【小説】七月八日

 今年の七夕は神様の機嫌が良かったらしく、昼間は雲ひとつない快晴。夜はうるさいほど数多の星が夜空で瞬いていた。世間は軽いお祭りムード。ニュースでも七夕で賑わう各地の様子が報じられていた。どこかの地方のお祭り、天体観測をする家族、仲睦まじそうなカップル。インタビュアーの質問に対し、嬉しそうにお願いごとを話す少女は見ているだけで微笑ましい光景だ。かくいう私も記念にと、使い慣れていない携帯のカメラアプリを駆使しながら、七月七日の夜空を写真に収めた。
 浮かれムードで撮影したのはいいが、見せる相手は誰もいない。こんな時、ひとり暮らしというのは寂しいのだとつくづく思う。とにかく、今年の七月七日は例年以上に盛り上がったのだ。

 そんな七夕の当日とは一転、翌日の七月八日は朝から土砂降りの雨だった。昨日の今日で一体何があったというのだ。気に入らないことでもあったのだろうか。それとも、涙する出来事でもあったのか。不機嫌なのか、悲しいのか。もう十時になるというのに、カーテンを開けても差し込んでくる光はどこにもない。今日が休みの日でよかった。この天気で外に出るのはさすがに億劫だ。

 今日は一日家にいよう。そう思いながら、ベッドに寝転がり昨日の写真を見返す。もうテレビやニュースは、別のことを報じているのだろう。少しくらいは話題に上がるかもしれないが、やはり昨日のような賑わいは無いと思う。

 楽しいことが終わってしまうと、何故こんなにも寂しい気持ちが襲ってくるのだろう。昔からそうだった。夏祭りも、遊園地も、文化祭も。何だって、楽しい日の翌日は悲しくて気持ちが空っぽになるのだ。
 私は、それが大の苦手だ。どこか恐ろしくも感じてしまう。

 夏用の薄い掛布団を手繰り寄せ、深く被る。スマートフォンの中にある数枚の写真。決して上手いとは言えないけれど。画面の中の天の川は、昨晩と変わらぬ姿で明るく光を放っている。

 だから、あと少し。少しだけ、お願い。今はまだ、この雰囲気に溺れさせて。

 大粒の雨が窓を強く叩いた。きっと、明日はまた晴れるだろう。

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