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勝手に1日1推し 196日目 「落下の解剖学」

「落下の解剖学」監督:ジュスティーヌ・トリエ     映画

⼈⾥離れた雪⼭の⼭荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)に殺⼈容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息⼦だけ。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場⼈物の数だけ〈真実〉が現れるが――

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152分。ずぅーっと落ち着かない。しかも鑑賞後もなんだかずぅーっと落ち着かない。とてつもない長く苦しい時間を登場人物たちと追体験する作品です。
んもー、へとへとです。精神的余裕と体力がある時の鑑賞をおススメします。

直観には響かないし、直観では語れません。深い探求と考察によってのみやっと少しだけ自分を納得させられます。だから鑑賞中も鑑賞後も含め、長い時間が必要で、その紐解きから整理、分析する作業は、正に”解剖”と言えます。えらいこっちゃ。心身にくるぅ。
「真実はいつも1つ!」とコナンくんが解決に導くように落ち着くことはありません。

ミステリにしてミステリにならず、法廷劇にして法廷劇ならず。
結果にコミットしがちなミステリ、法廷劇というスタイルを借りているからこそ、結果が全てとは言えない人間の抱える矛盾や複雑さがより鮮明に見え、深い人間ドラマになっていると思います。
前述した通り、残念ながら、すっきり解明し納得のいく結末を迎える訳ではありませんので、悪しからず・・・。
判決後、サンドラが車でダニエルの待つ家に帰るシーンなんて、文字通り先行き真っ暗でどん底の気分ですよ。音を楽しめない音楽にも終始イラつかされるし、最後まで、いや終わってまで疲れる・・・。

夫(父)の落下死の真相を求め、被告人、弁護人、検察、裁判官、関係者と、弁論を繰り広げていくのですが、被害者死亡の為、真実が見えにくいんですよ。夫の人物像がとことん分からないんです。なので、それぞれ主観で語ったり、思い込みで語ったり、犯罪を個人の責任として裁くことを目的とした司法上、真実云々より、各人が理想の筋書きでゴールに結び付けてる感がものすんごくて、なんだかとても不快でした。故に関係者の数だけ真実があるように見えるんです。証言が変わっちゃうことあるの、責めるのヤメロ!!事実が見えなくなるダロ!!

そんな中、徐々に見えてくるのが、夫婦の問題、家族の問題、そして親子の問題。
相手あっての関係性に問題が生じているんだけれども、あくまで個人として問題を捉え、提起し、思考し、解決しようとしているところに驚きを覚えました。
11歳の息子ダニエルくんでさえもそうだし、大人も彼を個人として扱っている。これはもう、日本人の感覚からしたら未知なんだよな。いい悪いとかじゃなくて、呆けちゃった。最終的に彼は誰よりも大人で、更にビックリしちゃいました。

法廷では、得意ではないフランス語では適切に伝えられないからって、サンドラは英語で弁論するんですが、それも良く思われてない感じが見受けられて、何だかサンドラを応援してしまいました。真偽はいずれにして。
子供に対しては誠実だと感じたし、サンドラの個人としての大胆な行動は、ある意味清々しいとさえ思えました。徹底した個!って感じで潔い。

それに、そもそも家族構成自体にも不安材料が。物語の理解以前に少々頭が混乱します。フランス映画だって思って見に行ったし。
フランス人の夫(サミュエル)とドイツ人の妻(サンドラ)、2人はイギリスで出会い、結婚し、今は夫の故郷フランスで生活しています。2人とも母語ではない英語でコミュニケーションをとっていて、妻は子供に英語で話しかけ、子供(ダニエル)はフランス語で回答。というねじれ(?)現象に戸惑っちゃって、最初はそっちにも気をとられちゃいました。
でも、もしこんな関係性が世界のスタンダードになりつつあるとしたら、この基盤の差異って世界と日本の多大なる差異だよなぁって思ったりします(国際結婚とはちょっと違う)。何だか頭が痛くなる。
と、本筋とは違うところに思いを馳せる私でした・・・。これも映画の醍醐味だよなあって、世界の今を知る(ほんとに?)ことができるという意味でも、興味深く鑑賞しました。

それにしても、もしこの事件、サンドラとサミュエルが逆の立場だったら?同じように感じただろうか?とも思うんですよ。男女が逆だったら、見える世界も印象も結果も違うんじゃないかって思います。でもそれは、やっぱり日本社会に身を置いているからそう思うのかもしれない、とも思って、つまり、感じ方や考え方は、見る人の立場や環境によって異なるし、登場人物の誰視点で見るかによっても異なる訳で、幅広い解釈と解剖が可能なグローバルな作品ってことになるんだと思いました。
自殺か、他殺か、証拠もない曖昧な時点で起訴、からの裁判と言う、いつ自分に降りかかってもおかしくない問題だとも捉えれる当事者性も含め、前述した家族間の関係性だったり、個人(子供含)の抱える問題だったり、と、見る人誰もが多視点で多面的に捉えざるを得ないよう全体が整えられて作られている作品のような気もします。
まぁ、パルムドール受賞作品であり、アカデミー賞もいっぱいノミネートされてるし、そゆこと、そゆこと・・・。

しかし、検察側の法服がサンタさんにしか見えなかった!赤いベロア生地に白いポンポンがついてるの、なんでなの?笑っちゃうから、動くのやめてって思いました。
あと、弁護士役のスワン・アルローさんが佐々木蔵之介さんでした。

スヌープ、名演!かわいい!役者さんたちも名演なんだろうけど、もう、それどころじゃなかったな。

ということで、推します。


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