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勝手に1日1推し 127日目 「刺青の男」

「刺青の男」阿仁谷ユイジ     漫画

必ずや到達するところ、BL界の頂、それが「刺青の男」。BL好きを称する方々が一様に推す本作。そりゃ、推すわ。とんでもないもの。凄いもの。世界観も構成力も特出してる!!Yabai!

もの凄いダークでハードボイルドでグロかったです。本当にBLかいな?!って思っちゃう。「孤狼の血」って感じでした。こわ~。
なんか知らないけど、「仁義なき戦い」とか「アウトレイジ」とかって見ちゃうっしょ?あと「ゴッドファーザー」とかさ、好きっしょ?
一般的に生きていて、決して交わることはないだろうし、共感もしない、共有も共鳴もしない、そんな世界って結局魅力的よな・・・常識なんぞ通用しない、別世界感がたまらんのです。そういう極道の描かれ方。何度でも言っちゃうけど、コレ、本当にBLかいな・・・?

背中に魂を刻んだ男たちのトリッキーでドラマチックな愛の形、オムニバス。牡丹の男・潟木清次…人生を踏み外しヤクザになった潟木が見つけた愛する恋人は実は…!? ラナンキュラスの男・武藤大輔…愛した女が遺したひとり息子、お目付役となった武藤は…。狂い鮫の男・埜上猛志…屑な人生を地でいくヤクザ楚上は今日も欲望のまま。そこへ現れた上玉は…。そして、刺青の男たちを終焉に導く謎の男“久保田みつる”。裏社会で生きる男たちそれぞれの「幸せ」を描いた物語。商業誌未発表作「刺青の男」番外編ショートを収録した電子特別版。

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4編からなる短編にしてこの重厚感。そこはかとない不穏感が漂い、一語一句一コマたりとも見落とせない緊張感。Yabai!後味は良くないんだけれど、読後の満足感が半端ない。

たった3~4日の出来事を扱っているだけだというのに、とにかく奥行き深く、ドラマ性があります。ミステリ感覚で魅せ、ファンタジーをもダークマターに落とし込む徹底ぶり。これぞ病みというヤツか?!。しっかり悪事の代償も片づける見事さ。それがとても良し!!メリーバットエンド(←最近知りました)ってヤツです。

このドラマ性は全て見事な構成力のなせる業。素晴らしくトリッキーな連作ぶり。独立しバラバラに見えていた物語が、まるでパズルのピースがぴったりはまり実像を表すかのように、ラストで全体像が明らかになった時、本気で震撼します。少ない情報でここまで物語の時間や背景、状況、関係性を展開させる手腕に感服です!計算しつくされてる~。

あの時の、ああだったの?!この時の、こうだったの?!って、細かい伏線全てが回収されるので、読み返し必至ですよ。所せましと散りばめられる情報を逃さないで!内容に前のめりになっちゃうんだけど、それはもちろん言葉や作画、構図やレイアウトのセンスあってのことだって思います!!
だから、かなりヘビーながらもその読み込みがクセになっちゃうの。怖いし、何とも言えない感じになるのが分かっているのにどこか全てを受け入れてしまう自分がいて、読み返したくなるんだよなぁ、不思議。

しょっぱな、予告がまた本気でYabai!脳内で音と映像が浮かび上がってきます。映画のオープニングみたい。かっこよ~。で、今回電子で読んだんですが、番外編のショートを最後に読んじゃうと、読後にまた予告からってループが止まらなくなるから困ります。
是非この退廃ループをご体感あれ。Yabai!

さて、話は変わって、14年前。2008年ですって。本作の発行年度です。なるほどなるほど。
BLにハマって長くはないけれど、それなりに数は読んできたと思うんです、私。でも初めてだな。初めて目にしたな。HIVって。同性間での性交渉を語るにあたり、避けては通れない問題だったりするはずなんだけれど、本作で初めて目にしたなあ。
今でも現役の人気作家さんでいらっしゃる阿仁谷ユイジ先生ですが、当時(今も?)、自作でHIVに触れるのって勇気要っただろうなって思います。現実として十分あり得る事実を提示している、そんな挑戦的で実験的なところも本作の魅力であるし、支持率、評価の高さに繋がってるんじゃないかと思いました。
社会的問題として深く踏み込まずとも、娯楽として消費するだけではアカンっと言う思いも込めて、こういうの、必要かもと思ったりしました。

1か月くらい前?いつだか忘れましたが、朝日新聞でHIVについての記事を読みました。もはや「死の病」ではなくなったって、研究が進んで治療法や治療薬が確立しているという内容でした。でも未だ差別や偏見を拭い去れないとのことなので、その辺も含め、明るい話題に繋がるよう今後BL界がリードしていけたら、新たなステージに向かうのかもと思ったりしました。もちろん簡単じゃありませんが・・・。(第一歩として、コンドームを使う描写を増やすの、ありじゃないですか?!)

阿仁谷先生の他の作品、読んだことない!バカ、私のバカ!!是非読んでみようと思います。もう1つの収録作もオカルティで、ホラーチックで、細部にこだわりが光り、好みでした。どんとこいフロイト野郎!ぐふ。
所謂、病み系、嫌いじゃない。否、むしろ好きだぞ、コノヤロー。読むぞ。

ということで、推します。

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