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不死者は定命者の夢を見る 第二幕

第二幕 茨城の片隅のヘビースモーカー
 男の質問に曖昧なまま了承したと実感した瞬間、意識が遠ざかるのを最後に記憶は途絶えた。


次に目を覚めたとき、黒いベットの上にいて首を傾げた。
「起きたかい?」
ベットの横のソファーに座っている昨日の男が煙草を吸いながら本を読んでいた。


本のタイトルは「不死者は平穏な日常を好んでいる」という本で、最近ベストセラーになった日常よりの非日常小説だったと思う。


内容は突然変異的に寿命がなくなった女の子が様々な別れや出会いを通して永遠の楽しみ方を見出していくという物語だったと思う。
映画化もされていて、顔を見せないシンガー水連が主題歌をしていてその透明な歌声と癒される歌声に多くの人が魅了されていた。
「おはよう」
男はにこりと微笑むと本を閉じる。


「あなたは?」
私は少し警戒しながら声をかける。
「ああ、すまない、俺の名前は不死宮骸(ふしみやがい)という、昨日の出来事はどこまで覚えているかな?」
「襲われた事と貴方の突飛な質問までは」
「そうか、それならいい、安心して、君を襲った奴はきちんと警察に送ったから、まあ顔が利く奴は間に挟んだがね」
「あなたは何者なんですか?」
不死宮は灰皿に煙草の灰を落とすと
「なんて事のない、この街で喫茶店を営むヘビースモーカーさ、まあ少し違うとすれば、命の時間の期限はないという事か」
「はい?」
不死宮はにこりと微笑む。
「まあ死なせるのは忍びなかったし、君も了承の返答をしてくれたので同族にさせてもらったがね」
その言葉を聞いて私は自分の体を見た。



刺されていた腹部の避けた傷は何もなく、むしろ癌の影響で悪かった肌も10代並の肌に変わっている。
「まあ色々と思う事はあるだろうが、説明はするし、ご飯を食べよう、君の名前を聞いてもいいかな?」
「竜宮セツナです」
「いい名前だねえ、湊町にちなんだいい名前だ」
不死宮は笑うと灰皿に煙草を潰すと、ああとうなづき。
「寝てるうちに着替えはさせてもらったが、うちの女性従業員に任せたから、そこは安心してほしい」
「あ、ありがとうございます」
不死宮はそういうと席を立ち、にこりと微笑む。
「まあ下にいるからゆっくりおいで」

 内装は綺麗に整えられていて、室内はどこかアンティーク調の昔ながらの木製の家具、穏やかなオルゴールの音が響く。来ていた白いルームウェアを脱いで用意された白いシャツと黒いジーンズ、恐らく女性従業員という事だから、なんらかのお店なんだろう。


美味しい匂いがするから飲食店なのだろうと思う。
コーヒーとおいしそうなトーストな匂い、二階と思しき場所から階下に降りると、先ほどの不死宮とゴシック系の黒いドレスを着た10代後半と思しき黒い熊を抱えた人形のように美しい顔をした金色の髪をウェーブにした少女、身長は140センチくらいだろうか、どこか幼い印象をもっている。自然な感じで化粧はされていて無表情さがまた魅力をあげている。
「来たね、まあ朝の賄いですまないが、ご飯を食べよう」
不死宮はにこりと微笑みと、店内と思しき木目調の机に食事が置かれている。


シンプルなトーストにバターが塗られていて
、先ほどの匂いの通りの濃いコーヒー、そしてサラダとコーンスープ。
「まあゴマドレッシングが好みだから、ごまドレッシングのみにはなるが、好き嫌いはないかな?」
不死宮の言葉にセツナはないと答えると、目の前の席に座る。
「ああ、ちなみに従業員の皆川輪廻(みなかわりんね)だ、年齢は非公開にしているからよろしく頼む」
「よろしく」
輪廻と呼ばれた従業員の少女はそう言って隣に座った。

「さて、ここは俺の店であり、喫茶店でもあり、BARでもあり、何でも屋でもある場所だ、名前は「名もなき海」という所か」
「店長はネームセンスがない」
「まあそういうな、それなりに認知度は高いのだから」
不死宮はにこにこと笑いながら輪廻の言葉にうなづく。

なんてことのない朝食を食べたのは久しぶりだったし、穏やかな気持ちで食事をしたのはいつからだろう? 
店長と従業員の顔を見ながらセツナは穏やかに微笑んだ。

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