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【小説感想】#柚莉愛とかくれんぼ(著:真下みこと)

読書系YouTubeチャンネル「ほんタメ!」のメフィスト賞受賞作紹介動画で知って、あらすじに惹かれて購入。
売れないアイドルが炎上していくSNSサスペンス、そして"かくれんぼ"って面白そうだな、と。

メフィスト賞ということでいろいろ覚悟して読み始めたけど、口語体の文章でサクサク読めるし、語り手にも合っている。
情景描写が分かりにくいということもなく読めた。


アイドルの生配信中のドッキリ企画が原因で炎上が起きていく。
炎上を引き起こす側の視点で描かれていて面白い。
過程がすごくリアルに感じられる。
Twitterからまとめサイト、ブログ、Twitterでさらに拡散、と。こんなふうに炎上って起きるのか。

どんでん返しの衝撃はそんなに無かった。
そんなにキレイにひっくり返ってはいない。
僕っ子の理由が言い訳くさいけど、名前がアナグラムになってたのは良い。

結末はモヤっと。
久美が太ヲタ(岩崎)と具体的に何をしたのかが曖昧すぎ。
柚莉愛が拉致されてあそこまで暴行される必要ある?
ガチ恋だかなんだか知らんけどこれは不自然な印象。
松浦亜弥〜AKB48〜NMB48と10年くらいアイドルヲタだったけど全く理解できない。
まぁ当時はガチ恋なんてワード耳にしなかったし。
ガチ恋ってこういうことも辞さない状態なのだとしたら恐ろしい。

地下アイドルの描写のリアルさには舌を巻いた。
握手会の様子、会話内容がリアルすぎてエモい。
アイドル自身の心情も現実感があって納得できる。
『推しの子』の時のようなアイドル業界を揶揄するような印象は受けず。
これは著者がアイドルとファンの関係を正しく分析し、ファン心理をよく理解しているからだと思う。

特に印象的だったのが、

アイドルとファンという関係はとても奇妙なもので、アイドルが僕たちに価値を提供しているからお金を払っているというだけなのに、いつの間にかこちらがアイドルを支えているという錯覚に陥りがちだ。

第2章ブログ記事『となりの☆SiSTERsについて思うこと』

いや、ホントこれ。
握手会のレーンに誰も並んでなくて可哀想だから自分が並んであげなきゃ、とか思っちゃったりね。あるある。
その錯覚を巧みに利用したのがAKB総選挙だろう。
何百枚もCDを購入して「俺が順位を上げてやった」と思わせる。
実際そうなんだけど、投票数による見返りの差はない。
投票が一票だけの人でも得られる満足感は大して変わりないのでは。

続いて、

熱愛が発覚してファンが怒っているときも、彼らが怒りを覚えているのは熱愛そのものではなく、アイドルが自分の思い通りにならないという事実なのだと思えます。
普通のアイドルと違って地下アイドルというのは、ファンとアイドルの距離が極端に近い場合が多いです。(中略) そうやって距藍を近づければ近づけるほど、そのアイドルが自分のものだと勘違いする人も増えるということです。
自分のものにならないということくらいわかっている、という反論がファンの方から聞こえてきそうですが、果たして本当にそうでしょうか。どんなにお金を払ったところで、彼女たちの心が完全に手に入るわけではないということを、あなたたちは本当にわかっているでしょうか。
これは通常の人間関係にも当てはまることで、親子だから、付き合っているから、結婚しているからといって、その人のすべてを手に入れることなんて不可能なのです。それが、相手がアイドルだと可能に思えてしまう。不思議ですね。
(中略) 今一度アイドルとの距離感について真剣に考えたほうがいいと、僕は思います。それに加えてみなさんに伝えたいのは、どんな人間であろうと、完全にその心が自分の手に入るなんてことは決してないのだ、ということです。

第2章ブログ記事『地下アイドルの炎上に見る、アイドルとファンとの関係性』

的確な分析と一般化、そして問題提起。
素晴らしい。

地下アイドルだと接触イベントで距離感がバグってしまう。
アイドル側もそれを利用していると思うが、そこまでやっても売れるかどうか分からない。アイドル業界の闇。
同僚のラブライバーがせっせと声優さんとの接触イベントに通っているけど、声優さんもアイドル化しているんだな。
本業だけでは難しいのかなぁ。
ある程度ビジュアルで勝負できる子が写真集を出したりしているんだろうけど、アイドルの土俵に上がったら埋もれるだろうし。
盛った奇跡の一枚のような写真をSNSにアップしている暇があったら本業の鍛錬しろや、とか思っちゃうけど事務所の意向もあるだろうからしょうがないよね。
脱線したのでこの辺にしておこう。

そしてファンは思い通りにならないと怒りが湧いてしまう。
スキャンダルが発覚したりね。
今まで注ぎ込んだ金返せ、的なことも。
いやいや、そもそもその瞬間の快楽のためにお金を払ってるんだからいいでしょ。
推しとの会話を楽しんだりステージで輝く姿を見るためにお金を払うのであって、ステージを降りた後にも理想を押し付けちゃダメでしょ。
恋人とピロートークで笑いながらリプ返してても気にしない、くらいに思ってないと。
アイドル=偶像って言われるくらいだから、実像に何かを求めちゃいけない。

お金を払ったなら未来永劫楽しめると思い込んじゃダメ。
スマホゲームのサ終と同じ。サ終したら課金して手に入れたものが無駄になるのではなく、課金しないと得られない時間を過ごせたと思わなきゃ。


アイドルについて描かれた物語としては秀逸。
アイドルとファンの関係について思っていたことを上手に整理して言語化してくれた。
ただこれは自分が元アイドルヲタで現場の雰囲気も知っているから楽しめたのかも。知らない人でも楽しめるとは断言できない。

帯にあったQRコードでまとめサイトっぽい特設サイトが見れる。
こういう遊び心は大好き。
このサイトに掲載されている書評にもあったけど、アイドル小説と称するのが正しいと思う。

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