【小説】フルーツサンド

 初めてそれに出会ったのは中学三年生の時。今でもよく覚えているの。だって、サンドイッチといえばバターを塗ったパンに、卵とか、ハムとか、キュウリとかを挟むものでしょう。ツナサンドやカツサンドもおいしいわよね。
 何かおかずになるようなものを、バターを塗ったパンに挟み込む。これが私のサンドイッチに持っていたイメージ。

 だから、初めてフルーツサンドを見たときは本当にびっくりしたの。あれは中学三年生の秋。少し遠い高校に、友達と模試を受けに行った帰り道。少しおなかがすいたからと、コンビニエンスストアに寄り道をしたときのこと。

 当時、コンビニエンスストアには数える程度しか入ったことがなかったから、とてもわくわくした覚えがある。何がどこに売っているのかもよくわからなくて、恐る恐る友達の後をついていった。友達はそんな私の様子を見て、楽しそうに笑っていたっけ。

 そして、サンドイッチの棚にたどり着いた。少しひんやりとした棚に、ずらりと並ぶ数々のサンドイッチ。卵サンド、ツナサンド、ハムサンド。そして、フルーツサンド。透明なフィルムに包まれたサンドイッチが並ぶ光景だけでも珍しいのに、その中でもフルーツサンドが一番目立っていた気がするわ。
 しょっぱいバターの代わりに甘い生クリームが塗られていて、卵やハムの代わりにイチゴやバナナが挟まっている。こんなケーキみたいなサンドイッチがあるだなんて。そのころから甘いものが大好きな私は、一瞬で心を奪われてしまった。

 それから私はフルーツサンドのとりこ。喫茶店でも、コンビニエンスストアでも。毎回とは言わないけれど、よく食べるようになった。いろいろなフルーツサンドを食べては、ノートに記録するのが日課。フルーツたっぷりのサンドイッチも、生クリームの代わりにカスタードが挟まったサンドイッチも、そのどれもがおいしかった。フルーツサンドに合いそうな飲み物もいろいろ探したわ。

 でも、一番おいしいのはやっぱり初めて食べたあのフルーツサンド。模試の帰り道、少し寒い駅のホームでペットボトルの紅茶を片手に食べた、あのイチゴとバナナのサンドイッチ。同じものを食べても、なぜだかあの味には勝てないの。これが思い出の味なのかしら。
 

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