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勝手に1日1推し 82日目 「ブルーピリオド」

「ブルーピリオド」山口つばさ     漫画

噂は届いておりました、面白いって。メディア各種が猛プッシュ&漫画賞も受賞しまくりだったし、気になってはおりましたが、手に取るまでには至らず。からのアニメ化!万歳!!ふむふむ、おもしろ~い。
アニメで良いかな?美術が題材だし色が付いて音が付いて、漫画よりウハウハじゃない?って思っていた自分がK.Oされたのは、結構すぐでした。
主人公八虎の同級生ユカちゃんが

世間が良いって いうものに ならなきゃ いけないなら 俺は死ぬ (中略) 俺の”好き”だけが 俺を守ってくれるんじゃ ないのかなあ・・・!

「ブルーピリオド」2巻

と吐露した瞬間、左フックが顎をとらえ、
もう1人の同級生世田介くんが

なんでも持ってる人が美術(こっち)にくんなよ 美術じゃなくてもよかったクセに・・・!

「ブルーピリオド」2巻

と吐露した瞬間、がっつり右ストレートが頬を打ち、完全なるノックアウト!!その足で本屋に走りました!!!とんでもない作品でしたわ。

現在11巻まで出ており、まだ完結しておりません。優等生でそつなく生きてきた高校2年生の矢口八虎が主人公。美術室で見た1枚の絵をきっかけに芸大を目指す・・・のが1~6巻まで。そして7巻以降は、大学入学後の八虎の奮闘が描かれています。

興味深い点が大まかに3つありました。
まず、言わずもがなですが、芸術が題材でので、絵そのものに触れられ、見方が知れるという点。基本的な知識や技法、構図や色、視点など。初心者八虎と同じ目線で事細かに指導してもらえて、感無量です!へぇ、そうなんだあって唸るばかりですし、実際見方も変わります。天才と言われる人の作品でさえ、法則や緻密な計算、努力に裏打ちされているという事実も目の当たりしました。個人的な努力と才能のくだりも描かれていますが、実際重要だなあって思います。どんな世界でもぶち当たる問題ですしね。

更には、リアルに芸大という誰もが知る最高峰の大学を受験するにあたって、学ぶべきことやその方法、考え方、挑み方、そして実際の課題についてを知ることが出来るという点。フィクションであれ、芸大を目指す人たちの精神状態やその他もろもろも興味深いですよ。私は特に予備校時代が気に入っています。予備校生たちが描くたくさんの絵が見れるので得した気分になりまた!素敵な作品ばかりで真剣に見入っちゃいました。

「スポコン美大受験物語」って紹介文だけど、ホント実際に美大受験はスポーツだったよ!体力と精神力、技術と感性を戦わせる大乱闘!壮絶なる個人戦!ハラハラドキドキが止まらなかった~。

それから、一番興味深いなあって思っているのが、主人公八虎が「わきまえている」人であるという点です(悪い意味ではありません)。ここがこの作品のドラマ部分を支えていると思っています。「わきまえる」って今夏、話題になったけれど、日本人に存在する習性みたいなものな気がするんです(悪い意味ではありません)。八虎と共に美大を目指す仲間たちで特に重要な人物がおりまして、それは前述のユカちゃんと世田介くんです。彼らの言が示す通り、この2人はどちらかというと八虎とは正反対の「わきまえない」人たちなんです(悪い意味ではありません)。往々にして漫画や映画で主人公となり得るのは、こちら側「わきまえない」人でありがちじゃないですか?ですが、八虎は空気を読み、上手に立ち回れる器用な子です。特には不自由していない子。人当りもよく、微妙なラインの素行の悪さを楽しみつつっていうリア充ぶり。真面目で、勉強もできる優等生な訳で、そのまま行けば無難にイイ感じ一直線なんです。そんな子が出会ったのが絵の世界。自分の世界が全てのような次元の異なる世界に飛び込み、そこに今までにない安らぎを感じるっていうのが始まりですが、理屈としては合っていそうだけれど、今までなかった形と言うか、逆転の発想で描き出している点が凄いなあって思います。とにかく面白く興味深い!!!
何か妙に予備校で大葉先生が放ったヒトコトにもしっくりきたりして。

マジメさに 価値があるのは 義務教育までよ イイ子で いることを 評価してくれるのは そうだと楽な先生と親だけでしょ?

「ブルーピリオド」4巻

ほんと、日本の教育の在り方を問うてる!もう学校の先生全員読めや!読書週間に読めや!って配りたい。社会に出るとは、そういうことです。

空気が読める これは武器でもあるから 「悪いこと」というより 「悪いクセ」 と言った方がいい

「ブルーピリオド」4巻

真理よのぉ。全日本人が納得よのぉ。でも、これじゃあいかんのよ。芸大受験者は・・・
そこそこ楽しんできたと自負していた八虎だけれど、自分の作品に取り組む中で「楽しんじゃう力」「自分勝手力」が足りていないという指摘をされるのです。この認識のズレと無自覚さこそが八虎を絵に向かわせたんだろうなって思うと、シビレルよね!まぁ本人にはどっちりくるものがあったでしょうが。
私も優等生じゃあなかったけれど、どちらかというと八虎よりの人間で、分けちゃいかんのだけれど、割合的に八虎側の人って多い気がするんだよなあ。適応しているように見えても、窮屈な思いをしている人って本当に多いって思わされるよな・・・

で、この八虎と仲間たちのドラマの部分、人間性の部分が大学進学後また掘り下げられてくるんだよなぁ。より十人十色な強烈な個性のぶつかり合い。色んな人がおりますのよ。大学だもの。芸大だもの。人格が作品に表れると言うか、その人の考え方や生き様が作品に表れると言うか、決して楽しい!とか好き!だけじゃ通用しない世界の幕開けなんです。それぞれが自分と向き合い、自分の弱さを認め、自分を知らなければならい。八虎はどうするのか?どうなるのか?八虎の心の動きが、葛藤や悩み、思考が理解出来ちゃうので共感しかないです。他人事と思えずシンクロさえしちゃったり。

美大合格という正解はないけれど、定まった目標が先にある作品作りと、正解と目標を目指し、真っ暗闇の中、ないかもしれない光を探すような作品作りとは全く別もの。実は臆病で自信もなく、受け身だった八虎の大学初年度は、想像に難くない結果に終わります。が、この1年を糧にした2年生からがまた楽しみ~。高校からの遊び仲間たちとも依然仲良し、みんな超いい子なのも素敵。色んな刺激を受けてがんばれよ、八虎!

あともう1点、補足!八虎を陰で支える二大ヒロイン、ユカちゃんと世田介くんが最高です。好きです。
同志であり、八虎に気づきを与える、ユカちゃん。受験~小田原へのプロット、良過ぎる!幸せになって、ユカちゃん!
憧れであり、八虎に希望を与える、世田介くん。人間関係が与える影響の大きさを渋谷のオールで感じました。今度は、辞めなくてよかった!絵が描ける喜び(「悦び」かも?)を感じられてよかった!
今後のこの2人の成長と歩み、八虎との関係を考えずにはおれません。ホント楽しみだなあ。山口つばさ先生ってBL出身なの?

あと、橋田くんも好き。って言うか、美術館、ギャラリー各所に声を大にして言いたい!!オーディオガイドの音声を橋田くんにお願いするべき!と。あの柔らかい関西弁で個人的に解説してもられたら、オーディオ台数全てがフル稼働すること間違いなし!ですよ。
あの、ベラスケスの解説・・・うっとりするやら納得するやら感心するやら、もう、最の高でした。大して興味なかったけど、ベラスケスが描いた肖像画、超見たくなった!プラド美術館展に行かなかったことをひたすら後悔しておりまする・・・・でも、あつ森で本物ゲットしたもん。だからいいもん。

最後に私事になりますが、来年度は、受け身体質からの脱却を目指します!マンガも小説も映画も好きだけど、享受するだけに甘んじるのはどうなんだろう?と思う年末です。気づきを与えてくれてありがとう、八虎くん。そして「ブルーピリオド」。

ということで、推します。


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