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【ライブレポ】はじめてのサカナクション(アダプトツアー大阪2日目)

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2021年12月22日。
待ちに待った日がやってきた。私にとって初めてのサカナクションのライブ参戦日。
『SAKANAAQUARIUM アダプト TOUR』大阪城ホール2日目。

この日を無事に迎えられた。その嬉しさを噛みしめながら朝はいつも通り仕事へ行く。
いつも通りすぎて、私このあと本当にライブに行くのかな?って、いまいち実感が湧かないでいる。
職場の人たちも、私がこのあとライブに行くだなんて思いもしないだろうなぁ……なんてことを考えながら業務をこなした。

仕事を終えて帰宅したのが16時頃。遅めのお昼ごはん(おにぎり)を食べて、夫に子どもたちを託して駅へと急ぐ。一緒に参加する友人もちょうど、仕事を終えて会場へ向かっているところらしい。

電車に揺られること十数分、大阪城公園駅へ着くと蛍光オレンジのメッシュバッグ(今回のツアーのグッズのひとつ)を持った人たちがちらほらと目にとまった。
久しぶりの人の多さと、非日常感、何よりこれから始まるライブへの期待でじわじわと緊張が高まっていく。
いよいよだ。でも、始まったら終わってしまう。しっかり目と耳と心に焼き付けよう……。

その後、友人と合流。
専門学校時代からの友人とは10年以上の付き合いがあるけれど、一緒にライブに行くのは初めて。新型コロナウイルスの蔓延やそれに伴う緊急事態宣言などもあって、会うのもほぼ2年ぶりだった。
たまたまLINEで「最近サカナクションにはまってるよ」という話をしたところ、友人も同じだということが判明して盛り上がり、そんな折に発表されたリアルライブツアーということもあって「一緒に行こう!」という話になったのだ。

友人と合流する頃には開場、そして入場を促すアナウンスが始まっていて、久しぶりの再会を喜びながらもホールへと流れていく。
途中、物販でグッズも購入。友人はタオル、私はタオルとショックキャンディ(詳しくは後述)
売り場では『エンドレス』が流れていた。エンドレス好き。

紙ではなくスマホに表示される電子チケットで入場し、アルコールスプレーで手を消毒する。
二人で右往左往しながらも無事座席へ。そういえば、大阪城ホールでのライブ参戦も久しぶりだ。8年ぶりくらい。

座席はスタンド上手側の2階席。
でも、決して遠いということはなくむしろ近いくらい。列だけなら、アリーナの最前と変わらないほど。
この後始まるライブにて、結果的にこの席は斜め横からステージ上のメンバーの姿も、演出もモニターも、アリーナで跳ねる魚民さん(サカナクションリスナーの俗称らしい)も、飛び交うレーザーも全部見渡せる最高の席となる。

友人とともにコートを脱いで、先程買ったばかりのタオルを開封して首にかけた。
緊張からか、夕方に慌てて食べたおにぎりの影響か、お腹(胃)が痛い。ライブ中にもし倒れたらどうしようなどと余計な心配をしつつも会場内をゆっくりと眺める。
ステージには大量のスモークが焚かれていてはっきりとその全貌ははうかがい知れないものの、奥で静かにそびえ立つ「何か」が異様な空気を放っていた。

今回の『アダプトツアー』は前提として、来春3月30日リリース予定のアルバム『アダプト』と、その後リリースされる予定(リリース日未定)のアルバム『アプライ』と、2つで対となるアルバムへ向けてのプロジェクトの一環のような感じで。
リリースしたアルバムを引っ提げてのライブではなく、先にライブで新曲たちを披露するという新しい試みが成されている。

さらには今回のツアーの特色として、『舞台×MV×ライブ』をコンセプトに進行していくというのがあって。
オンラインライブ同様、総合演出を田中裕介監督が担当。
そして、今までにも『光ONLINE』や『NFLR』などのオンラインライブの演出に携わってきたRhizomatiks(ライゾマティクス。以下、ライゾマさん)の参加。
『舞台』要素としては、女優の川床明日香さんが出演することが事前にアナウンスされていた。

第1章、アダプト=適応
第2章、アプライ=応用

というシリーズ構成で、変化の激しい世の中にミュージシャンとしてどのように“適応”してきたのか、していくのか。そしてどのように時代に“応用”していくのかを、サカナクションなりに表現していく壮大なプロジェクトとなっている(という解釈でいいのかな)

こちらはサカナクションのギター&ボーカル、山口一郎さん(以下、一郎さん)のツイートより。


また、10月〜11月にかけて行われた4週連続ライブ配信(YouTubeにて、アーカイブなしの完全無料配信)も、今回のツアーの大きな伏線(主にセットリストにおいて)になっていたのだと今となっては思う。
それぞれの内容は以下の通り。

▶︎10/23  SAKANAAQUARIUM 2011(幕張メッセ)
   ※アルバム『DocumentaLy』より

▶︎10/30  SAKANAAQUARIUM 2013(幕張メッセ)
   ※アルバム『sakanaction』より

▶︎11/06  SAKANATRIBE 2014(東京ドームシティホール)

▶︎11/13  SAKANAAQUARIUM 光 ONLINE


さらに、アダプトツアーに先駆けて行われたオンラインライブ『アダプトONLINE』もまた今ツアーの伏線になっていた。
私自身はこの配信を見ない選択をしたものの、キタガワさんが書かれたライブレポでアダプトONLINEを疑似体験していたためなんとなくのイメージは出来上がっていたし、リアルライブではそのイメージの答え合わせをするような感覚でもあった。


そして、アダプトツアーのセットリストについて「アダプトONLINEとほぼ変わらない」という一郎さん自らの爆弾発言…… もとい証言もあったのでその心づもりでもいた。 


結果的に、まだ知らない曲も多い初心者の私でも最高のコンディションでライブに臨むことができたんじゃないかと思っている。
(もちろん、全くの前情報なしに観てもそれはそれで楽しくて、新鮮な衝撃を得られたと思う)


そもそも私がサカナクションに興味を持ち始めたのは今年の1月のことだった。
愛読している音楽ブログ『キタガワのブログ』にて紹介されていたサカナクションの『アルクアラウンド』にはまり、さらにその『キタガワのブログ』のキタガワさんがTwitterでリツイートしていた『SAKANAAQUARIUM 光ONLINE』というオンラインライブの配信をたまたま(ほとんどの曲が初めましてな状態で)観て聴いて衝撃を受けて、本格的にのめり込んでいった。それが5月。

その後発表された新たなオンラインライブ『NF OFFLINE FROM LIVING ROOM』(一郎さんの自宅からの配信ライブ)では、チケットを購入するか迷っている私の背中をアメブロで長年の付き合いのあるフォロワーさん(※NF深海メンバーさん)が優しく押して、さらなる深みへと連れて行ってくれた。
※NF member……サカナクションのファンクラブ

そして、この日一緒にライブに参戦した友人。
彼女が「一緒にライブ行こう」と言ってくれていなければ、私は今回のツアーへ申し込む勇気が出せていなかったかもしれない。いろんな意味で。

この3人がいたから、私はここまで来られたのだ。本当に、感謝している。
そして、ライブへ行く私を快く送り出してくれた夫と、夫とともに留守番を引き受けてくれた子どもたちにも。


開演時間が近付くにつれ、徐々にスモークの霧が晴れてきた。
するとステージの奥に鎮座していた巨大な建築物、通称『アダプトタワー』がその姿を現す。
約13メートル、4階建てビルに相当するという高さのその建築物は、コンクリート打ちっぱなしのようなひんやりとした質感の外壁に、複雑な形。
無機質で、寂しそうで、少し怖い……そんな雰囲気を漂わせている。

やがて客電が落ちて暗転。
いよいよ始まるライブへの期待を胸に、次々に観客が立ち上がった。
工場や、重機のような鈍くくぐもった音が響き渡る中、アダプトタワーのてっぺんで白いライトがぐるんぐるんと回って客席を照らしていく。
まるで何かを監視でもするかのように巡回するライトがこちらを向く度に、目を合わせてはいけないような、見つかってはいけないような緊張を覚えた。映画かゲームの世界に迷い込んだかのようだ。

ふとアリーナ席を見ると、深い青色の照明が全体に広がっていた。
どこからともなく音の波が押し寄せて、徐々に身体を包み込んでいく。
パッとステージが照らされた瞬間、そこにサカナクションの5人がいた。
一郎さんが、両手を天に伸ばし光を仰いでいる。
今まで、スマホの小さな画面で何度も見てきた光景だ。
目の前にいる。本当にいる。思わず、泣きそうになる。涙が出る代わりに、体温がじわっと上がったのを感じた。

『multiple exposure』
アダプトONLINEでもオープニングを飾ったこの曲が、リアルライブでも開幕を担った。
光ONLINEでいうところの、『ワンダーランド』のような神々しさが会場を包んでいて。光と音が波のようにホール内に広がる幻想的なオープニンで一気に世界観に引き込まれた。

「……背につたう 腕につたう」

一郎さんの最初の一声が身体に沁み渡る。
この瞬間、今日のライブが素晴らしいものになることを確信した。

メンバーの衣装はアダプトONLINEのときと同じで、黒ともグレーとも言い難いニュアンスの色。
もしかして、グッズのスウェットと同じスモーキーカラーなのかな。
特に岡崎英美(ザッキー)さん(key.cho)の衣装はフリルがたくさんで可愛いのだけど、岡崎さんのオーラやスタイリングも相まってスチームパンク的なカッコよさも醸し出していたのが印象的。

そう生きづらい 
そう生きづらい
そう言い切れない 僕らは迷った鳥
そう生きづらい 
そう生きづらいから 祈った 

『multiple exposure』は、4週連続ライブ配信で初めて聴いて知って、〈そう生きづらい そう生きづらい〉という歌詞がとても印象に残り、その後サブスクでも繰り返し聴いていた曲。

個人的に、一郎さんが歌う日本語の歌詞はときどき英語に聴こえることがあって。
例えばこの曲なら、〈そう生きづらい〉が〈so it is right〉と聴こえる……気がする。意図的だったりするのだろうか。
そう生きづらい、生きづらいよね。でも大丈夫。そう歌われているような気がして、安心する。

音に身を委ねてたゆたっていると、つづいて演奏されたのは来春リリースされるアルバム『アダプト』に収録されるであろう新曲のうちのひとつ、『キャラバン』

ステージの左右に設置された大きなモニターに、スモーキーブルーの半袖ワンピースを身に纏った川床明日香さんが映し出される。
ガスのようなものが充満する部屋に閉じ込められているらしく、出口を探すも見つからず、逃げられず、不安で泣き出しそうな川床さんの表情に釘付けになる。
囚われの部屋はおそらく彼女の心の中で、何かから逃れられない恐怖や閉塞感といった精神状態を映し出しているように感じた。
ステージではもちろんサカナクションのメンバーが演奏をつづけていて、モニターとステージどちらを見たらいいのか悩ましい。
モニターの川床さんに見入っていたら、いつの間にか一郎さんが上手側の端まで歩いてきていて、周りの人たちが手を振るのを見て慌てて私も手を振る……ということが何度かあったり。

曲の印象は朧げながらも、どちらかというと明るめ(?)だったような気がする。それだけに、不安そうな川床さんの表情とのギャップが「いい違和感」(※一郎さんがよく用いる言葉)となって惹きつけられた。


あっという間に3曲目、『なんてったって春』へ。
なんとなく『キャラバン』から時間が巻き戻ったような、過去の回想シーンみたいな印象を受ける曲だった。
だんだん大人になっていくことへの戸惑いのような。一郎さんがよく(?)語るモラトリアム感のような。
アリーナ席の魚民さんはすでに思い思いに跳ねている。スタンド席の魚民さんはまだ少しノリ方を伺いつつも、徐々に上がる拳の数も増えていった。
ちなみに私はライブで拳を上げるときいつも左手で。私の右隣にいた友人は右手、私の左隣にいた女性も右手。
左隣の女性の手の動きはよく見えたけれど、右隣にいる友人の手の動きは視界の端ギリギリくらい。それでも、友人が思いのままに拳を上げて楽しんでいるのがちらりと感じ取れた。そういうのもリアルなライブならではで、うれしいし、楽しい。
モニターでオイルアートの映像演出があったのも、この曲だったかな。


4曲目は『スローモーション』
川床さんが、アダプトタワーの2階にあるベンチに腰かけている。と、そこへ何かがふわりふわりと降ってきた。雪だ。ほんもの……?(すごい)
その雪を虚ろな目で追う川床さん。
ちなみに雪はアリーナ最前辺りにも降り注いでいて、正直ちょっと触ってみたいな〜と思いながら2階席から眺めていた。

降り落ちる雪はスロー
少し黙って僕はそれを見てた

歌詞の世界観を忠実に再現するかのような演出と、川床さんの演技力に引き込まれる。
川床さんは雪に手を伸ばしたり、おもむろに傘をさしたりして、その一つひとつが絵になる美しさだった。
雪が降る中でも彼女は半袖ワンピースのままで。そのちぐはぐさがより一層、彼女の心の孤独さを表しているように感じられた。

ところでこの曲のサビの歌詞を私は
〈いけない 辛い 辛いといけない〉
だと思っていたのだけれど実際には

〈行けない つらりつらりと行けない〉
だと後から知った。どちらにしても、いい歌詞だな。
(前者は、本当はつらいんだけど「つらい」って言っちゃいけないって強がって自分に言い聞かせてる感じがして、あぁ、なんか分かるなぁって思ってた)

間奏のノイズが効いたギターがカッコよくて、「サカナクションってこんな音も出すんだ!」と衝撃を受けたり、〈だんだん減る〉からの5人の合唱に圧倒されたり。
サカナクションの曲によく組み込まれる「合唱」が私は大好きなのだけど、初めての生合唱はそれはそれは壮大で心臓にズシンと響いた。


つづいて、『『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』』ではイントロで友人と顔を見合わせた。
というのも、ライブの数日前に友人とのLINEのやりとりで話題になっていたから。
この曲のMVが面白いよーという話から始まって、でもちょっとシュールで怖いねとか、4週連続ライブ配信のときにこの曲でみんながやってた振り付け(MV参照)はこれだったんだ!とか。


ライブでは、サビで実際にその振り付けを一緒にすることができてとても楽しかった。
山口人形(MV参照)も出てくるんじゃないかとちょっと期待したけれど(アダプトONLINEには登場したようなので)、今回は出てこなかったな。
途中の岡崎さんのピアノかっこよかった!
……ふいに一郎さんがステージ後方へと消えたと思ったら、オリジナルアレンジで次の曲『月の椀』へと繋ぐ。

新曲のひとつ『月の椀』はCMソングにもなっていて、サビのキャッチーな歌詞とメロディーが印象的だったけれど、〈気になりダンス〉だと思っていた歌詞が〈気になりだす〉だということを後に知る。

先程、ステージ後方へと消えた一郎さんがステージ下手側にある小さな部屋の中に現れた。
ウォーキングマシンの上を歩きながら、カメラに向かって歌う一郎さん。
モニターにはそんな一郎さんの上半身をリアルタイムで投影し、風景のような映像と組み合わせることでまるで即席MVのような仕上がりになっていた。
そしておそらく、ウォーキングマシンで歩いている一郎さんの姿は私たちがいる席の反対側……つまりスタンド下手側前方にいる人たちには死角となって見えていない。だから、一郎さんがどこにいるのか分からないままモニターを見つめていたんじゃないかと思う。
そこで気付いたのだけど、もしかすると上手側の死角となる部分にも同じような小部屋があったのかもしれない……?
『キャラバン』のときにモニターで見ていた不安そうな表情の川床さん。彼女が閉じ込められている部屋はどこだろう?彼女は今どこにいるのだろう?これはただの映像?と不思議に思っていた謎が解けたような気がした。
もちろん、実際にどうだったのかは分からないので間違っているかもしれないけれど。アリーナ席やスタンド後方の席からは全部見えていたのかな。


つづいて『ティーンエイジ』では、アダプトタワーを赤い光が縁取るように這っていく。思わず、タワー光るんだ!と驚いたのだけれど、それについてはまた後述。
イントロに合わせて赤い光がタワーを這う様はカッコ良くもあり、恐ろしくもあり。
ステージや天井にも赤いレーザーが駆け巡って様々な模様(?)を成していた。

いきり立ってる 君の目の前で
石を蹴って 青くうつむいて
時がたって すぐに大人になって
さらけ出せなくなって 
もう戻れなくなって

「〜って」という歌詞の繰り返しに感情を畳み掛けられ、間奏……というかアウトロに差し掛かったところでこの曲の演出が本領を発揮した。
先程『月の椀』で一郎さんがウォーキングしていた部屋に今度は川床さんがいる。そして、カメラに向かって叫んだり、狂気を孕んだ笑顔を見せ、それがモニターに激しく切り替わりながら映し出された。
怒り、悲しみ、苦しみ……、いろんな感情が入り乱れもがき苦しむ様子に一郎さんの苦しそうな表情も重なって、胸を掻きむしられるような感覚になる。

「変わりたい」「抜け出したい」
そんな、何かの狭間で揺れる彼女の葛藤が痛いくらい伝わってきて今思い出しても胸が苦しくなってしまう演出だったけれど、目を背けられない切実さがライブ後もずっと心の奥に居座りつづけている。


僕が覚悟を決めたのは 庭の花が咲く頃

静かに、呟くように一郎さんが歌い出した瞬間、まさかこの曲が聴けるなんて……と息を飲んだ。
ちょうどライブの前日のこと、Twitterでたまたま「amazarashiの『僕が死のうと思ったのは』とサカナクションの『壁』は同じ世界観の曲なのかもしれない」という旨のツイートを見かけて、『壁』ってどんな曲だろう?と聴いていたのだ。
そのツイートがライブのセットリストにかかわるネタバレ系のツイートだとは思いもせず、またアダプトONLINEのセットリストにも『壁』は入っていなかったため、本当に予想外だった。
ちなみにアダプトONLINEではこの位置に『雑踏』が組み込まれていたようだ。

『ティーンエイジ』と同じく、小部屋で川床さんが虚ろな表情で立っている。
机の上に四角いブロック石のようなものを敷き詰めていく川床さん。その石はモニターの映像にも反映されて、次第にモニターの中のサカナクションメンバーを覆い隠していく。ついには最後のブロック石が一郎さんの姿を完全に埋め尽くしてしまった。
アダプトONLINEにおける『雑踏』でも同じような演出があったらしい。
それにしても、歌詞の内容は息が詰まりそうなのにこの曲のリズムは心地良いな……。何か、静かな決意のようなものを感じる曲だった。


そしてここにきて、『目が明く藍色』
正直、『壁』から『目が明く』までの間に彼女(川床さん)の心境にどんな変化があったのかと。私には、急展開すぎるように思えて今はまだ汲み取ることができないでいる。いつか分かるかな。

『壁』の〈僕が覚悟を決めたのは〉という歌詞からは「死」への覚悟を彷彿とさせるけれど、さまざまな葛藤を経て「生」への覚悟へ変化していったんだろうか。
他の人たちがどんなふうに感じたのか知りたい。
(でもこの曲順、アルバム『kikUUiki』と同じ流れでもあるんですね。あとから気付きました)

あと、本編とは関係ないのだけれど…… 
この曲の合唱パート、〈メガアクアイイロ〉と繰り返す部分。最後だけ〈メガアカイイロ〉だったんですね。今気付いた。

制服はもう捨てた
僕は行く 行くんだ
悲しみの終着点は
歓びへの執着さ
藍色の空が青になる
その時がきたら
いつか いつか


〈いつか……〉からの「タメ」部分で、会場が一体となって一郎さんの声に耳を傾けている様子が、その空気感がとても神聖で心地よかった。

〈君の声を聴かせてよ ずっと〉
からのラララの大合唱は、まるで映画や小説のクライマックスのようなカタルシスに包まれていて。
もちろん観客側は歌えないので、歌っているのはサカナクションのメンバーだけ。
でも、みんなきっと心の中で精一杯歌っていたし、本当に声が聴こえたような気さえした。

モニターには、いろいろなしがらみが剥がれ落ちて解放された笑顔で駆ける川床さんの姿が。
「目が明く」は、「夜が明く」でもあるのかな。
世界に色がついて景色が広がるような、夜明けのような歌だと思った。
最後はステージへと歩いてきた川床さんが一郎さんと手をつなぐ。映画のような感動的なシーンで幕を閉じた。


……ここまでが「第一部」のような感じで、『舞台×MV×ライブ』のコンセプトで言うところの「舞台とMV」がメインの構成だったように思う。

ここから後半にかけてはザ・ライブ!
ノンストップのハイカロリー曲がつづく展開に。
まるで光ONLINEでの『ボイル』以前と、『ボイル』以降のよう。

まずは、歌唱なしでサカナクションの5人が横並びになって卓を操るダンスミュージックタイム。
5人横並びでおそろいのサングラスを装着して演奏するこのスタイルは、サカナクションのライブにおいて恒例らしい。
初めてそれを観たのは光ONLINEでの『ミュージック』で。
そして、4週連続ライブ配信でも必ず1曲、このスタイルで演奏する曲があった。

余談だけれど、その頃の私は毎週サカナクションのライブ配信を見ていたからか、職場でおにぎりが5つ横並びになっているのを見ただけで「わぁ、サカナクションみたい!」と思うようになってしまった。
この絵はそのとき描いたもの。
私には、おにぎりがこう見えた。

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今回演奏されたのは、2011年にリリースされたアルバム『DocumentaLy』より、『DocumentaRy』のアレンジバージョン。

この曲のとき、音響による潜り具合が特にすごかった。
今回のライブでは、通常よりもスピーカーの配置箇所を増やして音響的な死角をなくすことを目指したサカナクションオリジナルのサウンドシステム『SPEAKER+(スピーカープラス)』が初導入されている……ということは事前にアナウンスされていて。
一体どんな音響を体験できるんだろうとワクワクしていた。
とはいえ、そもそも私はサカナクションのライブは初だし、ライブ自体も久しぶりで、自分に音の良さや違いが分かるのかなぁという気持ちもほんの少しだけあって。

結論から言うと、何かや誰かのライブと比べて……と言うよりも純粋に「音がすごい」という感動を味わえた。
全方位音に包まれて、生まれて初めて本当の音の海を知った稚魚のような気持ちになったり。ドラムやベースの音は、スタンド席にいても心臓に響く感覚まであった。でも、耳鳴りがするような刺激的な音ではなくて、本当に音に包み込まれるような感覚。すごい。

演出も凝っていた。
『ティーンエイジ』のときのようにタワーの縁が色とりどりに光っていて、「赤以外にも光るのね」なんて思っていたけれど、間違い。
よく見るとPA席からレーザーのようなものが伸びていて、つまりプロジェクションマッピングされていたのだ。「ライゾマ(Rhizomatiks)さんだ!」そう気付いた瞬間の興奮と言ったら。 
音と光の海に存分に浸かることのできる極上の時間を味わった。

つづいて、お馴染みの緑色のレーザーが客席の上部を突き抜ける『ルーキー』
アリーナ席の魚民さんが挙げた手のひらにレーザーが当たっているのか、ところどころ客席がキラッと緑色に光るのがまた綺麗で。
あと、光ONLINEなどで観てお気に入りとなった太鼓タイム。ギターの岩寺基晴(モッチ)さんとベースの草刈愛美(あみちゃん)さんが髪を振り乱しながら太鼓をバンバン叩く姿が観られてうれしかった。好きなんだここ。

それと、〈ミエナイヨルノ ツキノカワリニ ヒッパッテキタ アオイキミ♪〉の合唱部分もとても好きで。もしも発声がOKならここはみんなで歌ったりするのかな……なんて思いながら心の中で歌っていた。

そしていよいよ、アルバム『アダプト』に収録予定の新曲の中でも既にその全貌が明らかになっていた曲『プラトー』にバトンが渡る。
この曲は絶対聴けるだろうと分かっていても、嬉しくてテンションが上がる。
イントロの江島啓一(エジー)さんのドラムがとんでもなくカッコいい。
(リンク先の映像はアダプトONLINEより、ミュージックライブビデオ)


『プラトー』は私の中で、印象が何度も変わった曲で。
最初は「プラトー=停滞期」という意味合いからも、上手くいかない、思うように動けない「停滞期」を経て、これから高く飛ぶんだぞ!っていう爽やかなイメージを抱いていた。サウンド的にも。
けれど、配信リリースが始まって初めてフルで歌詞を見ながら聴いたとき、爽やかさの中にどこか「湿っぽさ」も感じた。
その後、この曲のコンセプトが「曖昧さ」であると知って妙に納得したり。

僕はまだ
多分まだ 目を閉じてる
だから今 笑えるのか

この風が
悲しい言葉に聴こえても
いつか それを変えるから


ライブで聴いて、やっぱりラスサビには胸にグッと込み上げる希望のようなものを感じた。
暗闇の中でもがきながらも、光に手を伸ばしつづける折れない心と、つよい眼差しのような。そんなイメージ。


そんな流れで次の曲は『アルクアラウンド』
テンションが上がらない訳がない。
私がサカナクションにじわじわとはまり始める契機となったのが、今年の1月で、この曲との出会いだったのだから。
夜中に洗濯物を干しながら何度も聴いた曲、この日はライブという非日常空間で初めて浴びて。
ひたすら楽しい、という感覚だったけれど、今こうして振り返っているといろいろ込み上げるものがある。
悩んで、悩んで、同じところをループして、終わりが見えない日々の中で、それでも新しい場所を求めて歩きつづけることの大切さを教わったような気がする。



つづいて、「みんなアイデンティティ歌える?」というお馴染みの口上を「みんなアイデンティティ心の中で歌える?」に変えて披露されたのは『アイデンティティ』

声を出して歌えない代わりに、精一杯拳をあげたり、「ららら」でワイパーのように左右に手を振ったり、思い思いにノッたりして応える。
声が出せなくたって僕たち私たちこんなに楽しんでるよ!という魚民さんの思いが伝わるようで(私も観客のひとりだけど)胸が熱くなった。


そして、やってきました新曲『ショック!』
モニターには、ニュース番組風の映像(キャスト:嶋田久作さん、古舘佑太郎さん、エモン久瑠美さん)が映し出され、スタジオから中継へと繋いだ一般市民への街頭インタビューにて
「ショックダンス知ってます?」
「もちろん知ってます!」
というようなやりとりが繰り広げられている。

一方ステージ上ではモデルのるうこさん扮するレポーターがメンバーを順々に突撃しインタビューを試みるも、全員演奏に夢中で完全無視。それでも折れることなく笑顔でマイクを向け続けるるうこさんが健気。

『ショック!』は映画の予告やTwitterの宣伝動画などで耳馴染みがあったけれど、サビ以外をフルで聴くのはこの日が初めて。
ステージを縦横無尽に駆けまわる一郎さんはなんとも楽しそう。

そして、なんと言ってもサビでの「ショックダンス」は、この日一番とも言えるようなホットでアットホームな盛り上がりを見せていた。
一般的には「ワキワキダンス」っていうのかな?脇を開けたり閉めたりする動き(一郎さんは足も高く上げていたけれど、スタンド席ではさすがに手の動きが精一杯だった)をみんなでするのがホント楽しくて。
詳しくはぜひ、こちらの動画を見てほしいな。楽しんでいる様子が伝わると思う。


この動画は名古屋公演2日目のものらしいけれど、動画と同じ“白目感電いちろーさん”もモニターにアップで映し出されたり、アリーナの柵前で踊る“ノリノリのスタッフさん”の姿も確認できた。一緒にツアー回ってらっしゃるのかな。
一郎さんもメンバーさんもスタッフさんも魚民さんもみんな楽しそうで、お祭り状態。

そしていよいよラスサビ、さぁみんなで渾身のワキワキ……と思ったらまさかのニョキニョキ!(通称?たけのこニョッキダンス)
突然のニョキニョキにも動じず、私と友人も含めてみなさん迷わずニョキニョキしてるの楽しすぎた。魚民さんのアダプト=適応力すごい。

たけのこニョキニョキはどうしても文字だけでなく動きでも伝えたかったので、生まれてはじめてのGIFアニメに挑戦してみたり。少しでもイメージが伝われば。

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Twitterで『ショック!』は「ええじゃないか」だと呟いている方を見かけたのだけど、大いに納得してしまった。
多少ショックな出来事があっても、この曲を歌いながら踊ったら「まぁいっかー」と思えるような……それくらいの魔力を秘めている。ほんと楽しかった。

たけのこニョッキ……もといショックダンスで温まった身体そのままに、拳を力いっぱい突き上げた『モス』
Bメロのクラップも楽しくて、夢中になって手を叩いた。
魚民さんたちの熱狂もすごいけれど、一郎さんのスタミナもすごい。
配信のときからずっと思ってはいたけれど、生で見て聴いて直にそれを実感した。
私たち以上に飛んで跳ねて、歌って。でも全然歌声ブレないし、一郎さんの喉って相当タフだ……。喉だけじゃないと思うけれど。


「みんなまだまだ踊れる?」との一郎さんの声に拍手で応えて始まったのは『夜の踊り子』

この曲、私が光ONLINEで初めて聴いたときに思わずサビ(?)で手を挙げてノッてしまった曲で。
……真っ暗な部屋でね、ひとりで、スマホ観ながら。
そんな自分にびっくりしたけど、画面越しでも一郎さんからの「一緒に楽しもう!」って気持ちが伝わってきて手をあげずにいられなかったんだと思う。
当時の感想をつづったnoteでは、『モス』か『アイデンティティ』だと書いていたけれど、後に光ONLINEのDVDを購入して確認したところ思わず手をあげてノッてしまったのは『夜の踊り子』であることが判明)

夢見ていたリアルライブで、一郎さんの手の動きに合わせて踊る(?)の楽しかった。
この曲はサビが2回あるような構成も好き。
『解体新書』で一郎さんが語っていた生ベースからシンセベースへの切り替わりにも注目して聴いてみたり。
光ONLINEでは和服姿の踊り子さんが二人出演していたけれど、今回はモニターの映像でのご参加でした。

つづいて、お馴染みの賑やかなイントロが流れて『新宝島』へ。
みんな、思い思いに踊る、揺れる。
狭い空間ながらも、MVと同じような振り付けで踊る魚民さんの姿も見受けられて、楽しい。

『夜の踊り子』と同じく、MVや光ONLINEにも出演したチアダンサーさんは映像でのご参加でした。
モッチさんの、MVさながらの真顔ギタープレイ&間奏でのカッコいいギターソロも印象的だった。


そうしてついに本編最後は、ジャズのようなゆったりしたBGMをバックに一郎さんの語りから始まる『忘れられないの』

「みなさん楽しんでいただけたでしょうか。どうか今夜もみなさんにとって忘れられない夜になったことを祈っております。今日はどうもありがとうございました。サカナクションでした!」

光ONLINEのラストを思い出す。
冒頭の一郎節ダンス(キメポーズ)も生で観られてうれしかった。

つまらない日々も
長い夜も
いつかは
思い出になるはずさ
夢みたいなこの日を
千年に一回ぐらいの日を
永遠にしたいこの日々を
そう今も想ってるよ


足元に焚かれたスモークで、まるで雲の上に立って歌っているみたいで。
さらに天井からキラキラが降り注いで。あまりに綺麗で見惚れてしまった。
キラキラ(紙吹雪)のひとつひとつはどれも長方形で銀一色なようだけれど、紫色の照明が当たることで赤や青の光を反射して、絵に描いたようなキラキラが宙を舞っていた。
夢みたいに美しくて、儚くて。
〈永遠にしたいこの夜を〉と、本当にそう思えた。

あとこの曲はとにかく草刈さんのベースソロが渋くてかっこいい。ずっとニコニコ気持ちよさそうに演奏してらっしゃった。


夢みたいに幕を閉じた本編。
惜しみない拍手は次第にアンコールを熱望する手拍子へと変わっていった。
ステージに戻ってきたメンバーを再び拍手で迎える。

ここで、一郎さんによるMC。
たくさん、いろんなことを話してくれて。本当にたくさん話していたから記憶も内容も順序も曖昧だけれど、憶えている部分をかい摘んで。


・「降りてきた」はなし

「オカルトな話じゃないよ?」と前置きした上で、「これ話したっけ?」とギターのモッチさんに話を振る一郎さん。
「いや聞いてないよ」とモッチさん。
「あみちゃんには話したっけ?」と同じくベースの草刈さんに尋ねるも「知らないよ。おしえて?」と。

どうやら、アダプトONLINE(光ONLINEだったかな?)のとき、新宝島でふっと誰かにギターを支えられたらしい。後ろを見ても誰もいなくて……って。

それで今日も、似たようなことがあったんだと。
「何の曲だと思う?」とモッチさんに振る一郎さん。
「えぇ…… 『目が明く』?」とモッチさん。
おおー!正解!という表情の一郎さん。

まだまだ感染対策のため声を出せないのだけど、そのやりとりが面白くって肩を震わせて笑う魚民さん多数。
そんな様子を汲み取ってか、その後「笑うのはいいらしいよ?」という一郎さんの一声で、控えめながらも「ふふふ」という笑い声がちらほら聞かれるように。ほっと心がほぐれる。

で、「降りてきた話」のつづき。
『目が明く藍色』の最後、川床さんと手を繋ぐシーンでふいに「さん、はい!」という声が聴こえたのだとか。
(リハでは「いくぞー!」って声もあったらしい)
「だからなんかいると思うんだよね、音楽の神様みたいな」と語る一郎さんでした。


・満員御礼とグッズのはなし

ライブの3日前にテレビで放送されたM-1グランプリにて「サカナクションのライブのチケットはとれない」というネタ?があったことについて触れる一郎さん。
私はM-1は見ていないのだけれど、サカナクションのチケットはなかなか取れない!という話は聞いていたので今回のライブに参加できたことを本当に幸運だと思っている。
私も、友人もNF(ファンクラブ)メンバーではなく、一般の最速プレオーダーに応募しての当選だった。
コロナウイルスの懸念もあってとは思うけれど、こんなにあっさりとチケットがとれてしまったことに驚いたのを覚えているし、今後はこんなに上手いことチケットがとれるかどうか分からない。
サカナクションへの気持ちが高まっている最高なタイミングでライブへ行けることが私にとってどれだけ幸せなことか。
無事にこの日を迎えられた幸せを改めて噛み締めた。


そして、今日のライブが100%、満員御礼であることに感謝を述べる一郎さん。

↑ライブ後のツイートより

「しかし!君たちにひとつだけ言いたいことがある!グッズが売れていない!」

そう言っておもむろにショックキャンディ(新曲『ショック!』とノーベル製菓さんによるコラボ商品。レモン味の、とても酸っぱい飴)を取り出す一郎さん。

ノーベルさんに無理言って作ってもらった。ノーベルさんも今日来てるから、ぜひ買って帰ってください、と。
そして、ギターのモッチにさんに今ここで食べてとみてと促す一郎さん。
なかなか袋を開けられないモッチさんに「小学生じゃん!」と。
さらには、歌う前にみかんを食べると声が出なくなるらしいよと一郎さんに言われ
「これレモンだけど(大丈夫?)」と心配するモッチさん。
袋の裏の表示を見て、「果汁入ってる!」と一郎さん。
ここでも、こらえきれずあちこちで控えめな笑い声が起こる。

そして、ちゃんと「いただきまぁーす」と言ってから飴を食べるモッチさん。
すぐさま「すっぱー!」という顔がスクリーンにアップで映される。
一郎さんに酸っぱさレベル1〜5(?)で表現して、と言われたものの酸っぱさレベル「45」と答えるモッチさん。
(ドラクエの敵に例えていたけれど、ドラクエは個人的にⅤしかプレイしたことないのでよく分からなかった。バラモスって敵を倒せるくらいらしい)
しばらく飴をなめて、「あ、甘みが出てきた(酸っぱさレベル20くらい)」と味の変化も実況してくれる丁寧なモッチさんでした。


その後、和やかな雰囲気から一転して、この2年程のことを少し真面目な表情で語り始める一郎さん。
新型コロナウイルスが蔓延して、ライブが思うようにできなくなっていったことを「片方の翼が折れた鳥みたいな」と言い表していた。「うまく飛べない」と。

そんな中で、どうやってこの状況に「適応」していこうかと、先の見えない中で「夜の乗りこなし方」を模索してここまでやってきたこと。
……多分、そんなニュアンスのことを話していた。ような気がする。大切なことほど記憶が曖昧だ。

そして、「サカナクションは来年で15周年なので、14年前の曲をやります」
そう言って始まったアンコール1曲目はサカナクションのデビュー曲、『三日月サンセット』
これ、昔からのファンにはたまらなかったんじゃないかなぁ。
サカナクションの曲にはよく「月」が登場するな。「鳥」も(この曲にはどっちも出てくる)
MCでも「鳥」という表現が出てきたり、一郎さんにとって何かシンパシーを感じる存在なのかな。


つづいてアンコール2曲目は、まさかの『白波トップウォーター』

個人的に今回のセットリストでいちばん予想外だったかもしれない。
そして、NFLR(一郎さん宅からの配信ライブ)のときに私の背中を押してくれた深海魚民さんが「サカナクションで一番好き」とおっしゃっていた曲なので、思わず心の中でその方のお名前を叫んでしまった。

その方は今回のツアーを事情により見送る旨をブログで綴っていたのだけれど、その後直前になって福岡公演の1日目に行けることになったと知ったときは心底うれしかった。いちばん好きなこの曲、聴けたかな。またお話伺えたらいいな。

NFLRのときは、一郎さん一人で。でも、壁にメンバー4人の姿が映し出されて一緒に演奏していて。後ろ(4人の方)を何度も振り返りながら歌う一郎さんの姿がとても印象的だった。
その後、ラストの曲の前のMCで
「今日はどうもありがとうございました!サカナクションでした
と言っている姿からも、一郎さんが僕たち私たちは“5人でサカナクションなんだ”っていうのを大切にしているのが伝わって、グッときたのを覚えている。

この2年程の間、リアルなライブも思うようにできなくて、そんな中でオンラインライブを開催したり、一郎さんがソロでツアーを回ったりと模索して、もがいてきて。
今回のアダプトツアーでようやっと、5人そろって有観客でのライブができて。
〈悲しい夜が明ける〉という歌詞が一際印象的に響いたなぁ……。

こちらはツアー初日終了後のせきさばさん(サカナクション現場マネージャー)のツイート。この言葉にも、グッとくるものがある。


『白波トップウォーター』を終え、ここで一旦MC。

自分はミュージシャンという仕事をしていて、あんまり寝ずに食べずに曲を作ったり、そういう特殊な生活を送りながらも、一般的に共感を得られる曲を作らなければならないという矛盾を抱えてきた、と一郎さん。
でも、「コロナ禍」で世界的に大変な状況になって、初めて同じ苦しみを味わって、一緒の夜を乗りこなすことができたような気がする って。そんなニュアンスのことを語っていた。

私はバリバリの一般人だけれど、いや一般人だからこそ?分かるような気がした。
個人的な話ではあるけれど、ここ10年くらい(主に金銭的に)綱渡りな生活を送ってきて。
少しずつ良くなってきているとは思うものの、言ってしまえば世界がこうなる前からずっと、不安で先の見えない生活を送ってきて。どうしたら、いつになったら人並みの生活を送れるだろうって思ったこともあった。
ニュースで語られる「みなさん」の中には、自分たちのような存在は含まれていないんだろうなと、小さな絶望感を覚えることもあった。
この苦しみは誰にも気付かれない、助けを求める術もない。
いつしか、声を上げる気力もなくなって、なあなあに日々を乗りこなして。

そんな中、突如として現れ瞬く間に世界へと広がった新型コロナウイルスの存在。
感染対策のための緊急事態宣言などで職を失ったり、生きることに困窮する人たちが増えて、私のような人たちがすっかり胸の奥に閉じ込めてしまっていたような、苦しみやそれを変えようとする声があちこちから上がるようになって。

一部の人のもののようだった声が、気付かれることもなかった声が、やっと広い範囲で届くようになったというか。
実際に自分が経験しなければ分からない、他人の気持ちというのはやっぱりあって。
それは決して「自分と同じ苦しみをみんなも味わえ」とかいうものではないのだけれど。

でもやっぱり、そういう人たちの声が、小さな行動のひとつひとつが、未来を作ってきたと思うから。
そういう意味では、今回のツアーはサカナクションと私たちリスナーで創り上げた未来のひとつの形なのかなって。

「こんな世界になってよかった」とは到底言えないけれど、多くの人が同じ不安や苦しみに喘いだことは、決して悪いことばかりではなかったのだと思いたい。それくらいの希望は持って、生きていきたい。


この辺のMCは私も自身のこれまでに思いを馳せながら聞いていたので記憶は曖昧で。
でも、一郎さんの目がうるうるして、声も震えていたことは覚えている。

オンラインライブなどの試みは、リアルライブがあったからこそ生まれたということも話していた。
今日のライブで、みんなの反応を直に見て「自信になった」「今日はよく眠れそう」とか。
「今、この瞬間だけでなく、ずっと愛してもらえるものを作っていきたい」とも。

サカナクションの「実験」はこれからもつづく。
「これからも変わらずに変わり続けていくので、ついてきてください」と真摯に語る一郎さんに拍手で応じるリスナー。
挑戦をつづけながらも、大切な部分は変わらずにいるよと宣言するサカナクションと、それを信じてついて行くからね、と応える私たち。その双方向的な関係性に胸があたたかいもので満たされる。

MCの終盤くらいからずっと、メンバーが後ろで静かに音を鳴らしていて。単音で、ふわーって広がる感じの。凪みたいな。
一郎さんが話し終えて、その演奏がゆっくりと熱量を上げていく。次にくる曲はなんだろう……と固唾をのんで見守る中、一瞬の静寂と呼吸の音の後に解き放たれた声。

「……いつか」

その瞬間、鳥肌が立つほどの衝撃が走った。
ただただその光景と歌い出しだけでも充分に美しく感動的だったのだけれど、私が嬉しかったのにはもう一つ理由がある。
その日一緒にライブを観ていた友人、その友人が「大好きな曲」だったから。この曲が聴けたらいいなって秘かに思っていたから。だから、本当に聴けるなんて夢かと思うほど嬉しくて。

思わず背筋が伸びて、隣の友人の肩に少し触れた。だから、肩越しにテレパシーを送ってみた。
『ナイトフィッシングイズグッド』だね……!!って。

モッチさんのコーラスがめちゃくちゃ綺麗で、神がかっていた。先のMCでの「歌う前に柑橘系はNG」という心配もなんのその。美しい歌声にうっとり聴き入る。

ツアー初日の名古屋公演にて、アンコールの「とある曲」で一郎さんが泣いて歌えなくなるという一幕があったというのは聞いていた。
それがまさに、この曲のときだったのだと後から知る。
こちらは布施雄一郎さんによる当日のレポ(ネタバレなし)と、横山マサトさんによる当日のお写真。

この記事を読んだとき、泣きそうになって。
「同じライブは一つとしてない」とは言うけれど。ツアー初日、それも約2年の空白を経ての5人揃っての有観客ライブとなるとほんとこの日にしかない特別な景色があったんだろうなって。
その場にいたかったという気持ちはもちろんあるけれど、こうして伝えてもらえるのがどれだけありがたいことか。

今回のライブで、『ナイトフィッシングイズグッド』は私にとっても特別で、大好きな曲になった。ライブ後、いちばん繰り返し聴いているのがこの曲だと思う。


『ナイトフィッシングイズグッド』の余韻を心に焼き付けながら最後の最後、新曲『フレンドリー』へ。

映画のエンドロールのように、メンバーやキャスト、スタッフの名前をモニターに映し出しながらの演奏。
アダプトタワーの2階では、川床さんが穏やかな表情で時折水たまりを飛び越えるような仕草をしながら歩いている。
まるで、雨上がりのような穏やかな心の内を表しているようで。彼女の心も「晴れた」のだな、と。
『ティーンエイジ』で苦しんでいる姿を見ていただけに、心から「よかったね……」という気持ちを抱いた。

この日初めて聴いた『フレンドリー』の曲調や歌詞はあまり思い出せないのだけれど、今の私にとってとても響く曲だったような気がする。
断片的に、覚えている部分だけでも。

〈正しい正しくないと決めたくない〉とか
〈君に優しくしたいな この気持ちが大きくなってく〉とか

『プラトー』のコンセプト、「曖昧さ」にも通じるものがあるような。
正しい正しくないと決めたくない、曖昧なままでいたい。そういった思いはこの2年間の世界情勢が反映されているようにも思えるけれど、サカナクションが今までずっと大切にしてきたことのようにも感じられた。

不安や、分断、いろんなことが移り変わっていく中で、心が揺れ動くその「曖昧さ」すら愛おしく思う。
人との距離のはかり方は、難しくて。ほんの少しの気の緩みで、傷つけてしまったり。不安にさせてしまったり。
特にここ2年ほどは、心だけでなく物理的な「人との距離感」もはかりかねながら多くの人が生きてきたと思う。
何が正しいのか分からなくなる中で、せめて目の前にいるあなたを大切にしたい、優しくありたい、味方でいたいという確かな想い。
『フレンドリー』というタイトルからも、人との繋がりについて書いた曲なのかな、と。
早くフルで、歌詞もじっくり見ながら聴きたいな。アルバムが楽しみ。


曲が終わり、ステージ上手側の地下階段から川床さん、ステージ下手側の地下階段からるうこさん、さらには田中裕介監督を呼び込んでの挨拶。一人ひとりに惜しみない拍手が送られる。

そしてサカナクションのメンバーがそれぞれ、ステージの上手から下手へ端の端まで移動して手を振りお辞儀をして、ホール内の魚民さんへ感謝を伝えてくれた。
「ありがとうー!」って声は出せないから、私たちも精一杯手を振ったり拍手したりで感謝を届ける。

最後はステージの中央に5人が並び、一郎さんのマイクを通さない肉声による「ありがとうございましたー!!」を合図に5人そろっての深く長いお辞儀。
ご時世柄か、手は繋いでいなかったけれど、配信ライブなどでこのシーンを何度も見てきて、いつか生でも見たいと憧れていたから本当に感無量で。
この日いちばんの惜しみない拍手がホール内に降り注いだ。

5人がステージからはけていく。
最後の最後に一郎さんが無邪気に手を振ってステージを降り、その姿が見えなくなってもしばらく拍手は鳴り止まなかった。


終演後、退場のアナウンスに促されて、外へ出る。
ライブが始まってから2時間半ほど経っているようだけれど、あっという間だった。まだまだ、続いてほしいとさえ思った。

係員さんに促されるまま、立ち止まることもなく駅方面へと流れていく。
まだ言葉が追いつかなくて、無言のまま友人と歩く。
「すごかった」「余韻が……」「終わってしまった」「ナイトフィッシングイズグッド……」
そんなことを互いにぽつぽつと呟きながら駅へと向かった。

この日は、私にとって間違いなく「忘れられない夜」、忘れたくない夜となった。
やっぱり音楽って、ライブっていいな。
新しい形のオンラインライブなど、この状況下でもできることを模索しつづけてきたサカナクションが、一郎さんが、その上で今までに何度も語ってきた「やっぱりリアルのライブに勝るものはない」という言葉の意味を、噛み締めた。

「今日はありがとう」
「楽しかった」
「また会おうね」

そんな言葉を交わして、別れ際ギリギリのときに友人がふいに

「小説がんばって!」

と言ってくれた。その言葉にハッとなり、嬉しさが込み上げて、思わず友人にハグしそうになったのだけれど、ご時世的にまだダメかな……と思ってグッと踏みとどまった。
(伸ばしかけた両手でそのまま自分をハグしようとして左によろけた)

家族以外の人に思わずハグしそうになるなんてこと滅多にないから、そんな自分が自分の中にいたことにも驚いて。
でも、ものすごいライブを観た直後で、最後の最後にそんな言葉が出てくるなんて、本当に心からそう思ってくれてるんだっていうのが瞬間的に伝わって。それがとてもうれしくて。

私が小説を書くことに挑戦しているのは前から話していて、LINEやブログのコメント欄でも彼女はずっと親身になって応援してくれていた。もちろんそれもとても嬉しくて力になっていたのだけれど、この日2年ぶりに会って、直接届けられた「生の応援の声」が持つ力に衝撃を受けてしまった。
そうか、これが「リアル」の威力なのか って。

なんだか、そんなところでも一郎さんの「リアル(のライブ)に勝るものはない」という言葉の意味を身をもって実感したりして。

正直、自分には無理なんじゃないかって思ってしまう瞬間もたくさんあるけれど。
「絶対がんばろう!」って、この先10年は頑張れそうなほどの力が湧いてきた。この気持ちを忘れたくない。
そして私も、自分が応援している人や感謝している人にはいつかちゃんと会って気持ちを伝えたいなって。そう強く思えた。


「いろいろあった」2年を経ての初めてのリアルサカナクションライブ。泣くかと思っていたけれど、涙は出なくて(泣きそうになった場面は何度かある)
でも、感動をどうにか書き留めておきたくてこうしてライブレポを書いていたら、ひたすら楽しかったようなシーンでも何故か泣きそうになってしまう。感情が、遅れてやってきたのかな。

私が私のために残しておきたい。そのための文章でもあるけれど、同じライブを観た人や、観ていない人にもこの感動を伝えられたら。どうやったら伝わるのだろう。
私が私の目で見て、耳で聴いて、身体や心で感じたことを他の誰かに伝わる文章にしていくのは容易いことではない。

例えば冒頭で、くるくる回っていたライトのこととか。
あれをなんて書いて表現したらいいのだろう。灯台?灯台って回るっけ?などと思いながら灯台について検索したりして。
そもそも灯台ってどういう役割があるんだ、とか。

そうやって、このレポを書きながら冒頭のあのシーンを振り返って気付いたことがある。
アダプトタワーは本当に、「灯台」だったのかもしれない って。

暗闇にいる私たちを照らして、導いてくれている存在。
最初に客席を包み込んでいた暗い青色の照明も、深い海やそれを映す心の内を表現しているようだった。

暗闇でもがきながらも、サカナクションの音楽を目印にして集った私たちを照らす灯台。
そう思うと、無機質で、寂しくて、怖く見えたアダプトタワーの記憶が、少しずつ優しい表情に書き換えられていく。
胸の奥にじんわりと灯る温もりみたいな気持ちの正体。きっと私は「ありがとう」って伝えたいんだと思う。

光と音の海で、久しぶりの「リアル」に触れて受け取ったたくさんの大切なもの。それらを力に変えて、これからも私は私の夜を、日々を乗りこなしていくのだと胸に誓った。  


〜『SAKANAAQUARIUM アダプト TOUR』大阪城ホール2日目 セットリスト〜

1.multiple exposure
2.キャラバン
3.なんてったって春
4.スローモーション
5.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
6.月の椀
7.ティーンエイジ
8.壁
9.目が明く藍色
10.DocumentaRy
11.ルーキー
12.プラトー
13.アルクアラウンド
14.アイデンティティ
15.ショック!
16.モス
17.夜の踊り子
18.新宝島
19.忘れられないの

アンコール

20.三日月サンセット
21.白波トップウォーター
22.ナイトフィッシングイズグッド
23.フレンドリー


【あとがき】

聴きたかった曲もたくさん聴けて、新たに大好きになった曲もあって、大満足の一日でした。

ライブから1週間以上が経ったけれど、音が身体に染み付いていて、いつまでも余韻の中を泳いでいるような感覚。
プールでたくさん泳いだあとみたいな。水から上がっても、まだ水の中にいるような錯覚を覚えるあの感じに似ている。

出来ることならもう一度あの日を繰り返したいと思ってしまうけれど、それはできないし、余韻を胸に進まなきゃいけないね。

ツアーはまだまだ続きます。
どうか無事に、最後までバトンが渡りますようにと心から願っています。

サカナクションとチームサカナクション、そして私をサカナクションに出会わせてくれた人たちと、この文章を最後まで読んでくださったあなたに、心から「ありがとう」


【おまけ】

パッケージには『ショック!』の英語歌詞が書いてあるらしい。細かいところまで凝っててかわいいです。お土産にも良さげ。


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