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読書記録

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#日記

物語の効用

パートナーと車に乗っているとき、危ない運転で飛ばしている車に遭遇することがあります。 そういうときは、冗談めかして「今の車、助手席に破水した奥さんが乗っててね、旦那さん急いで運転してたよ。無事に産まれてほしいね」なんて言います。 ただの運転の荒い人かも知れないし、それとも何か大変な事情があってやむなく飛ばしていたのかも知れません。危ない運転はもちろんダメですが、相手の事情はこちらからは見えないので、好きに解釈することができます。 スーパーのレジでめちゃくちゃ感じの悪い人に

今年の読書をふりかえってみて

最近、ウェルベックの本を何冊か読んでいて、思うことがありました。 男尊女卑な男性キャラクターって小説に頻繁に、ごく当然のごとく登場するけれど、女尊男卑な女性キャラクターってあんまり見かけないなあ、と。 男性に張り合おうとか、負け惜しみとか、弱い立場だからこその強がり、単純に男性嫌いみたいな意味での男性に対抗する女性キャラクターはある。でもごく自然に、あたかも当然のごとく、女性の方が男性より優れた存在である、と確信し行動している女性キャラクターってあまり見かけません。逆に、

ブローティガンの見た東京

ブローティガンは日本に来たことがあったと聞いた。彼が見た東京はどんな街だったのだろう。どうやら『東京モンタナ急行(The Tokyo-Montana Express)』という彼の著書に東京のことが書かれているらしいのだが、Amazonで見てみると八千円もしてちょっと躊躇してしまう。Kindle版は無料なのだが、電子書籍は好きじゃない。フランス語版ならパリで簡単に手に入ったのだが、でも英語の本をわざわざフランス語で読むくらいなら原書で読みたいと思って買わなかった。そして原書がま

荒川洋治・新しい読書の世界 エッセイの空間

最近noteを書くのが楽しくて、書くほどに新たに書きたいことが出てくるのですが、ふとこんなこと書いてなにになるのかなあ、自分は一体なにを目指してなんのために書いているんだろう、と思う時があります。 自分が楽しいから書けばいいのだけれど、書いているとだんだんもっと上手に書きたいとか、もっと分かりやすく伝わるように書きたいとか、自分の頭の中にぼんやりあるものをより明確かつ自分の気持ちにぴったりな形で書けないかなとか、欲が出てきます。 そもそも日記やエッセイ、個人的な考えの記録

怒りの読書の処方箋

ちょっと前に、とある人気作家によるとある小説を読んだとき、読みながら抑えきれない憤りの気持ちが沸き上がってきたことがありました。本を読んで大人気なくこんなにイライラしたことは初めてです。ツマラナイのではありません。憤りを覚えるのです。 その主人公の思考回路や行動がどうにも受け入れられません。まあそんなことはよくあることでしょう。主人公が嫌いなタイプ=ツマラナイ小説ではありません。逆に自分と全く異なる趣味嗜好思想の人物だからこそ気になることもあるし、実生活では決して関わり合い

懐かしい友と再会するように、本と出会う日

パリの日本食レストラン街であるオペラ座・ピラミッド地区にはBOOK OFFがあります。日本にあるBOOK OFFと同じように中古買取を行っていて、ペーパーバックやDVDのほか、日本語の中古本コーナーがあり、そりゃあ日本の本屋さんに比べると微々たる品揃えです。でもパリ在住の日本人にとっては心のオアシスのような存在です。 この近くにはジュンク堂パリ店もあり最新の書籍や漫画の新刊が手に入るし雑誌の品揃えも豊富。ところが値段は日本の2〜3倍。おいそれと手が出せる品物ではありません。

映画を観て、本を読んで、時々無性に嬉しさが湧き上がる

全然斜に構えている訳じゃないけれど、みんなが面白いと言う作品が全く面白くなくて愕然とすることがあります。 だからもちろん酷評されている作品に感銘を受けることも多々あるもの。そんな時は、「もしかしてこれは私のための作品なのでは!」なんて思ってしまえるし、時にはひとりでも自分はひとりじゃないんだと感じられます。 目の前にいる人に千の言葉を尽くしても伝わらなかったことが、本や映画の奥に見つかる瞬間。地球のどこか、いつかの時代に確かに存在した素晴らしい理解者と巡り会えるこの喜び。

忘れられない『忘れられる過去』

noteやブログを読むのが最近の楽しみ。おもしろいお話がたくさん。気軽に読めるので読みだすと止まらない。本屋に行けなくとも、図書館に行けなくとも、お家にいるだけで新しいものがどんどんやってきて、文章に焦がれる空腹感を、どんどん満してくれます。 しかし”気軽に読める”というのは危険をはらんだ言葉です。ブログを読みすぎると自分がなにかを書くとき、"ブログらしい"文章に引っ張られ過ぎてしまいます。ウケを狙いたくなるというのでしょうか。 そんなときそっと手にとるのが荒川洋治さんの