勝手に1日1推し 36日目 「しまなみ誰そ彼」

「しまなみ誰そ彼」鎌谷悠希     漫画

人に優劣なんてないけど、結局、多数派の方を優としてはいないか?少数派を庇護しようだとか、憐れんだりだとか、そんな奢った考え方をしてはいないか?私たちは多数派が主流の流れをあまりに当たり前として受け止めすぎているが故に、少数派は「沈黙は是」の姿勢を崩せずにいる。悲しい現実にめまいがしました。

クラスメイトに「ホモ動画」を観ていることを知られた、たすく。
自分の性指向…ゲイであると皆に知られたのではないかと怯え、
自殺を考えていた彼の前に、「誰かさん」と呼ばれる
謎めいた女性があらわれた。
彼女は、たすくを「談話室」へと誘う。
そこには、レズビアンである大地さんがいて…。 Amazon

「しまなみ誰そ彼」。LGBTQAの人々の日々の営みが描かれています。アイデンティティがまだ確立していない幼いの子から、確立後もなお、悩み、問題を抱える大人たちまで、立場も環境も考え方もいろいろな人々が集い、憩う談話室でのお話です。そこで見えてくるのは、彼ら、彼女らは、ただ自分でいたいだけだってことです。それなのに、世間はそれを許してくれません。時に無意識に、無責任に、時に善意でとさえ思い、特別視します。

「悪意とは戦えるけど、善意とは戦えない」

って、ほんとそれ。騒いだり、はやし立てたり、逆にいい人ぶって胸糞悪くなるような人も出てくるけど、基本的に悪意を全面に表した人は出てこない。悪気のある人はいない、そのことこそが皮肉なところで、誰もが当事者になりうるってことの裏返しになっているのがまた辛いです。知らないふり、気にしないふり、気づかないふり、理解しているふり。当人はふりだなんて思っていないし、相手のためだと信じての言動だったりする。なんなら作中、主人公ですら同じことを経験するのです。

本当に難しいことだ思う。この本を読むと逆に、どう接したらいいか分からなくなるかもしれない。でもきっと、悩み、葛藤し、傷つき、苦しみ、それでもなお勇気を奮い立たせる彼らを知っていることと知らないこととでは180度の違いがあるように思います。

常に考えていかなくてはけないんだと思います。対岸の火事だと思っていてはいけない。どんな可能性もあり得ると、想像力をもって考える。当然を捨てる。当たり前を捨てる。「沈黙を是」としない。ますます心の機敏をフル稼働させる必要があります。肝に銘じておきましょう、絶対の好意であっても相手を痛めつけることがあると。人それぞれ大切にしているモノやヒト、コトは違う。自分の基準が他の人のそれとは、たとえ親子でも夫婦でも恋人でも友達でも決して同じではないと心にとどめておかないといけないです。

結局、それぞれが抱える悩みや問題がすっぱり解決するわけじゃないんですが、ハッピーに着地するラストが快いです。人生に即していれば、そん分かりやすいハッピーなんて少ないしね。そして、何より古民家再生プロジェクトを手伝う設定がウマい。正にスクラップ&ビルド。テーマにぴったりかと!

最後になりますが、本作のLGBTQAの人々のような立場には、障害を持っている人、それは、目に見える障害を持つ人ばかりではなく、難聴や吃音、発達障害などの人も含まれ、更にヤングケアラーと呼ばれる子どもたちもおります。ダイバーシティ&インクルージョン!自分を含め、誰もが自分らしくいられるよう、一人ひとりが日々、あらゆる可能性を考え、想像力を働かせて生きていきたいですね。

(LGBTQA当事者の方からするとズレているかもしれませんが、個人の見解として記させていただきました。)

こういう本は、学校の図書室に並んでほしいなあと思います。色々考えてほしいなあと思います。学習漫画ってやつですわ。

ということで、推します。


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