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勝手に1日1推し 161日目 「怪物」

「怪物」監督:是枝裕和 脚本:坂元裕二 音楽:坂本龍一     映画

たった1人の孤独な人のために書きました 評価されて感無量です

坂元裕二さんが本作でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞されたときの言葉です。
この言葉から紐解かれる愛と希望、そしてその先を考える物語です。

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した――。

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言葉にならない思いが次々と溢れてきて、しばらく何も手につかなかったです。
思えば、子供から大人まで登場人物みんなが小さな孤独を抱えていました。そんな人々がもがき苦しみ、見出すかすかな希望。一人きりでは辿り着けなかったであろうラストは光に溢れ、幸せが感じられて救われました。
何気にいつも明るいラストで未来に繋げてくれるよね、是枝監督って。登場人物たちのその後の人生まで考えさせられると言うか、考える必要があるんじゃないかと思わせられると言うか。絶対まだ社会を諦めていないんだろうなって思います。今回は心からほっとし感謝さえしました!

が、本編中は心が痛くて痛くて痛くて苦しくて苦しくて苦しくて辛かったです。

物事は、こんなにも多面的であるというのに、私たちは不確かな情報や状況から、勝手に思い込み、自分に都合のいいような筋書きを立てて、信じたいものを信じて突っ走っちゃう。確証バイアスって言うんですかね~?
SNS時代、世間の無責任、無理解が加速しまくって、それに伴い進む分断。
そんな最悪な世の中でぺしゃんこに踏みつぶされる人々をさんざん見せられるって感じだもの、辛いに決まってます。
なんだったら、いつ自分の身に起こってもおかしくないんじゃないか?というレベルな身近さで怖さも襲ってきて、戦々恐々となる始末。
いやー、まさに今の映画。現代社会に生きる人類、全てに向けた壮大なる問題提起でしたよ。

加えて「クィア・パルム賞」も受賞しております。性的マイノリティについて幼い子供の視点で真摯に向き合っていて、これを見ても、なお生産性がどうのとか配慮のない不誠実なことが言えるってのか?!政治家よ!!って怒り心頭。今月はプライド月間です。誰もが今一度考える一助になるんじゃないでしょうか?

とまぁ、主題が1つに留まらない現代社会そのものを描いておりました。全世界共通で抱えるテーマですよね、これは。素晴らしかったです。

まず、構成が見事でした。空白だらけで散文的に紡がれる物語の空白部分がどんどん埋まり、徐々に大きな真実が浮かび上がってくるんです。
いわゆる伏線の回収、という言い方はちょっと似合わなくて、もっと情緒的な事情が詳らかにされていくんです。ここが、是枝監督らしい演出だと思うんですが、小説みたいに行間があるっていうところ!主題が細部に宿りまくっていて、シーン1つ1つ画面の隅から隅までに意味があって、見方、見え方の違いを如実に語っておりました。真骨頂である日常を大切に描く、が本作でも遺憾なく発揮されておりました。
言葉では語りきれないです!本当に素晴らしかったです!

それから、坂元脚本の神髄、会話劇についても言及したいです。冒頭の校長室でのやり取りなんかが坂元さんらしかったですが、解釈の違い、思いの違い、立場の違い、正義の違い、価値観の違い、それぞれ主体の違いから生まれる齟齬と違和感が強烈に発信されてました。普段だったら、いくら重かろうとこの齟齬と違和感を面白さとしてコミカルに落とし込みそうなところですが、今回ばかりは真面目に真剣に深堀し、逆にその齟齬や違和感が起きる原因が徐々に明かされていくっていう組み立て方をしておりました。流石です。ついに世界に出たなって、おめでとうございますって大声で叫びたいです!!

そして戻って是枝監督。やっぱり10歳くらいの子供を描かせたらピカ一ですよ!「誰も知らない」の柳楽くんがよぎりました!あの、スクリーンいっぱいの横顔がね、物語るのよ。全てをあきらめたような、全てに抗いたいような、なんとも言えない複雑な表情。湊~~!!!涙。ぐっときます。

子供の純粋であるが故の無邪気な残酷さ、自由であるが故のがんじがらめな不自由さがこれでもかってくらいストレートに描かれています。未発達で未分類な感情の発露とそれに伴う言動が本当にリアルでした。靴のかかとを踏んずけたまま歩いてるのとかも細かいながら、小5あたりの男子あるあるだから。ほんとドキュメンタリーかってなりました。
正義とは別にある自分の中の正義たる防衛本能で周りに順応するんだと思います。学校という箱庭で生き抜くためにつく嘘ならざる嘘。その嘘っていうのは、真っ赤な嘘(の場合もあるけれど)という訳じゃなくて、認知の差やその歪み、未熟さからくるものであったり、希望又は願望であったりするから、責められるべきものではないんだと思います。指導に値すると言うか何と言うか。
でも、これも、他者視点で客観的に見てるからそう分析したり判断したりできるけれど、当事者だったらこうも冷静ではいられないんですよね、、、実際、劇中の大人たちを見れば一目瞭然で、大人の身勝手さが身にはつまされます。自分自身の言動を振り返っちゃいますよ、本気で。
あぁ、もう、痛々しくて見てられないっしょ?!めっちゃ泣いちゃった。

それでも彼らが口にする言葉には必ず意味があるんだって思うんです。嘘だとか作り話とか意味不明とかで片づけたくないなって思うんです。知る努力をしたいって思います。
子供ならではの思考回路だから無秩序でいまいち繋がらないことが多かったりするし、湧き起る衝動は予測不能で、今?!ってなったりするんだけれど、それこそが子供なんだから。ほんと、子供の描写のリアリティが半端ない!!!!

きっと、1人の人間(子供も含)と対峙する時、自分の常識は捨てないと、当たり前を捨てないといけないんでしょうね。知ってると思っちゃってる、分かってると思っちゃってる、だけど、実際は身近な人であっても(身近であればあるほど?)、知らないし分からないし、ましてや理解なんてできていないんですよ。それが「怪物」って例えられているんだろうなって思いました。決して分かり易く異形で異質なものが「怪物」なんじゃなくて、理解しがたく未知なものに人は恐れを感じ「怪物」だって思っちゃうってことなんだろうなぁと解釈しました。劇中の怪物ゲームがそれを表していたように思いますし。

解釈の違い、思いの違い、立場の違い、正義の違い、価値観の違いを受け入れ、寄り添い、尊重しあい、想像し、グレーな部分を残す関係性を目指していくことで、少しは生きやすい世の中になっていくんじゃないかなぁとか鑑賞後ずっと思ったりしたりしております。

ででで、田中裕子さんがぱねーっす!!でした。田中裕子さんにしか出来ない校長先生でした。名優過ぎます。この年代の女優さんって凄過ぎない?余貴美子さんとか宮本信子さんとか、亡くなっちゃったけど、樹木希林さんとか・・・。
てか、演者全てが完璧でしたけど。どなたも最高の演技でしたけど。子役の2人も名演でした!よりくん、個性的で可愛かった~。

最後になりましたが、坂本龍一さんの音楽も忘れ難し!ピアノの調べが映像に寄り添い、物語を尊重しております!主張することなくバックアップし、引き立てるという映画音楽の妙。素晴らしい!

脚本:坂元裕二×音楽:坂本龍一×監督:是枝裕和、もう2度と実現することのないとんでもない夢の最強タッグ!!
ぜひ劇場にてご堪能ください。

ちなみに私は、めちゃくちゃ真に迫った学校運営、クラス風景や子供たちに全集中して見ちゃってたんですが、絶対見る人の視点によって、感じ方も意見も異なっていると思います。鑑賞者の見方見え方の違いを受け入れること、それはすなわち尊重しあうってことに繋がると思いますので、多くの人が鑑賞して、色んな方面からの思いのたけを語らえたらいいなあと思いますです、ハイ。

はぁ、色々整理がつかなくて長くなっちゃった、てへ。まとまっているんだかいないんだか。ですが、思いを巡らす、これこそ、本作が訴えかけるメッセージなんだと思います。

ということで、推します。

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