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読書「独り剣客 山内久弥 おやこ見習い帖」(アルファポリス文庫)を読みました

2024/06/18 追記しました
わざわざお立ち寄り頂きありがとうございます。
作者の笹目いく子先生が、私の推測にとても興味深いご説明をしてくださっています。どうぞ併せてお読みください。

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先日発売された、笹目いく子様のデビュー作『独り剣客 山内久弥 おやこ見習い帖(アルファポリス文庫)』を拝読いたしました。
(それにしてもなぜ画像撮るのこんなにヘタなんだろう。すみません)
ほぼほぼ時代小説を読まないので、的外れな感想かもしれませんが、どうぞお許しください。

まず先に申しあげると、とても面白く読めました。面白いというと語弊があるかも知れません。読後感は爽やかで、終わってしまったのが惜しくて、まだ次が読みたい気分になりましたが、楽しい話だけではないからです。どちらかというと、主人公とその養い子に、次々と困難が襲いかかって来ます。けれども、それを乗り越えて行こうとする主人公達の姿に、好感が持てました。

実は読み出してすぐ、想像以上に本格的時代小説なのに気がついて、自分が読めるのか不安になりました。けれども、あっという間に、熱い灰が舞う江戸の情景の中に引き込まれていきました。実際には自分の知識不足で用語、着物の柄や紋の図柄などわからないことも多々ありましたが、まあそこは推測してそのまま読み進めました。ちゃんと調べればいいのですが、頁をめくる手を止めてしまうのが惜しかったからです。(とりあえず、覚えていた物は、読み終わってから調べました)

また、三味線についての詳細な描き方にも驚きました。三味線についてほぼ何も知らない自分にも、どこからかチントンシャンという音色が聞こえてくるようです。しかもただ、主人公の生業と言う小道具ではなく、音曲も物語を引き回す大きな役割を担っています。
それにしても、作者さんは、以前から三味線を研究されていたから主人公を三味線のお師匠さんにしたのか、それとも、主人公の生業を考えて、そこから三味線を選び、物語を書くために研究されたのか。いずれにしても、凄い知識量だと思いました。

三味線と並んでもう一つ重要な主軸を担っているのが、剣です。刀を交わすシーンもがっつりと描写されていて、とても迫力がありました。お家騒動という政治的な部分も描かれているので、ただの人情物でなく、その点でも読み応えがありました。

もちろん、背景だけでなく人物の描き方も秀逸です。さまざまな人物が登場しますが、どの人も名前や姿だけでなく、その人物の心がしっかりと描かれているのにも感銘を受けました。
イケメンで性格も良い主人公をはじめ、健気に生きる養い子、凜とした佇まいのヒロイン、豪快な町医者とその温かい家族、頼りになるご隠居さま、外見に似合わず大胆不敵な兄など、本当に魅力的な人々が登場します。

また出番が僅かしかない人々も、細やかにその人となりが描かれています。その中で、特に印象に残ったのが、花魁の浮舟でした。主人公が三味線の稽古をつけに行く遊郭にいる女性で、玲瓏な彼女の幽麗さが伝わってきてとても魅了されました。
また、その境遇に恨み言の一つも言わず、どこか悟りを開いたようなその姿は、まるで観音の化身か生き仏のようにすら思えます。同時に、その心情に達するまでの彼女のこれまでの人生は、いかほどのものであったかと思うと、胸が痛みます。そして、そんな彼女の細やかな願いが、また切ないです。実際、彼女もその願いが叶うことがないことは判っているでしょう。その姿に、尚一層胸が詰まりました。

また、出自のために、好きなように生きられない主人公の葛藤が、この物語の重要な主軸になっています。初めは、そのために何も手に入れようとせずに、ひたすら受け身の主人公ですが、降りしきる灰の中で、一人の迷い子を拾ったことから、心情が大きく変わり始めます。何事にも代えがたき大切なものを手に入れた彼は、我が身を犠牲にしても、かけがえのないもの達を守り抜こうと考えます。そんな親子に無理ゲーかと思えるくらい、次々と困難が襲ってきます。二人は、ただ愛しい人達と一緒に穏やかに暮らすことを願い、様々な障害に立ち向います。また、主人公親子の姿に影響を受け、周囲の人達の心情が変化していく様も見事に描かれています。その人々が織りなす人間模様も、この物語の見所と言えます。

ところで、読み終えた後、暫くその農濃さに圧倒されていましたが、一方で作家さんはこの物語を通して、何を伝えようしたのかと思いました。三味線をはじめとした江戸の暮らしや文化、それとも剣やお家騒動を通した武士の世界、はたまた時代は違えど親子の絆や人々の情なのか。
そんな中、自分が一番印象に残ったのは、禍根を次の世代に残してはいけないという主人公の思いでした。

作家さんは米国にお住まいだそうですが、さまざまな人種の方達がいる国なので、過去だけでなく、今現在戦っている国同士の人々が、隣同士で暮らし、同じ職場で仕事をし、学校で机を並べて勉強していることもあるでしょう。
そんな日常の中で、作家さんは、そのような争いの負の遺産を次の世代に引き継がせてはいけないと思われたのではないかと、ふと感じました。
主人公達の朗らかな笑い声と明るい三味線の音色の向こうに、作家さんの人として親としての、そんな切なる願いが込められているように思いました。

作品を読み終わり、続きがないことが残念な気持ちになりましたが、魅力的な登場人物達の、これからの姿もぜひ拝見したいと思いました。続きでも各登場人物のスピンオフでも楽しめそうです。
また、既に次作『深川あやかし屋敷奇譚』の刊行も決まっているそうなので、こちらも楽しみです、自分的には、特に「あやかし」という部分に心惹かれています。
それではこの辺で、とりとめの無い稚拙な感想を終わらせて頂きます。
作者さまの益々のご活躍をお祈りしております。





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