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高木彬光『人形はなぜ殺される』がすごすぎて、すごさがいまいちピンとこなかった。/2020年1月10日


『刺青殺人事件』がおもしろかったので、つづけて同じ著者の代表作を読んだ。

高木彬光『人形はなぜ殺される』(光文社文庫)

「日本の本格ミステリといえば?」と問えば、わりとはやい段階で名前があがる作品。それくらい知名度があり、ぼくもずっと存在を知ってはいた。

3つの殺人事件が起きるのだが、いずれも事件が発生するまえに、まったくおなじ状況で人形がひどい目に遭ったり、被害者の生首の代わりに人形の生首が置かれていたりする。

そのうち最大の謎として探偵と読者に突きつけられるのは、2つめの事件――人形が列車に轢断された後、おなじ場所・おなじ状況で女性が列車に轢断されるというケースであろう。

なぜ人形は殺されねばならないのか。それは事件の予告なのか、なんらかの見立てなのか、あるいはただの趣味のわるいイタズラなのか。さらに、最有力容疑者には、鉄壁のアリバイもあって――。

アガサ・クリスティの『そして、誰もいなくなった』以降、本格ミステリにおいて、「見立て殺人」はジャンル化したといっていいだろう。

「見立て殺人」とは簡単にいえば、童謡や言い伝えなど、なんらかの事象に事件自体を見立てて進行していくジャンルを指す。
『そして、誰もいなくなった』でいえば、マザーグースの歌詞どおりに殺人事件が進行していった。

なぜそんなことをするのか。
理由はさまざまあるが、見立てのどおりに殺人が進んでいくことで、残った生存者たちに恐怖を与えたり、なんらかの先入観を読者に与える効果などがあげられる。

しかし、本作でいえば、「人形が殺されることに見立てや、犯人からのメッセージは考えられない」と、わりとはやい段階で宣言される。もっとシンプルなわけ。つまり、人形を殺すことにもっと即物的な理由があると宣言される。

その一点突破で、物語は進む。

そしてたしかに、人形は殺される必要があった。謎が解明されたとき、盲点を突き刺すあまりの技巧に思わず、「うぉぉ」と変な声がでてしまった。なんか鮮やかすぎて、かえってそのすごさがスッと腹落ちせずに、あんまり素直に驚けなかったくらいだ。それはひとえに、ぼくの読解力不足による。

というわけで、大傑作であることは認めつつ、個人的にはもっと素直に驚けた、著者のもうひとつの代表作『刺青殺人事件』のほうが好みだなあと思った。

いや、なんかディスってるみたいになりましたが、アリバイ崩しものとして、まちがいなく傑作中の傑作なので、読んだほうがいいですね。

(終わり)


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