスホイの沢山の絵を鑑賞する機会が得られたことは、今思い返しても とてもラッキーなことだったと思う。2008年には買いそびれた図録も、2020年の展覧会では2冊買えた。音声ガイドの 宮沢りえさんが雰囲気に合っててよかったなあという体験も得た。個人的には、あの暗く沈みがちだった頃における数少ない楽しい思い出のひとつとなったのだった。

写真を振り返ると、2018年末にはフライヤーを
入手していたようだ。とても興奮してたと思う。


行く気満々で、割引券も大量ゲットしてた模様。
(まさか流行病で途中終了になるとは…)


さて、簡単にハマスホイについて紹介しよう。

ヴィルヘルム・ハマスホイは、19世紀後半から20世紀前半に活躍したデンマークの画家で、今日では「北欧のフェルメール」と言われたりするほど国内外から評価を得ている。彼の描いた大半の絵に漂うものは静寂だ。「不気味なくらい」という修飾語を付けてもいいくらいにサイレンスなのだ。

よくハマスホイの絵と比較される オランダ人画家フェルメールの絵も、多くは静けさを感じられるものだが、フェルメールの絵からは音を敢えてシャットアウトしようとする意図は感じられない(と思う)。普通に生活音や鳥のさえずりなんかは聞こえるような気がするし、結果的に静かな感じがする、といった類だろう。
(彼の場合は、代表する光とともに、絵の中に隠す”暗喩”のほうが こだわりだった気がするし)

一見 彼らの絵は同じような雰囲気ながらも、見るものが抱く安心感の有無という点では、かなりの相違があるように思う。ハマスホイは50代前半という、当時でも若い年齢で亡くなってしまうが、評価されたのはそれから数十年経ってから…つまり近年になってからのことだった。その理由は上に記載したとおり、彼の作品に潜む「静への執着と生の撤廃(あるいは限られたものだけを生としたこだわり)」というものに対して、当時の平和な時代が来る前の過酷な時代を生きた人たちは、とても畏れたから(言い方を変えれば「不快を覚えた」から)なのではなかろうか。

ハマスホイは ひょっとすると、時を止める能力を持っていたのではないかとさえ思える。それについて一笑に付すことが出来ないのは、ここまで書いてきたとおりだけれど、一説には写真時代の到来(切り取られた芸術の到来)を予期していたから、それに近付きたい一心で、静寂というより”静謐”な美しさを追求する絵を描き続けた、という話もあるようだ。何が彼をそこまで駆り立てたのか、何が彼のモチベーションだったのか。いちファンである僕は、これからも彼の絵を見ながら、それについて考えていけたらなと思う。

コロナも一応は落ち着いたように見えるが、実はまた流行りだしてきているという話も聞く。が、それ以上に日本経済の低迷のほうが深刻だったりして、また近い将来、芸術が犠牲になることがないかと心配している。だがそういう時こそ、ハマスホイの絵のように静かな気持ちでいることが大事なのかも知れない。そんなことを思いながら、今宵も彼の図録をパラパラと捲っていた。また日本で大規模展覧会を開催して欲しいなあ。

図録を鑑賞用と保存用で2冊ゲットしたのは、
我ながら実にGoodな行動だった。

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