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勝手に1日1推し 114日目 「病める時も、健やかなる時も、」

「病める時も、健やかなる時も、」野良おばけ    漫画

おばけ先生の作品は偶然pixivで発見して知りました。独特の切り口での語りと、いわゆる綺麗系な絵ではない、デッサンチックな荒さの残る骨太な作画とがとてもマッチしていて、トータルでの完成形がとにかく凄く好みでした!!単行本が出ておりましたので手にしたところ、ますますファンになりました!

作品において、テーマや主張が明確にあることが必ずしも大切だとは、私は思っておりません。日々、生きているだけでドラマがあり、そこに何を見出すか?が個人の人生の歩みのような気がしていて、あまたある漫画を含めた芸術作品にはそれが絶対的に反映しているように思っておりますもので。

しかし、本作、と言うかおばけ先生の作品には、先生が作品を生み出すにあたりテーマとして掲げるものがあって、それについてお描きになっております。これが「ええっ、このテーマをこのアプローチで描くのかぁ」って感心するやら陶酔するやら憧憬するやら、あぁ忙しや、忙しや。感性が素晴らしい!!本作以外も読みましたが、それぞれ興味深いものがあります!

先生によるあとがき(テーマについてなど)を読んでから作品を読み返すと、より理解出来、より奥深さを感じ、深層を探れると言うか何と言うか。とても素晴らしく作家性富んでいるあなあと思いますし、BLというジャンルだけに留まることなく活動してほしいなあと勝手に思っております。

大崎泰央(おおさきたお)は小さなカフェを営んでいる。
一方、三原遼輔(みはらりょうすけ)は自由に世界を飛び回るカメラマン。
遼輔が家にいる時間は少なく、性格も正反対の二人にはすれ違いも多い。共に過ごす日々は穏やかで幸せだ。
しかし遼輔は、このままずっと二人で生きていく覚悟がまだできないでいた。
その“事件”が起きるまでは――。 Amazon

本作は、登場人物が男性(泰央)×男性(遼輔)で、2人が恋愛関係でもあるのでBLなんですが、実はこれ、別に性別は関係なくて、人間×人間、はたまた、人間×動物(ペット)と、幅広く当てはめられるようなとても普遍的で内容だと思います。

世間や制度など社会に翻弄されることなく、大切な人と自由な家族の形を作りたい。でも現時点では叶わない。だとしたらどうする?って、大切な人のために何が出来る?って考える。それって本来、誰しもが考えていてしかるべき問題で、本当に重要なことだと思うけれど、男女間だったりすると特に忘れがちじゃない?俗世や結婚に甘んじたりしているんじゃない?って考えると心が少しチクリとしました。

本作の泰央と遼輔は10年以上も一緒にいる連れ合い(この言葉ピッタリ!)で、若干なーなーな感じだったりするのですが、実はお互いの仕事や生き方を最大限に尊重していて、尊敬している、本当に素敵なパートナーだと読者には伝わってきます。理想的な関係性だなあとさえ思いました。でも、当人同士はそうでもなくて、中々お互い心中を伝えられません。遼輔は2人の未来に焦りや不安を感じており、方や、泰央は焦りや不安はあれど、希望や新たな可能性についてを胸の内に秘めています。そのズレがそれぞれが起こす行動のズレへと繋がっていき、お互いの心もすれ違っていく、みたいな悪循環なような、でも現状を打破するにはそうするしかないような微妙さで展開します。そのどん詰まり感を打ち破るのが、突然の遼輔の事故。それぞれが2人の関係を、そしてお互いの存在を深く考えるようになります。大切な人に何をしてあげられるのか?2人いでいるためにはどうしたらいいのか?うわーん、ここからは、涙です、うるうる。これは、もう、実際お読みいただくのがよろしいかと存じます。

終盤、お互いについて語り合った時、印象的だったのが、

・・・・・俺たち多分もっと話すべきなんだろうな なんでも通じるから すぐ言葉が 蔑ろになる

です。これ、付き合いが長くなればなるほど発生する事案。本当に言葉にすること、話すこと、対話の重要性をもう一度考え直さないと、ですよね。自分がしたいこと、そして、相手にしてほしいこと、はしっかりと伝えましょう!それなくして、コミュニケーションは成り立ちません!何で分かってくれないの?!はNGです。親しき仲でも同様です(自分自身に対する備忘録として)。

さて、話を元に戻しましょう。泰央&遼輔の日常生活を覗き見るようなほんの些細なエピソードの積み重ねだけで、2人が積み重ねてきた時間の長さを感じさせられるから凄いんです!2人の性格の違いもモノローグでの語りの中から明確に読み取れて、こういう知らず知らずのうちに惹き込まれ、感じさせられ、考えさせられ、って、マジ、ストーリーテリングの上手さがなせる業ですよね!秀逸~。好き~!!

物語のファーストシーンとラストシーンが誕生日で統一されているのも推しポイントで、2人の関係性の変化の対比に最高に萌えたし、あくまで日常の延長線で訪れるであろう最高のクライマックス、2人の相互理解の上で成り立つ最高のラストに落とし込んだなって思って、痺れました!!

この関係に 未来がなくたっていい なんておれは思わない 愛を誓い合ったら 物語みたいに 全部 終わるわけじゃない 俺らの人生は続く 

だーよーねー。たとえフィクションであっても、ラスト以降を思わせる余韻っていいよなあ。彼らの人生は続くんです、私たちと同じように・・・。

最後に、もう1つ。先生によるあとがきの抜粋です。

これは世の中の何かを肯定したり否定したりするお話ではなくて、この世界のどこかにいる、ごくふつうの2人にとっての、1つの答えを見付ける小さなお話にしたかったのです

うるうる。このような、先生の前向きで優しい精神が宿っているミクロな世界故に、マクロな世界に通ずる作品に仕上がっているんだと思われます。個人を大切に描くことは、社会、はたまた世界全体のあり方さえ見通すことが出来るんですね。本当に素敵でした!

口が悪くて荒っぽいんなんだけど、一生懸命で健気な泰央、ホント可愛いなあ。愛だよ、愛。

と言うことで、推します。




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