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好きが集う場所。

お気に入りのゲストハウスがある。疲れて帰ると、前日話して仲良くなった外国人が「おかえり」と私を出迎えてくれた。共用スペースでギターを弾きながら楽しそうに歌っているのを見ていると、君も歌う?と誘ってくれたのだった。ちなみに彼らの好きな日本のうたは「なごり雪」だった。彼らの奏でるギターに合わせてうたうなごり雪は、今思い出しても愛おしい。

日本で、日本人以外に「おかえり」と言われることは、今考えるとちょっと面白い。仲良くなったのは二人組の男性だった。大学を卒業する前に、大好きな日本を周りたいと来たらしい。彼らは楽しそうに、その日まわった上野の話をしてくれた。その目のキラキラを、私は今でも忘れられない。外国の人に愛されている日本って素敵な国だ、と嬉しくなった。自分も留学に行って感じ、得たものを話した。みんな自国を愛していて、私は自分の国のことをどう伝えられるだろう、と悔しくなったという話をした。

それでも君のような人を見るだけで、日本って素晴らしいって感じるんだ。

涙が出た。そして彼らはこう続けた。

英語が話せない日本人も多い。それでも僕たちが何か聞くと絶対一生懸命説明してくれるんだ。分からなくたっていい、その優しさは日本にしかないし、それが強みだなんて自ら言ったらそれは強みじゃなくなる。言えなくていいんだ、それが日本のいいところだ。

彼らを思い出すと思い浮かぶ一冊の本がある。「にじいろガーデン」という本である。ゲストハウスを舞台に母二人、子二人という家族構成で描かれている物語だ。LGBTを描いた切なくて、清々しい物語である。

「事実は、時に間違うこともあると思うんだ。でも真実は、どんなに世の中が変わっても、普遍的なんだよ。大事にしなくちゃいけないのは、真実のほうだと思うんだ」

登場人物が述べる言葉である。異性が好きなのが普通だ、という認識と戦いながら生き抜いていく家族の強い姿は、私に生きる力をくれた。

登場人物たちは偏見や冷たい態度と戦っていた。そして思うのだ、きっと彼らもそれらや、見えない何かと戦っていて、だからこそ優しい日本人が大好きだと言ってくれたのではないか、と。

私はゲストハウスを離れる日、彼らに思い切って聞いてみた。
You have special relationship, right?
すると彼らは顔を見合わせて言った。

「よく気付いたね」「もしかして、って」「日本はまだあまりそういう文化がないと思ってた、だからあまり出せなかったんだ」「きっといつか、そういう国になります。好きな人と好きなだけ手を繋いで歩ける日がくる」

彼らのギターに合わせて歌ったなごり雪を、もう一度どこかで歌う日が来るとしたら、彼らと再会する日がいいなと願っている。好きな人を好きなだけ愛せる世界になることを願って。

#日記 #エッセイ #ゲストハウス

読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。