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お別れは最期の預かりもの【動物園・水族館のススメ】

「オススメの動物園を教えてください」とたまに尋ねられますが
そのたびに僕は「近くの動物園」と答えます。
理由は「通える」からです。

なぜ「通える動物園」を僕が推すのか。
今回はそんなお話をします。

・到津の森公園

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地元バレを承知で放送やTwitterでよく話題に出しますが
僕のホームZOO(通う動物園)は福岡県北九州市にある到津の森公園です。
この動物園、実は「一度潰れた動物園」として知られており、前身の
到津遊園地に馴染みのある多くの市民の嘆願によって再復活しました。

そんな到津の森公園を象徴する詩が園内に。

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「キリンもゾウもライオンもいない、そんな動物園があってもいいじゃないか。」(詳細は岩野園長に取材してくれたWebメディアがあるのでそちらを)

もしかすると今後の日本の動物園が目指すべき言葉なのかもしれません。

そんな到津の森公園で経験した出来事。

・キングとライ

到津の森公園にはキング(♂)ライ(♀)という名のライオン夫婦が居ました。二匹は年の差夫婦で、9歳年上のキングは若いメスのライに押され気味ながらも決して怒らずに紳士的な態度で接する姿がよく見られ、子供のチャチャ丸(現在は福岡市動物園)を授かり育てあげました。

もちろんライオンという動物は、どの動物園でも最も主役級の動物です。
特にキングに関しては「他のオスライオンよりも端正な顔立ち」なので
「イケメンライオン」としてネット上でも話題になり、到津の森の顔
として大きな存在になっていました。


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そりゃ勿論、僕にとっても特別な存在。
決して広くはない展示施設の中で、キングに接しているライを見てると
なんだかガラス越しに僕もキングに触れているような感覚になるのです。

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ある日、17歳のキングは体調を崩して表に出て来なくなった。
SNSで体調を崩した事は知ってたけれど、毎度その度すぐ戻ってきていた。

だから「また元気になって戻ってくるだろ」と。




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でもキングは帰ってこなかった。


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そしてライは一匹になった。

数日間置かれていた献花台には、僕を含むキングの事が大好きだった
仲間たちがお別れを惜しむように花や写真を添えていた。


でも一番別れを惜しんでいるのはライだと思う。

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キングの死後、僕はしばらくライを撮影するのが辛かった。
どうしても悲しんでいるように見えてしまう
その気持ちでカメラを握るとそんな画しか撮れなくなる。

でも、きっとそれは僕のエゴなんだと。



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私的な事だけど、僕もその数カ月後に大事な友人を亡くしていた。
亡くなる前に一度電話がかかってきたのに、夜中だったから面倒くさくて…
それが最期の機会だったのに、なんの話だったのか今は確かめる術がない。

お別れについて考える時期が少しあった数日後
到津の森に行くとライの顔つきが少し変わったように見えた。

僕は久しぶりにライにカメラを向けた。



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決してキングの事は忘れてるはずもない。
だけどもう悲しんでいる顔じゃない。

その時に僕は初めて気がつかされた。

キングは「お別れを与えてくれたんだ」と。

「生き物」である限り「産まれて出会う」「死んで別れる」
それは当たり前。

だけど逆に考えれば「出会えたからこそ、お別れが来る」

「繋がる命を預かった」

キングの側にいつも居たライ、会うために通っていた僕。
立場や環境は違えど、平等に「終わらなくて繋がり続ける命」
を預かった者同士。 

だから僕は永遠にキングの事を忘れない。
そして、これからお別れする「どうぶつ達」の事も。

僕はキングから、大切な重い荷物を預かったのかもしれません。



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・出会いとお別れの場所 動物園

動物園は出会いとお別れがセットになって詰まってる場所です。
だから来園者には「出会っただけで満足しないで欲しい」のです。

現在、日本の動物飼育環境を鑑みるに全国の動物園からはゾウやキリンなどの人気者が2030年までにほぼ居なくなってしまうと言われています。

メディアは「2030年問題」という内容で取り上げますが
問題は来園者の意識であって死んで動物が居なくなる事は問題ではない
と僕は思うのです。ただ出会った動物達の事を忘れないで欲しいのです。

冒頭に紹介した到津の森の詩
「キリンもゾウもいない、そんな動物園があってもいいじゃないか。」
そんな詩が多くの人々に受け入れられる未来のため動物園に通ってもらい 消えゆく彼らから出会いお別れをたくさん受け取って欲しいと願います。


・動物に携わる方々へのお願い

動物業界の関係者の方が記事を見てくださるかは分かりませんが
最後にファンとして「動物園側へのお願い」をします。

死んだら報告してほしい

のです。

例えば 愛媛県立とべ動物園のように


ゾウやライオンのような主役級の動物だけじゃなく
モルモットや小鳥など、小さな命の終わりも伝えていただきたいのです。

イベント情報や新しい動物の情報も大切ですが「お別れ」の情報は
その動物が生きた証であり、それ以上に大切な情報です。

動物園で命の繋がりを考える人が1人でも増えてくれることを願います。




ご支援頂けると僕が遠めの動物園に行けます。