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言葉なんかおぼえるんじゃなかった
あまりにも好きな詩がある。
田村隆一さんの「帰途」という詩だ。
観て、私の胸に深く刺さりすぎて、でも「好きな映画は?」と言われたときにそのタイトルを挙げるのは憚られる映画があるのだけど、その映画の印象的なシーンで朗読されていたのが、「帰途」だった。
大学で学びたいことは何か、考える瞬間もなかった。それほど、圧倒的に、文学しかあり得ないと思って文学部に進学した。私にとって小説は、言葉は、光だった。
でも、文学なんていらない人生のほうが良かったとも何度も思った。他者や他の命の痛み、叫び、それらに耳を澄ませて、私も苦しくなって、何になる?
わからない。
わからないけれど、ただ一つ言えるのは、この詩は本当に美しんだということだ。
帰途
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか
あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ
あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう
あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃ってくる
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