言葉と音楽と、可惜夜(2)
頭の中は海。
言葉といっしょに、音楽が泳ぎまわっている。まるで魚。
昼夜関係なく泳ぎまわっているけれど、それを言葉にして整理できるのは夜の静かな時間が多い。
毎日、毎日、文章にして吐き出さないと、窒息しそうになる。
書かなくても大丈夫だった頃、どうしていたっけ?
文章を書いていると、記憶の中からことばと歌詞が手を繋いで飛び出してくる。連想ゲームみたいにわらわらと。
ワードプロセッサー。
言葉と音楽で散文クッキング。みたいな感じ。
部屋の灯りを消して、深く潜っていく。
夜に生まれて、朝には溶けていく言葉たち。
でも本当は昼もそこにいるんでしょ、月みたいに。
「誰にも言えないこと」は誰にも言えないくらいでちょうどいい?
どんなに飲み込んだって、消えてはくれない言葉たち。
消えないなら、消せないなら、どうしたらいい?
苦しいとき、「苦しい」と溢してしまいそうになることが増えた。
それで楽になるならいいのかもしれないけれど、だいたいは「暗いこと言ってしまった」と落ち込んで、さらに苦しくなるループ。
言葉や文章にする毎に少しずつ傷ついて、きっと誰かを傷つけてもいて。それでも性懲りもなくまた繰り返してしまうのです。
飲み込んだり吐き出したり。
今日は、「飲み込んだ」という事実を吐き出した。
息を吐いてから、吸う。真夜中へ潜っていく。
暗くなっていく。心細くなっていく。苦しくなっていく。
トラウマを増幅させるアンプ
耳鳴り、フラッシュバック。気をつけて。
でも、必ず出口へ向かうから。
光目指して泳ぐから。
大丈夫と自分に誓い、潜る。
おかしくなってしまったのかな。
声が聴こえる。本当に聴こえるわけじゃないけれど。
私の中の不安や劣等感が、コンプレックスが作り出した声。
今日は「もう消えた方がいいね」って聴こえたんだ。骨の内側に響くような声だった。
もしかしたら、声に出てしまっていたのかも。
自分とばかり話していたら、何が正しいのか分からなくなっていく。
僕はどうしたらいい?
こんなとき、誰かと話せたら。
話すのは苦手だけど、きらいじゃないんだ。
こんな自分だからこそ、もっと人と会って、話して、かかわるべきだと思うんだよ。
話がしたいよ。
今日もまた、言葉にするか、しないべきか、考えているうちにずいぶん時間が経ってしまっていた。
洗濯物が、ほったらかされているよ。
いろんなことが後回しになっていく。このままじゃいけないのに。
もっと話したいことがあったのにな
「大丈夫」って言わなきゃよかったな
でも、いざ話そうとすると言葉より先に涙が出てしまいそうで、いつも笑顔で蓋をしてしまう。
泣かずに話したいよ。
言えないこと、話せないこと、一人のときに綴っていく。
すらすら書けるわけじゃないけれど、話すよりは難しくなかった。
文章を書き上げたときの達成感。とか
楽しかったことや、嬉しかったことが心に灯してくれるあたたかさ。しあわせな気持ち。とか
最近それらが、長続きしなくなっている気がする。
あんなに楽しかったのに
あんなに嬉しかったのに
あんなに大切にしてもらったのに
どうしてこんな暗い顔をするの
どうしてこんなに落ち込むの
こんな気持ちになってごめんなさい。
あなたは何もわるくない。むしろ、たくさん支えられている。それだけは本当。ありがとう。
言われた言葉がいつまでも刺さったまま抜けない。
そんなわけないのに、本当は全員にそう思われてるんじゃないかって。そんな気がしてしまう。そんなわけ、ないのに。
ああ、きもちわるい。吐きそうだ。
自分含めていろんなことが気持ちわるくて吐きそうだ。
実際に吐いたりはしない。ただただ、吐きそうなだけ。気分だけ。いっそ吐いてしまえたら、少しは楽になれるのかな。
“喜怒哀楽”
色にたとえるなら、どんなだろう。
“喜”はきいろか桃色
“怒”は赤もしくは黒
“哀”は青もしくは赤
“楽”は緑それかきいろ
“怒”のエネルギーはとてもつよい。
“怒”の気配だけで、自己肯定感など一瞬で地の底まで落ちてしまうほどに、つよい。
好きなアーティストの新譜情報も、その日あった嬉しかったことも、たちまち霞む。すべてを飲み込み塗りつぶす黒い絵の具。
いっそ自分も塗りつぶされて、消えてしまいたくなる。
「出て行けー!!」
知らない誰かの怒鳴り声に身がすくむ。
知らない誰かが泣く声
あれは私じゃない。僕じゃない。関係ない。泣いたりしない。
大丈夫ちょっと疲れてるだけ。
大きな音も、声も、壊れた家具も、壁にあいた穴も、何かを誇示するその傷口も。
全部が僕や私を責め立てる。「お前のせいだ」と。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。と唱える。
だからこっちは、大丈夫 大丈夫 大丈夫。と唱える。
あの物語は異世界じゃなくて。
あの物語はフィクションじゃなくて。
こちら側の痛みとどこか繋がっている。
境界線はどこ。
その痛みが少しでも、和らぐことを祈ってる。
騒がしい頭の中に、トントンのリズム。
覚えてる『ひつじのララバイ』
君が朝まで眠れますように。
「あんなふうになりたくない」
でも分かるんだ、少しずつ毒されているって。
物にあたる 人にあたる ささいなことで苛立ちやすくなっていく 不機嫌でコントロール
すぐに他人のせい 「なんで自分ばかり」
したくないのに 言いたくないのに
誰か私を止めて。誰か僕を止めて。
抗って。
大丈夫に見えるでしょう?
悩みなさそうに見えるでしょう?
まともな人間に見えるでしょう?
もしも私が 明日消えたら
「どうしてあの子が」って言うんでしょう?
なんにも知らないくせにね
もしも僕が 罪を犯したら
「まさかあの子が」って言うんでしょう?
見えてなかったくせにね
よく言うよ、よく言うよ
ああ、ああ どこもかしこも穴だらけ
書くことでついた傷は、書くことで埋めよう。
でも生まれつきの欠陥は、どうしたらいい?
君の言う通り、私は____で____で____だから。
君はいつだって私より、正しいから。
いっそ、本当に病気だったら許してもらえるのかな。無理だろうな。逃げ場ないな。
そもそもそんなこと、思っちゃいけないか。
泣きすぎた翌日の腫れたまぶた。どうか誰にも気づかれませんように。
いつもそう。
ひとりで抱え込んで、抱え込んでる自覚もなくて、気づいたときには取り返しがつかなくなっている。どうしてまた?
変わりたい。成長したい。
心を開きたい。向き合いたい。
“大人”になりたいよ
君を怒らせないように
君を傷つけないように
もう後がないから
どうかこれ以上、間違えませんように。
そうやって気付けば顔色ばかりうかがって
あなたといるときの感情の多くは安らぎよりも緊張。久しぶりに穏やかだと、逆に不安になるほどに。
穏やかなのは、私がうまくやれているからじゃない。だから勘違いしちゃいけない。
間違わないように
怒らせないように
傷つけないように
「私に期待しないで」
半永遠プレッシャー。
本来なら、期待されるというのは幸せなことだった気がする。
でも、いつからかあなたからの期待はプレッシャーでしかなくなってしまった。
昔はもっと、明るかった
昔はもっと、前向きだった
昔はもっと、ちゃんとやれてた
ってまた昔の話?
もうそういうのもやめたいんだよ。
でも別人みたい。自分じゃないみたいで。
それでもまだ、どこかに「自分の好きな自分」も残っているはずって思いたくて。
いつまでも弱さを武器にはしない。
損なわれたもの、守りつづけたもの
欠けた月の黒いところ
まだ、諦めきれないことがたくさんあるんだよ。
あなたも大切にしたいけど、自分も大切にしたいんだよ。
もういい加減、しあわせでいていいと思うよ。
しあわせでいてくれよ。
君をそこまで追い詰めたのは、誰なの?
あのね、「消えたい」と「しにたい」は、私の中では同義ではないんだ。
諦めてしまえば楽になれる。
もう、頑張らなくていいかな
楽になりたい。
穏やかに暮らしたい。
そう考えてしまうこともある。けど、
「楽になりたい」と「終わらせたい」も、私の中では同義ではないんだ。
「世界は美しい」そう信じる僕たちを嘲笑うかのように、足元が崩れていく日もある。
それでも、それでもと足掻く。
もう疲れたよ。
頑張れなかった。
なにひとつ上手くできなくて、あなたが思う「普通」や「理想」にはなれなかった。
頑張って、やってみた結果がこれなのだとしたら。この年月はなんだったのだろう。
それでも、「無駄だった」なんて言いたくないから。
応答願う、応答願う。
いっそ、エイリアンだったらよかったな。
言葉が通じてしまうから、分かり合えなくて余計につらいよ。
人の気持ちが分からなくてごめんなさい。
期待に添えなくてごめんなさい。
もう期待もされていない。
それもすべて、自分が招いたこと。
自分が選んだこと。
私じゃなければ、うまくいったのかな。
でもそれじゃ、私がいる意味もなくなるね。
また、「声」が聴こえる。
なにひとつ、うまくできない。
君に伝わることばで話せない。ごめんなさい。
相容れないな。
あきらめたら、楽になれるかな。いや、楽にしてあげられるかな。
どうして私なんかを選んだの。
私なんかじゃなければ、もっと「普通」に、しあわせに生きられたかもしれないのに。
私のせいでこれ以上苦しまないでください。
それでも、あきらめてしまえない。
あきらめてはいけない。そう思うのはなんで?
なんでだろう。
なんだっけ。
つづける意味なんてとっくに分からなくて。
ただただ、それでも、いくつもの苦楽を乗り越えてきたから。ただそれだけで。
言ってることとやってること
言ってたことと言ってること
ちぐはぐでどれを信じたらいいのか分からない。
「君しかいない」「君にしか務まらない」
そんな言葉に今さら救われたりしないけど、それが繋ぎ止めるための最後の砦。信じ、つづけられる所以。
帰る道がわからない。帰れないなら、進むしかないのかな。ゆっくりでも、歩いていたらどこかに繋がる?
大人になってから観る『不思議の国のアリス』
ケラケラ笑う子どもたちの隣で、私は考え込んでしまった。
芋虫が問いかける。「おまえは何者だ?」
その問いは、大人になった私の“迷い”目がけて飛んできた。私は口ごもる。
アリスは夢の中で迷子、
帰り道が分からなくて泣いている。
私も迷子なのかもしれない。
あるようで、ないような
ないようで、あるような
「みんな」にあるものが私にはない?
生まれつき?それとも、どこかで躓いて落っことしてきた?
自己の不在、自己の不一致
ぐにゃりと歪む自分の輪郭。どこまでも曖昧。
喚き散らしたい衝動。直立不動。
自分ってなんだ?
自分の言葉で話したい。けど
自分の言葉ってなんだ?そんなの、あるのか?
自分ってなんだ?そんなの、あるのか?
たくさんの、出会ってきた言葉で自分は作られている。
でも、だとしたら、自分ってどこにいるんだろう?
どこからどこまでが「自分の言葉」?
どこからどこまでが「自分の気持ち」?
自分だけの言葉
あなただけの言葉
あなたのためだけの言葉
書くことは、それを探すことでもあるのかもしれない。生きることも、もしかしたら。
果てしない問いの先で、「信じてたこと 正しかった」と最後に心から言えますように。
「何者かになりたい」とは特に思わない。
けれど、「自分は何者なんだろう」とは最近よく考える。
自分がなんなのかなんて、あまり考えてこなかった。
考えてもしょうがないことだと思っていた。なのに、
気づきたくて、掴みたくて、もがいている。
私は、どうしたい?どうありたい?
「アイデンティティ」
この言葉の意味さえも、よく分かっていなかった。辞書を引いてもピンとこなくて。
でも、時が経って「あぁ、これがそうか」と気付いてからは……
見えていなかった、見ようとしなかったものがはっきりと見えてしまって。
なんで。どうして、今さら。それでも、
今さらなんじゃなくて、今だから。
いろいろを経たいまの自分だから、そう気づきたいんだろう。
存在の理由なんて、考えていなかった頃
私はただ私というだけでそこに存在していられた。
でも、人とかかわっていくにつれて、存在理由が他者に左右されるようになってしまった。
人のぬくもりを知った。自分の脆さを知った。
弱くなったし強くなった。
僕らの心は、そして身体はモノじゃない。
ましてや他人の所有物ではない。
どんなに親しい間柄でも、好き勝手にしていいわけじゃない。
大切にできないのは、大切にされなかったから。
ってお互いに言ってるなんて可笑しいね。
そんな、たまごが先かニワトリが先かみたいな不毛なすれ違い。
なら、私が変われば変わるかな。
大切な人の大切なものは大切にしたい。そうでしょ?
僕は、私は、今までちゃんと自分を大切にしてきただろうか。
今は、いろんなことやものに名前がついているでしょう。
僕はどこかに属することができなくて、自分をカテゴライズできなくて。
「自分はこういう人間です」って、言いきってしまえなくて。
ハイブリッドでグラデーションで。
いつもふわふわ曖昧で、「かもしれない」で生きていて。
そのあいまいさが、また誰かを傷つけて。
そんな自分には居場所がないようで。
「だれかいませんか」とか細く鳴いたりして。
君がどんな人でもいい。
僕は君と話がしたいよ。君をもっと知りたいよ。自分をもっと知りたいよ。
捜してる。
探してる。
私は、私の大切な人たちが理不尽に傷つけられていると知ったとき、その人の力になれるのかな。守れるのかな。正しく怒れるのかな。たたかえるのかな。
ただ味方でいるという思いだけでは、あまりに無力で。
たとえ直接かかわりのない誰かであっても。
「関係ない」とは決して思えないことがある。
反応しないのは関心がないわけでも、ましてや否定の意でもないけれど。
目に見える反応のひとつに救われたり、逆に沈黙に突き落とされたり、その両方がわかるからこそ、この感情をどこにどうやって向けたらいいのか分からない。
目に見えないものは目に見えないから
思いは思っているだけじゃ伝わらないから。
ならば形にして届けたい。でも動けない。情けない。
そんなとき、いっそ「無」になりたくなる。
誰ともかかわることなく、誰にも干渉しないしされない。存在を知られることもない。
でも、それじゃダメだともう分かっている。
矛盾だらけで心臓が軋む。
ナイフでもない、爆弾でもない。ミサイルでも、戦車でもない。
たたかわない僕らの、たたかいかた。
それぞれの居場所でたたかう決意
君の場合は「花」だった。
私は、書くことで?
それが私のアイデンティティー?
誰かが、夜に隠れて泣いている。
あの子が泣いているのはきっと、なりたい自分でいられないから。本当は「こうありたい」と分かっているのに、それが許されないから。
自分から自分が、引き離されていくような感覚。その痛みで泣いている。
苦しいね。
どうか、子どもみたいと笑わないでいて。
「I'm here」
私はここにいるよ。
「I'm here to listen to you」
ここで聞いているから(話してね)
「I'm here to help」
助けになるよ
「I'm here for you」
あなたのためにそばにいるよ
なんて、言えたらいいけどなかなか言えないよ。言えやしないよ。でも想ってる。
“もしも◯◯だったなら”
こんなに悩むことはなかったのかもしれない…… なんてこともないのかもしれない。
何を選んだってそれなりに悩みは尽きないものでしょう。
でも、相手がいるからこその苦しみで。
自分さえよければいいとはとても言えなくて。
だけど、自分のことも大切にしたいと思うから。
わがまま言いたいわけじゃない。
イライラさせたいわけじゃない。
迷惑かけたいわけじゃない。
ぼくはどうしたらいい?
いつか、“あなたと一緒にいるときの自分”を好きになれる日はくるのかな。
あなたの前で、自分らしくいられるようになるのかな。
そんな悩める僕らや私たちを思い、祈るよ。
そんな僕や君のまま、愛されますように。
「自分で選んだ道だから」
「もう迷わない 今が幸せだから」
「過去(むかし)に後悔なんてしてない」
そう真っ直ぐ歌うあなたが眩しくて。
そう言えなくなってしまった自分が抉られてく。
今を否定したいわけじゃない。のに、あまりに眩しくて。
今は眩しすぎて焦がれるけど
いつか一周まわって、また心からそう思えるように。
ふり返ったとき、辿った道のりを愛おしく思えるように。
受け止めていく。
もしも「しあわせ?」って訊かれたら、迷わず「うん!」って頷くよ。頷きたいよ。
ぼくが思うにしあわせは、なるものじゃなくて気付くもの。ほら、いまも君の横で。
しあわせだって生きものですから、はやく気付いてあげないと。隅の方で小さくうずくまって、そのうち消えてってしまうよ……
君が どんなに君を嫌っていたとしても
ぼくは 君のことばひとつで泣けたんだ、笑えたんだ。それってものすごいことなんだ。
だから、だから……
君がしあわせだと、ぼくも嬉しいよ。
あの日の歌をもう一度歌うんだ。
歌えるようになるんだ。
あの日に戻るんじゃなく、取り戻すんでもなく、失ったままで、手に入れるんだ。
こんな夜は、言葉と音楽があふれて止まらない。
ずっと真夜中だったらいいのにね。
でも、朝も好きだよ。
カーテンを開けて光を浴びるとき、なんだかうまく生きていけそうな気持ちになるから。
たとえ暗い海に沈む一日のはじまりだったとしても。
眠れない、というより
眠ってしまうのが、明けてしまうのが惜しい夜。
音楽と戯れる。
音楽好きでよかったなあ
音楽好きでよかったなあ
こんなに好きになった音楽とも、いつか死ぬときにはお別れしないといけないなんて。
せっかく出会えたのに、聴けなくなってしまうなんて。
思い出すこともなくなってしまうなんて。
なんて、いい曲なんだろうって胸が震える感覚も、味わえなくなってしまうなんて。
そんなの、さびしすぎるから。
まだまだたくさん出会いたいから。
だから、「しにたい」なんて思うはずないんだけどさ。
それでももし、私が居なくなったとしてそのあとは、誰かが憶えていてくれたらいいな。大好きな音楽のこと。
音楽好きな人はたくさんいるから、心配いらないと思うけど。
少し、外が明るくなってくる頃。
「眠れない」と言っていたあの人は、今日は眠れたのかな。
「誰にも言えない言葉」は誰にも言えないままで、流れ星がひとつ夜明けに溶けていった。
どうしてこんなタイミングで、と。奇跡のように、偶然のように思えることも、もしかしたら誰かが心から祈ったからなのかもしれない。
私が夜を好きなのは、きっと君のおかげで
私が朝を好きなのは、きっと君のおかげだから。
君がどんな人か知らないけど、願うよ。
君も誰かの「大切な人」なんでしょう?
それでじゅうぶん、祈る理由。
頼りないけど祈ってる。
明日はやってくる。
物語は進む。
恐れと畏れを抱きながら
その日々に君がいなくても。
君の日々に僕がいなくても。
あのとき、差し出された手を掴んだ自分を誇りに思うよ。そのおかげで今があるから。
まぶしくても、手を離さないでいて。
あの日もらったひとことが、とても力強くて。心強くて。
たとえ叶わなくても、もうじゅうぶんもらったよと思えるくらい、うれしかったよ。
私も、与えられる人でありたい。
だれかにとっての1でありたい。
そういう人になりたいな。なれるといいな。
いつの間にか、なっているといいな。
幽けき光。でも僕にはじゅうぶんな光。
どうか僕にも、私にも、あなたにも
見つかりますように。
いま何時?
何か飲もうかな。あったかいのがいいな。
食器棚からいつものマグカップ。
まだみんな寝てるから、音を立てないようにそーっと取り出す。
凍りついた心を溶かす千夜一夜。そばにいてくれた人たちを思い出す。
温かいコーヒーを飲み込んで、吐き出したのは白い息。少し前までまだ暖かかったっけ。
吐き出したり、飲み込んだりの日々はめぐる。季節もめぐる。
夜を乗りこなして朝を迎えにいく。
僕たちは揺らいでいる。
僕たちは凪いでいる。
僕たちは泣いている。
憂いの出生を、涙のふるさとを
つまびらかにしたくてまた夜に潜る。
失敗も挫折も、迷いも喪失も後悔も
ぜんぶひっくるめて、自分の成り立ちを肯定しながらこれからも進んでいく。ただそれだけ。
“出せない悲鳴が真夜中騒いで”も、
“醜い思いが身体中暴れて”も、
始発かどうか分からないけど、電車の音が遠くから聴こえた。
飲み終えたコーヒーのカップをシンクへ置いて水を溜める。
そろそろ朝を始めなきゃ。
きっとすぐには変われない。
今までもそうだったのだから。
正直自信はない。でも、
その一歩が芽吹くのは、きっとまだもう何年か後だろうけれど。大丈夫。大丈夫になるよ多分。
今、少なくとも過去とは違う場所に立っている。
数年後は、どこで誰とどんな話をしているのかなぁ。
“明日はどんなふうにお腹が空く”のかなぁ。
そんな日々を生きているよ。
これからも、生きていくよ。
生きていくよ。ただそれだけ。
1999/羊文学
この街で生きている/amazarashi
【あとがき】
以前書いたnote『言葉と音楽と、可惜夜』の、その(2)です。
シリーズ化?するような予定はまったく無かったけれど、言葉にできない思いとか、Twitterの下書きに埋もれていったような言葉たちをなるべくオブラートに包んだ状態で(?)形にしたくて、1ヶ月ちょっと悩みに悩んだ結果このような形となりました。
(1)よりすんごく長くなってしまいました。
前回もそうでしたが、主語をあいまいにして「私」から少し切り離した視点で描くことで、誰にも話せないようなことも少しは吐き出せるかな…… と思って。
だからエッセイや日記というよりは、詩とかそういう創作に近いイメージです。創作の“種”かな……?
やっっと形にできて、少しだけ頭と心にスペースが空いたような気がします。
(読んでくださった方には重かったかもしれない…… ごめんなさい)
だからといって苦しいのもつらいのも解決してないし消えるわけじゃないけれど、一時しのぎかもしれないけれど、すこしだけ呼吸がしやすくなったというか。
近々ライブの予定もあるので、またたくさん受けとめてこようと思います。
そしたら多分、いつもみたいにライブの感想書きたくなっちゃうだろうから。
また苦しくてどうしようもない日々に心と頭がパンクしそうになったら、そのときは『言葉と音楽と、可惜夜(3)』が生まれるかもしれないし、生まれないかもしれません。
ここに引用させていただいた、たくさんの大好きな音楽の歌詞。
この歌詞好きだな、とかちょっとでも気になっていただけたら、ぜひぜひ曲も聴いてみてください(結局、それがいちばん嬉しいかも)
ではでは。
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