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部下の指導に叱責は必要か?

codeFaberという会社でメンター・コーチをやりながら、構成作家業&芸能活動をしているナナシロです。ケロケロ。

今回は
「部下の指導に叱責は必要か?」
というテーマで話をしようと思います。

ちなみに結論から言ってしまうと、

部下の指導に叱責は不要

だと考えています。

読めば納得がいくかと思うので、引っかかった人ほど一読していただければ幸いです。

「叱る」と「怒る」は違う

本題に入る前に、そもそもの前提の話として、
「叱る」と「怒る」を混同している人が多い
という印象があります。

「叱る」は相手のことを思っておこなう行為ですが、一方の「怒る」は自分のためにおこなう行為です。

「怒る」はただの感情表出でしかなく、論理もへったくれもないです。
ただイライラしたからぶちまけた、それだけなんですね。

怒りをぶつけるという行為は、幼少期に身につける原始的でシンプルな感情表現です。

それを大人になっても相手との関係性に関わらずやってしまうのは、感情のコントロールに何かしらの課題を抱えているか、周囲に対して甘えの気持ちを持っているのではないかと思います。

そういったアンガーマネジメントの課題を抱えている人へ向けては、また別途記事にしようと思います。

「叱る」も不要なのか?

先述の「怒る」は自分本位で稚拙な行為だとして、「叱る」は果たしてどうなんでしょう?

「相手のことを考えての行為だからやってもいい」
「人を成長させるためには叱る必要がある場面もある」
「親が子を厳しく律するように、上司も部下にそうする必要がある」

そう思った人もいるでしょう。

確かに、

  • 言われたことが言われたとおり出来ない

  • 何度も同じ指摘を受けているのに改善しない

  • 筋を通さずに自己主張をする

  • 指示を待つばかりですぐサボる

みたいな部下がいたとき、
「さすがにこれは厳しくしないといけないなぁ」
と感じるのはよく分かります。

取引先からの信用に関わったり売上に関わったりすることであれば、なおのことやきもきするでしょうね。

きっとそういう考えから、意図的に声を荒らげて叱りつけることをしている人もいるのではないでしょうか。

叱責がもたらすもの

実は、叱ることの是非を考える上で参考になる研究があります。

それは、米ジョージタウン大学のクリスティーン・ポラス准教授らによる研究で、

厳しい言葉でメンバーを叱るなどすると、当人やチームのパフォーマンスにどう影響するか

といったことを検証した実験です。

ちなみに元文では「rudeness(無礼な振る舞い)」と書かれていますが、これは要するに、

「報連相ができないなんて社会人としてなってない」
「遅刻をするなんてたるんでいる証拠だぞ」
「言い訳をするな、17時までに何とか完成させるんだ」

といった、少し厳しい表現で相手のおこないをただす軽い叱責のことです。

くわしくは読みたい人、下記リンクからどうぞ。

では、検証結果をざっくりと紹介しましょう。

①思考力の低下

まず、叱責された人は思考力が低下します。

例えば、タスクの優先順位をつけたり、何かの判断をおこなったり…といった行動が軒並み上手くできなくなります。

②創造力の低下

また、ブレストなどでアイデアを出すことも上手くできなくなります。

③生産性の低下

作業スピードが落ち、生産性が低下します。

④意欲の低下

主体的に仕事に取り組む意識が低下し、意欲がなくなります。

⑤協調性が低下

周りの人に相談したり、協力して取り組んだりする意識が低下します。

⑥目撃者も同様の状態になる

さらに興味深いことに、叱られている人を見た周りのメンバーも、①~⑤と同様の状態になるそうです。

叱責は百害あって一利なし

驚いた人もいるでしょうが、上記から分かるとおり、実は叱責という行為は百害あって一利なしと言っても過言ではないんですね。

「多少ピリッと緊張感があった方がチームの士気が上がる」という感覚は、ただそんな気がしていただけ。
実は士気が下がっていたんです。

あなたが教育のためにおこなっていた叱責が、かえってチームのパフォーマンスを落としている可能性が高いのです。

なので、今すぐにでも部下やチームメンバーへの叱責はやめるべきです。

…と言われたところで、それでも「うーん…」と思う方が一定数いるでしょう。

なぜ人は叱ってしまうのか?

「叱責にマイナスの効果しかないという研究があるのは分かった。でも、それでも立場的に叱らざるをえないし、実際、叱りつけて行動が改善されると効果があるように感じるんだよなぁ」

きっとそう感じる人が多いと思うんですよね。

あるいは、
「過去にもこういう記事を読んで叱らないように気をつけたんだけど、やっぱりどうしても叱らないといけない場面が出てきちゃうんだよなぁ」
という方もいることでしょう。

なぜ人は「叱責は必要」と考えてしまうのでしょうか?

認知バイアスがかかっているから

まず一つは、認知バイアスがかかっているからです。

認知バイアスとは、先入観や経験則で非合理的な判断をしてしまうこと

「自分も若い頃は叩かれて育ったから有効なはずだ」
「監督者・教育者として立場的にやる必要があるはずだ」
「罰を与えることでチームが引き締まるはずだ」
といった考えは、いずれも認知バイアスです。

いきなり自分の経験則と真逆のデータを示されても、人はどうしても経験則の方を信じてしまうものです。

叱ることが快感だから

もう一つ人が叱ってしまう理由として、叱ることがストレス解消になることも挙げられます。

叱責、すなわち、誤りを犯した人に罰を与える行為をおこなうと、人は脳内でドーパミンが放出されて強い快感を感じるんです。

なので、叱責をする側はとても気持ちがいいんですね。

そして叱責には依存性があります。
つい口寂しくて気付くとタバコに火をつけてしまう喫煙者のように、ストレスが溜まるとつい人を叱りつけてしまいます。

叱責の依存性については、下記の書籍が参考になると思います。

叱責の代わりにやるべきこと

では、叱責することがマイナス効果にしかならないのであれば、

  • 言われたことが言われたとおり出来ない

  • 何度も同じ指摘を受けているのに改善しない

  • 筋を通さずに自己主張をする

  • 指示を待つばかりですぐサボる

といった頭が痛くなるような部下に対して、どのように指導をしていけば良いのでしょうか。

対人以外でストレスを解消する

まず部下と向き合う以前に、自分自身と向き合う必要があります。

知らずのうちに叱責依存に陥っていて、イライラすると厳しく言ってしまうのであれば、そのストレスの矛先を人以外に向けましょう。

どれだけ理性的に叱っているつもりであっても、それが有効だと感じてしまっている時点で認知バイアスと依存のコンボがキマっている状態。

そんなにストレスを感じていないにしても、自分自身の状態とは注意深く向き合うべきです。

他者への理解を深める

人は理解できないものに対して強い不安を感じます。

そして不安から、つい
「そんなのはありえない」
「常識的に考えておかしい」
と他責する方向に心が動いてしまいます。

とりわけ、部下より人生の先輩であることが多い上司の場合、より強く他責の気持ちが働き、日常的な叱責へ繋がる可能性があります。

たしかに我々を取り巻く環境はこの10〜20年で劇的に変わっています。
数年生まれが違うだけで人生観、仕事観、家族観などはもちろんのこと、もはやコミュニケーションスタイルまで全然違うかと思います。

なので、かつてと比べると理解できない人が増えたのはあなただけの問題ではありません。

ですが、その理解できなさに向き合わないことには、誰もが最大限力を発揮できる部署やチームは作れません。

部下の言葉に耳を傾ける

「対人以外でストレスを解消する」
「他社への理解を深める」
とここまで二つのアクションを紹介してきました。

が、これらはこれまで築き上げた自身の価値観をぶち壊す行為なのでとても難しく感じる人もいるでしょう。

そんな方にまずやっていただきたいのが、まず相手の話に耳を傾けること

「それは間違っているぞ!」
「なんでそんなことをしたんだ!」
と頭ごなしに言ってしまいところを一度グッとこらえて、

「とりあえず話してごらん」

と耳を傾ける。

これは言葉だけではなく、
絶対に何も口を挟まないということを態度で示すこと
が大事です。

互いにリラックスした状態で、笑顔を見せながら聞く。

これだけで心理的安全性が担保され、部下によっては報連相を積極的におこなうようになったり、主体的に動けるようになったりする可能性があります。

部下の考えや行動を受け入れる

そして、耳を傾けた後はただちに問題を指摘するのではなく、まず相手の考えや行動を受け入れましょう。

「いい大人なんだからそこまで気を遣わせないでくれ」
「こっちは忙しい中で端的にフィードバックを返したいんだ」

そう思う人もいるでしょう。

ですが、それは信頼関係が築けている人にだけやるべきです。

端的に論点だけを伝えるという、ビジネス的に当たり前のやりとりは信頼関係なしにおこなえないのです。

なので、まず信頼関係を築くためにも、叱責せずに耳を傾け、部下のやったことを受け入れるよう努めましょう。

大事なのは、たとえどんなに甘い考えや問題のある行動だったとしてもいったん受け止めること。

ほとんどの人間は悪意があってその考えや行動をしているわけではありません。(無法地帯のヤンキー高校みたいな職場なら別ですが)

自分で考えて答えを出す練習をさせる

さて、ここからがようやく指導らしいアクションになります。
実はここまでは指導をするための土台(関係性構築)の話をしていました。

人材育成は関係性構築が9割です。
指導は1割でいいんですね。
(叱りつけがちな人は、逆を返すと「頑張って指導しようとしている」と言えますね)

指導の肝は、
自分で考えて答えを出す練習をさせること
です。

キャリアアップとは、すなわち裁量権を得ることです。
裁量権を得られる人材になるためには、必ず自分で考えて答えを出すスキルが必要になります。

わりとありがちなのが、関係性構築が出来ていない部下に
「自分の頭で考えろ!」
と言ったのにも関わらず、いざ部下が自分なりに考えて行動すると
「なんでそんなことも分からないんだ!」
と叱責してしまう流れ。

これをやったところで、いつまで経っても自分の頭で考えて行動できる人材には育ちません。

関係性構築をしっかりしたら、あとはヒントを渡して「自分なりに考えてやってごらん」と伝えること。

もちろんヒントを渡したからといってすぐに出来るようになるわけではないでしょう。
それゆえに、やきもきすることもあるかもしれません。

ですが、そこは辛抱強く見守ってあげてください。

そうすればきっと、自分なりに考えて行動し、自ら結果報告をおこない、自発的にフィードバックを求め、改善プランを提示する…というPDCAサイクルを自ら回せるようになっていきます。

もし記事を読んで少しでも思うところがあった方は、ぜひこれを機に、

叱責→指導→さらなる叱責

という悪循環を脱し、

傾聴→受容→ヒント出し→見守り

という好循環を構築してみてはいかがでしょうか。

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