残酷な真実より、優しい嘘を(最近読んだ本)/6月17日~7月1日
・ディック・フランシス『興奮』
元祖ウマ娘。嘘です。「競馬シリーズ」の代表作。
おもしろいんだけど、スリラーって感想が難しい。本格ミステリと違ってトリックのできをうんぬんすることができないから。いや、おもしろいだけでいいのか。エンタメだから。ということで、おもしろかったです。
・紺野天龍『神薙虚無最後の事件』
これはブチ上がる本格ミステリ。
帯が奈須きのこ。
米澤穂信さんが「古典部シリーズ」の中で似た試みをしているが、どちらもまったく異なるアプローチでドラマにからめているのが興味深い。
紺野天龍さんは電撃文庫出身ということで、いろんな意味で「ライトノベルらしさ」を保ったままで、自身の本格ミステリを作り上げているのが大変に好印象。
「残酷な真実より、優しい嘘を」とでも言うべき思想が作品全体を貫いている。だからこそ、多重推理の中で真打ちが「さあ、幸せになる準備はできています」と”残酷な真実”を見事に粉砕する様子に胸がすく。オススメです。
・知念実希人『硝子の塔の殺人』
野心的な試みだと思う。探偵の造形には少々疑問符。
・斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』
「2度ひとを殺せば天使によって地獄に落とされる世界」を舞台にしたクローズドサークルの本格ミステリ。トリックうんぬんより(トリックもおもしろいが)、探偵の過去のエピソードがそれだけで独立したスピンオフを読みたいくらいに魅力的。
・円居挽ほか『円居挽のミステリ塾』
相沢沙呼さんと麻耶雄嵩さんのパートがおもしろい。
本格は努力。
・呉勝浩『爆弾』
超オススメ。
いわゆる、”無敵の人”が連続爆弾テロによって都下を地獄に落とすお話し。
爆弾魔・スズキと捜査官の取調室での対話が軸に話が展開していくのだが、スズキが捜査官たちの価値観を揺さぶり、隠された人格を暴いていく過程がすこぶるスリリング。
物語の中には「命の価値は平等か?」というセンシティブなテーマが伏在するが、それをSNS的な意味での”弱者男性”が鋭く突いてくることが恐ろしい。情けないジョーカーという感じ。そういえば、『ダーク・ナイト』にもトロッコ問題的なシチュエーションがあった。
・東野圭吾『容疑者Xの献身』
再読。「いちばん好きな小説は?」という問いにはその都度の気分で答えるが、もっとも高確率で名を挙げる作品――それが、『容疑者Xの献身』。
まったく無駄のないエピソード運びには惚れ惚れするばかりだが、「警察の捜査の目をかわすため」に、アリバイトリックが○○トリックに変貌するXの策略と、二段構えの計画は緻密のひと言。完璧な犯罪計画を崩す唯一の方法が現れるラストもやはり切ない。読み返してもやっぱりすごかった。
・鶴見済『完全自殺マニュアル』
しませんよ。
資料本として読んだ。
・原尞『そして夜は甦る』
再読。やはり傑作。
切れ味抜群の会話劇もさることながら、入り組みまくったプロットにもあらためて驚かされる。
読んでから感想を書くまでに間があくとけっこう忘れてることに気づかされる。やっぱり鮮度は大事。
(終わり)
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