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最近、フランス語を話せてラッキーだったこと

※抜歯の手術の話なのでグロテスクかもしれません。苦手な方はお気をつけください。

お引越しの前に歯の調子を見てもらおうと、フランスへ行く前からお世話になっている歯医者さんへ行ってきました。

私の歯は特に異常なし。
パートナーの歯はいろいろと治すところあり。特に3本ある親知らずのうち虫歯になっている2本はできればすぐにでも抜いた方が良いということで、慌てて歯の治療に通っておりました。

10年以上前、私も2本親知らずを抜いたことがあります。そのうちの1本は下の歯で、横向きに生えていました。当時通っていた歯医者さんでは抜くことができないので、山の上にある歯科口腔外科へ。とても腕の良いお医者さんだと聞いていたら、どことなく内田樹を彷彿させるイケてるおじさまが診察室へやって来たので「おー!」と思っていると、おじさまはサッと肉を切り、歯を3つに割って取り出すと、キュッと縫って、あっと言う間に手術を終えてしまいました。
とにかく早技。痛かった記憶や特別腫れたという記憶もなし。もっと抜いてもらいたいなあと思ったぐらいです。だから、親知らずを抜くくらい大したことない、という気持ちでした。

ところがうちのパートナーは病院恐怖症。
子どもの頃に脊椎注射で内出血を起こされたり、他の手術でも失敗されたことがあって、病院に入ると気分が悪くなるそうです。行きつけの歯医者さんは大丈夫なのですが、口腔外科のある大きな市立病院に行くのは怖い、と。
でも虫歯が取り返しのつかないほど進行したら大変です。長野ですぐにかかりつけの良い先生が見つかるかも分かりません。嫌がりつつも渋々と口腔外科へ、一緒に行って来ました。


自分の歯を抜いてもらったことはあっても、その時に一体どんなことが起こっていたのかは分からないもの。
ところが今回パートナーの通訳のため、歯を抜く施術中、隣にいさせてもらうことができました。
いや〜面白い経験だった。


まず興味深いのが手術の器具。映画の拷問シーンを思い出す大きなペンチのようなものがあるかと思えば、用途のわからない細長い器具がいろいろと並びます。ナイフはテーブルセットで使うナイフのような形状ではなくて、一瞥しただけでは何かわからない小さな刃を持っています。

麻酔用の注射の針はとても長く、先が曲がっています。何度か異なる場所に注射します。針は柔らかいようで、必要なときはクイッと角度を調整して使用していました。一本の歯を抜くだけでも、麻酔薬ってこんなに注入するものなんだなあ。

注射のあと何度か口を動かして、麻酔薬の巡りをよくします。パートナーはガチガチに緊張していますが、もう抜くしかありません。麻酔の効きを確かめると、数本の器具を併用し、手術開始です。ナイフのようなものに血が付いているので、もう切り始めているんだなあと分かります。

医師免許を取得するのって多分すごく頭が良くないとダメなのだろうけど、現場で見るとむしろ手先の器用さに驚きます。


ぬるぬる湿った小さな口の奥で、柔らかい皮膚や舌に囲まれた硬い歯を相手に、刃物を使う。なんと繊細な神経を使う作業なのでしょう。

どうやら肉は切れたようで、先生はおもむろにペンチのような道具を手に取りました。映画の拷問シーンのようで私は1人、心の中で盛り上がります。


そこからは想像していた以上に力技です。ぐいぐいぐいと歯を引き抜いています。先生の腕の小刻みな振動を見ていると力が入っているんだなあと分かります。これほど力がいるくらいに歯はしっかり根を張っているんだなあ。よくできた仕組みです。しかし肉を切られ、さらにこれだけの力を込めて歯を引っ張られても痛みを感じないとは、麻酔ってすごい技術です。麻酔のない時代の虫歯のことを想像すると恐ろしくなります。

何度か他の器具を合わせ持って施術をしつつ、ものの数分で歯はペンチに挟まれて無事に取り出されました。
CTの画像を見たときに言われていたのですが、親知らずの奥には嚢胞という袋状のものができていました。チョキッと取り出すと消毒してくれます。

初めて目にする嚢胞。この中にバイ菌や膿などが溜まっていて、疲れたときや体調の悪いときに膨れると痛くなるそうです。
前日に焼き肉を食べたからか、ホルモンMIXのことを思い出します。ピチピチとした表面と生き物らしい赤色のつるんとした光沢がレバーそのものです。こんなものが身体の中にあったんだなあ。

消毒が済むとあとは縫合です。
スマイリーの口のようなカーブした形の小さな針を使い、予想以上に太いしっかりとした黒い糸で3針縫いました。糸を通してキュっと結ぶ手順はまるでお裁縫の要領です。パートナーの口からびょーんと糸が引っ張られている様子は面白い。

あとから聞いてみると、このときパートナーは紐で締められた豚のロティになった気分だったそうです。


手術はこれで終わり。
歯医者さんでは患者さんにしかなったことがありませんでしたが、口を開けている間にこんなにいろんな器具が動き回り、先生はこんなに繊細かつ大胆な手当をしていたのです。
いや〜面白い経験でした。とくに嚢胞というのは初めて見たのでびっくり。さっきまで身体の一部だったものが取り出されるのを見ると不思議な気分になります。


通常は手術の隣にいることはできないそうです。フランス語ができるお陰で面白い現場を体験できてラッキー!
楽しんだ私の横で、パートナーは緊張の汗でぐっしょりになっていました。

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