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不死者は定命者の夢を見る 第一幕

なんてことのない日常に非日常の貴方がいたことは、きっと私にとって奇跡だったんでしょう。

命尽きる前に貴方が気まぐれに与えた永遠という命は甘美にして苦痛でした。

それでも私は貴方に出会えた事を最愛にして最高のものとして思い出の一つとして刻んでいます。

これからの世界はどうなるかはわかりませんが、きっと私達のような人の理から外れた者達が徐々に世界を侵食していくのでしょう。
永い時を生きて尚、人のように生きる貴方は
何よりも人のようでした。


命は死があるから終わりがあるからこそ美しいのだと彼は言っていた。
私に気まぐれに永遠を与えた人は何よりも優しく残酷でした。
茨城の片田舎の町、湊町の古びた民家で純喫茶をするなんて事のない男。彼との出会いはある夜からだった。
 

第一幕 風俗にいた私。
 何てことない地方のソープに身を沈めただけの女だった。
年齢は24歳で些か童顔、体はきちんと鍛えたりもしていたからある程度はスタイルがよかったと思う。
企画物の成年指定の作品にも出ていたし、それなりにテレビにも出ていたりした。


別に風俗という仕事に関して嫌悪感をもっていたわけじゃない。
ただ生活するのに一番適していたのがそれだけだったというだけ。
音声配信だけの顔の見えない配信でも問題ない範囲での仕事の話とかもしていたし、配信者同士で仲良くなって話す事もあって話したりもした。
ネットよりリアルの方が関わりやすかった。


まあ中には欲望を話す人もいたけれど、それは気にしなければいいし、ブロックすればいいだけだし、それなりに楽しくは過ごしていた。
一番変化があったのは、私が癌になったことで、お酒も煙草もそんな事はしていないのだけれど、ステージ4まで侵食されていたという事、そのおかげで休まなければいけない事が山ほどできて、仕事もできなくなってしまった、貯金はしていたけれど、風俗ばっかりしていたので、一般的な職業に馴染むというのが難しいのもあったし、一応母親だけは存命だったけど、精神的に弱っていて一人で暮らすだけで精一杯だったから頼るのも難しかったし、母親はとても優しくていい人だし、私に愛情をいっぱいくれたけれど、父親はどうしようもない酒狂いで母親の稼ぎばかり、あてにしていた。
父親をなだめていた父方の祖父母は私が幼少時の時に亡くなってしまっていたし、母方の親はどの国籍の人かもわからなかったし、何より母親も少し悲しそうな顔をしているのを見て問いかけるのをやめた。



そしてあの日の夜、地元茨城県の大洗の近くの湊町に残りの時間を過ごそうと駅を降り人がいないような湊町附近で刺されたというわけだ。
恐らく配信者時代に私にすごく好意を向けていた人間なんだろうとは思うが、どういうわけだか私の所在を突き止めて殺傷能力の高い包丁を私の腹部に突き立てた。


その日の私はなんとなく何も考えずに月が綺麗だなあと思っていた。
そして目出し帽を被った刺した犯人である男は昂奮しながら近づいてくるのを見て、犯されるのか嫌だなあと思った瞬間、男が吹き飛ばされたのを確認した。
「こんな片田舎に人殺しとは剛毅だなあ」


月明りに映るのは美しい男だった。身長は恐らく180センチを少し超えるくらいだろうか、体もきちんと鍛えていると思えるような服を着ていてもわかるような体格、今現在の12月の季節に合わないような薄手の黒いシャツにどこかバーテンダーの服装に近い、お洒落な要素を持った黒い服装に、黒い安上がりなブーツ。パーマをかけた縮れた黒髪に黒縁の眼鏡、両耳に六連のシルバーピアス。


煙草の銘柄はアメリカンスピリットのパープル。電子煙草が優位の世の中で紙煙草を吸う奇特な男。気だるげに携帯灰皿に煙草を潰す
と欠伸をする。


「うーん、匂い的に多分変われるか、とりあえず気絶した奴はあいつに任せるか、ここらへん警察の施設あんまないんだよな」
気絶する犯人の男を見ながら黒いメタリックカラーのスマートフォンを取り出すと男は妙な提案を私にした。


「さて、多分これは非常におかしな言い分になるし、信じられないのならば別に問題はないが一つ提案をしよう」
男はにこやかにほほ笑む。

「永遠の命に興味はあるかい?」
月が妖しく光った気がした。

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