大晦日に食う駅弁。
仕事納め、冷え切った大晦日の朝、街は静かで、駅に人はまばら、電車もガラガラ。
世間の空気は年末一色…なのだろうか。
年末年始の連休などなく、朝、職場から帰宅する僕には今一つ実感が湧かない。
まあ年末感に限らず時節のイベントの「感」なんて毎年薄れていっているけど。
「何か帰省とかする感じを味わってみたい」
現実からの逃避、ふとそう思った。
職場の最寄り駅、そういえば駅弁屋があったな。
一つ買ってみるか。
シウマイ弁当とお茶を買い、帰りの電車に揺られる。
流石に車内で食べるのは憚られるが、かといって家で食べるのでは本末転倒だ。
考えた結果、自宅の最寄り駅のホームで弁当箱のフタを開けることにした。
ただでさえ下車する人がほとんどいない駅だ、大晦日ともなるとまるで人がいない。
ホームの端のベンチへ腰かける。弁当の蓋を開け、シウマイを口へ運ぶ。
美味い。冷たくてもしっかりと美味い。
しかし、
「寒い」
時刻は既に昼前といった頃合いだ。乗降者数の少ない駅のラッシュ後、年の瀬ということもあってホームに人はいない。
車両基地を兼ねた駅ということもあり、目の前に広がるのは車両のない広大な線路線路線路…。
ゴキゲンな快晴の空模様とは裏腹に、人が集まるはずの駅は無人、列車が走るはずの大量の線路の上も空っぽだ。
その空っぽの空間を吹きすさぶ北風も厳めしい、誰もいないはずの空間にいる僕の存在を咎めているように。
孤独。
孤独の味がするシウマイ弁当である。
280mlのお茶の温かみはとうに失われており、飲んだだけ身体が余計に冷える。
「…帰ろう」
年の瀬に家族の元へ帰省し、こたつでみかんを食べ、談笑しながら代わり映えのないバラエティ番組を観ることの出来ない仕事を選んだのは他ならぬ僕なのだ。大晦日に帰省感を味わおうなどと思ってはいけなかったのだ。
…というか、冷静に振り返ってみれば僕は本当に帰省する時の電車の中でさえ、駅弁を食べたことはなかったのである。
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