爆竹が鳴る夜に(スペイン生活エッセイ)

レストランでの仕事を終えた私は、いつも通り「Bicing」という公共の共有レンタサイクルで帰宅をするはずだった。
深夜12時は回っていたし、その時間帯にバルセロナの街に歩いているのは少し危ない。何より疲れて早く寝たいと思った。

店から5分ほどのところにある、いつもの自転車置き場に行くも、自転車が全くない。
あら、どうしたのかしら、と次に近い自転車置き場に行っても故障した自転車があるだけだった。

「あら〜、なにかあるのかしら」

その日は土曜日の夜で、スペイン人たちは飲みに出かけがちの曜日ではあったが、それにしてもここまで自転車がないなんて珍しい。
もう少し道を逸れれば別の自転車置き場に行けたけど、もう面倒になったので行くのをやめる決断を下した。

さて、腹を決めて歩き出そう。と気を引き締めて歩き出したところ、
急にパァァァァァン!!!!!と大きな破裂音がした。

なになになに!と驚いた私。第六感どころか、第七感まで作動しそうだった。

周りを見渡してみると、15歳ぐらいの少年たちがキャッキャと走りながら、爆竹を鳴らしていた。
バルセロナでは深夜でも若い子たちが遊んでいるのはちょこちょこ見かけるのでそれほどまでに気に留めていなかったのだけど、
再びパァァァァァン!!!という破裂音。
しかも連続してる。
パァぁあん!パァン、パン!パンパンパンパン!!!

また周囲に目をやると、さっきの少年たちだけじゃなく、おじさん、おばさん、10歳未満ぽい子どもたちとか、もういろんな人たちが爆竹を鳴らしているではないか!!!

それもそのはず、、、
夏至の日前夜のお祭り「サン・フアン」だったのだ。

夏至は一年の中で日照時間が最も長い日であり、太陽の力と生命力を象徴しています。この時期には農作物の成長が最も活発になるため、収穫への期待や感謝の気持ちが込められます。サン・ファンの祭りは、この夏至の日を祝い、農業や自然の恵みに感謝する伝統的な行事として行われてきました。

chat GPT

それにしてもえげつない数の爆竹と、凄まじい音。
バルセロナの列車ターミナル駅サンツ駅の横にはストリート系の坊やたちがたくさんいる溜まり場みたいなのがあって、
あんまり治安がよくない、なんて聞いたこともある場所。
長さ200〜300mはあるだろう。
横幅も50m以上あるので、横に広がって爆竹を楽しむ姿が見られた。

自転車に乗り損ねた私だが、
その道は通りたくなかったけど、少し近道になるので歩きの日はいつも通るのだ。
早く帰りたかったので仕方なくそこを歩いていたわけなのだけど、
もう100人以上が爆竹に夢中になってて、
わざとじゃないと思うけど、爆竹がなん度も私の方に転がってきては
足元で爆発して、
足首に熱さを感じたり、感じなかったり笑
怖いので道の端っこを歩いていたのだけど、
その道の端っこはタクシーレーンになっていたので
運転手さんたちからの睨まれたことで
もう恐怖心倍増!

「え、もう、怖い!怖い!」

なんて結構大きめの独り言を言って通り過ぎていたけど、
おそらく誰も聞き取ってないし、
そもそも日本語だから、
そこにいるスペイン人だか、なんだかわからない人たちは
絶対理解しない言語だからなんだっていいや。

危険スポットをぬけ、少し爆竹が止んだ。
駅周辺は少し開けた場所が多いが、
そこを抜けると住宅街になるからだ。
といっても、さっきほど爆竹がなってないだけで
断続的に破裂音はどこからともなく聞こえてくる。
さっきの危険スポットが凄すぎて
慣れてしまった自分がいる。
慣れって怖い、なんて改めて感じちゃったものだ。

さて、そこの角を曲がって直進して5分も歩けば我が家、、、
というところまできた。
いつもの角を曲がる。
すると、路上で炎が大きく広がっていた。
消防車も出動する騒ぎ。
懸命に消化活動をする隊員3人ほどを、
50人ぐらいの住人が見物していた。


「夏至の日はね、爆竹をするのもあるんだけど、中には嫌な記憶のあるものを燃やす風習もあるんだよ」
見物していた住人の一人に何が起きているのか聞いたら、こんな回答が返ってきた。
いわゆる、お焚き上げのようなものだろう、と私は理解している。
ただ、その炎の原因がお焚き上げなのか、それとも悪ふざけなのか、
そこは分からずじまいだった。

この日はビーチに行くともっとたくさん人がいて、
サン・フアンらしいことが見られたらしい日だが、
もう流石に疲れていたので就寝した。

でも、偶然とはいえ、歩いて帰ったからこそ
日本では経験できない爆竹騒ぎに巻き込まれることができた。
渦中にいるときは本当に怖かったけれど
今となっては思い出すだけで笑えてくる。
日常が非日常なスペイン生活はこれだから面白い。

爆竹の音は、朝まで鳴り響いていた。
今年の夏はいい夏になる気がする。

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