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勝手に1日1推し 78日目 「海が走るエンドロール」

「海が走るエンドロール」(1)たらちねジョン     漫画

先日の「メタモルフォーゼの縁側」より引き続き、年齢差交流を描いた作品です。いいですね~。本作は「好き」を共有するお友達というより、「好き」を突き詰める同志のお話かなぁと。ほんわり優しいというより、パッション迸る熱い物語になりそうです。なりそう、なりそう、そう、そうなのです、まだ1巻!!今後どんな展開になってくるのか、楽しみです。

カヴァーがいい!本屋さんでジャケ買い(死語?!)、ならぬ、表紙買いしちゃっいました!16mmフィルムのカメラ(だと勝手に思っています)がかっこよくて~。あのヴィンテージなハンディ感、かっこ良過ぎるよねぇぇぇ。

65歳を過ぎ夫と死別し、数十年ぶりに映画館を訪れたうみ子。そこには、人生を変える衝撃的な出来事が待っていた。海(カイ)という映像専攻の美大生に出会い、うみ子は気づく。自分は「映画が撮りたい側」の人間なのだと……。心を騒ぎ立てる波に誘われ、65歳、映画の海へとダイブする!! Amazon

冒頭、うみ子さんが映画館に久しぶりに赴き、映画を鑑賞するシーン、めっちゃ臨場感。あの独特の高揚感、思い出すだけで映画館へ行きたくなっちゃう。「DUNEー砂の惑星」観たいなあ。ミニシアター世代な私なんですが、最近はもっぱらシネコンよね。広いし、見やすいし、食べ物あるし、綺麗だし。きっとうみ子さん、久しぶりの映画館ってだけ以上に驚いたんじゃない?だってスクリーンも音響もまるっと全ての質の向上が半端なくて、昔とぜんっぜん違う!!って思ったに決まってる。びっくりだヨ、絶対!でもそれを見る人の顔は変わっていないって言うね・・・。真剣で夢中でさ。エモい!(←言いたいだけ)ってそこ掘り下げなくてもいいかもだけれど、気になってしまいましたとさ。

さて、タイトルの通り海と映画のお話です。内容に留まらず一貫して海に纏わる表現が用いられていて、分かりやすく読みやすくて、良いなぁって思いました。特に随所に見られる波の表現が素敵でした~。有無を言わさず、のまれる感じ抗えない感じが最高でした!築き上げてきた日常を崩すことへの不安をも凌駕し飲み込むほどの激情が伝わります。かっこいい!

うみ子さん、まさかの年の功。日常にビックウェーブ!!海くんとの偶然の出会い、最高かな。ビデオで「老人と海」一緒に見るとか・・・ラスト、うみ子さんが海くんを海に連れていくとか・・・「老人と海」だなあ。

ともあれ、65歳で美大に入学ってすっごーい!!ガッツあるな。行動に移すこと、そしてそれを続けること。この2点で未来は変わるからね。うみ子さんや「メタモルフォーゼ~」の市野井さんを含め、こういった高齢女性のロールモデルが沢山欲しいなあと思うのです。イケイケ!

殊、高齢化社会でもありますし、こういう親や親戚以外のシニア世代との出会いで次世代へもいい影響があったりするかもしれないなあって思いたいです。

普段考えないじゃん 親以上の世代が 世界をどう観てるとか

65歳の後輩、うみ子さん撮った映像を見た先輩美大生(20歳くらい?)の言葉です。こんな感じでいい影響があったら・・・。自分達とは違う世界を知り、その違いに面白みを感じるのって新鮮じゃない?

今の時代って、何だかんだ言って、自分で全てを選べてしまうのですよね。好きな人、好きなこと、好みの情報だけで身の回りを満たすことができちゃうの。それって実はもったいないことなんじゃないかなって思ったりするのです。

「違うところを感心するってことがなきゃ、人生なんてつまんないんじゃないですか」

ずっと以前に朝日新聞の折々のことばに載っていました。映画監督羽仁進さんのことばです。年齢とか性別とか人種とか、個人ベースの性格とか好みとか感性とかも含めて、自分とは違うところを通して見えてくる世界ってあるよなあって。そういう違うところを面白がったり取り入れたりすることでより人生が豊かになるんじゃないかなあって思わせてくれて、未来を感じます。奇しくもこの言葉が映画監督によるもので、そう感じているのが(フィクションではありますが)表現者(映画作りを目指す若者を含む)たちであることも必然と言えるのかもしれません。

それから、知り合いを「他人」ってきっぱり言える若者、「エモい」が分らないけど聞けない高齢者。そして、ポセイドン!には笑っちゃった~。この対比、好き。観てる映画のズレも好き。どちらの感覚も分かる世代な故、凄い面白いなー。

この年齢によるギャップは考え方にもあって、うみ子さんの映画作りに対する姿勢が「好き」に基づいていると言えず、「もう年だから」とか「趣味だから」とか言い訳して、照れ隠ししたり失敗した時のための逃げ道を作っちゃってる老獪さだとか、反対に「若さ」を理由に「まだ取り戻せる」と大丈夫感を海くんに押し付ける横暴さとかに表れているんだよなあ。全く逆の考え方を持つのが海くんなのです。

でもコレって本当は年齢なんて関係なく、多かれ少なかれ1度は経験したことがあると思うんです。ほんと、個人の心と意識の流れを丁寧に描いていて、日々の営みの中で、自分にとって当たり前だったことや思いが実はそうでもなかったのかもって、多くを気付かせてくれました。しかもサラっと嫌味がなくて押しつけがましくもなくて、いいなあ、と思いました。

更に最後に本巻クライマックスで1つ。親ガチャという言葉が席巻する昨今、経済的な理由や境遇などで大切な何かを諦めなくてはい状況にある若者(だけじゃない)が多いかもしれません。映画を諦めた友人を語るラストのプロットでうみ子さんは言いました。

作る人と 作らない人の 境界線ってなんだろう (中略) 船を出すかどうか ・・・だと私は思う

と。確かにその通りなのだけれど、現実問題、そう簡単にはいかないんじゃないなあとも思うのです。でも

その船が 最初から クルーザーの人も イカダの人もいて それは年齢だったり 環境だったりで 変わるけど 誰でも船は出せる

と言いました。うん、そうよね。せめてフィクションの世界では夢を見よう!!って前向きになりました。果たして、今後うみ子さんと海くんの映画作りはどうなる?2人は良好な関係を築くことができる?まだまだ始まりに過ぎない1巻。次巻に期待!

はー、映画館で映画見たい!「DUNEー砂の惑星」は劇場で観たい!「ダイマックス」も観たい。そしたら、私もエモい(←言いたいだけ)かな?

ということで、推します。

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