見出し画像

勝手に1日1推し 69日目② 「ラムスプリンガの情景」・「親愛なるジーンへ」

「ラムスプリンガの情景」・「親愛なるジーンへ」(1)吾妻香夜    漫画

引き続き、吾妻香夜先生のアーミッシュ作品です。アーミッシュ&ラムスプリンガの語彙につきましては、69日目①にて少々触れておりますので気になる方はそちらをご覧下さい。

さて、「ラムスプリンガの情景」で、重要な役割を果たしておりましたジーンについてのお話が本日取り上げる「親愛なるジーンへ」でございます。

「ラムスプリンガ~」で、アーミッシュのダニーの兄、ジーンがラムスプリンガ後、村を去ったことが明かされています。両作通じてキーとなる「川に暮らすニジマスが海へ出るとスチールヘッドという大きな魚になる」はジーンの言葉です。ジーンもまた、テオやオズのように狭い世界から広い世界に出たい、と願って村を出たのでしょう。

しかし、ジーンはテオと違って全くの一人ぼっちです。社会生活に必要な知識や社会基盤のシステムを知らず、何の後ろ盾もなく、知り合いもいない、更には一般的な教育も受けていないので、まともな職に就ける訳もなく、住む場所さえないのでは?って心配しちゃう。心配してたし、うすうす分かっていたけれど、あんなズタボロのジーンの姿を目の当たりにするとは・・・登場シーンで涙がホロリ。それまでの生活を想像すると辛いです。

でもそんな彼は、かつて暮らしたアーミッシュの村で培ったであろう健やかなで心根から、落とし物の書類を落とし主弁護士のトレヴァーに届けます。それがジーンの転機になったのは当然のことかもしれません。正に運命が決めたことだったのかも。運命、、、真冬のNYで、小雪舞い散る中、このまま寝たら死ぬと言われても

・・・もしそうなっても それが僕の選んだ運命だった・・・・それだけのことです

ですって。アーミッシュのドキュメンタリー「デビルズ・プレイグラウンド」で実際に男の子も言っていました。アーミッシュになる決断をすることになってもならなくても、

それが運命なら受け入れるしかない

と。ほんと、まじ、リアルです。

話は戻って、そういう訳で、トレヴァーは、重要な書類を届けてくれたズタボロジーンに衣食住を与え、職を、そして教育を与えることになります。とにかく何も知らないジーンが可愛いんですけどってなるんだけど、可愛いなんて言ってる場合ではないんじゃない?とも思います。初めて映画を観たことに対する感想は強烈です。ちなみに観た映画は「小さな恋のメロディ」です。

学校ってあんなに大勢の生徒が通う場所だったの? 楽器やダンスの授業?生活に必要あるの? 同じ国なのにどうして家によって暮らしぶりが違うんだろう?

ですよ。経験と知識の根底が違い過ぎる!大問題だよなあ。

娯楽なんていうけれど、それですら教養があってはじめて享受できるものなんだと思う・・・

文字の学習をする時、文字が何たるかをまずは知るべきってことでしょう。
そうだよねえ。ここまで思考能力が高く、知的好奇心の強いジーンには、アーミッシュの世界は狭すぎたのでしょうね。納得。

個人差なんだだろうけれど、同じアーミッシュでも素直で天真爛漫なテオは未経験のあれこれを無自覚に享受していくのに対し、繊細で賢く、心の機微に聡いジーンは、社会生活に適応していくのに、少し時間がかかっちゃうのかもしれないねえ。って何だかリアル目線で考えてしまっていけません!これはフィクションです・・・。

2人はとても順調に同居を続けていきますが、お互いに社会から孤立した存在であるという孤独を抱えています。トレヴァーは家族からの愛に後ろめたさを感じており、且つ、ゲイであるという孤独。ジーンは出自がアーミッシュであるばかりでなく、大切な家族を捨てたひけめを感じているという孤独。そんな自分たちと比較するため、2人は自分たち以外の周囲の人を「一般人」という言葉で表現しています。こんなに悲しく寂しく響く「一般人」ってある?もはや「一般人」とは何ぞや?ってレベル。定義が揺らぎました。「一般人」と相容れない(と感じている)者同士、距離が縮まります。

が、が、が、!!!肉体関係はなくても良かったのではないかしらん?十分、分かり合えるじゃん。もしくは、もう少し時間がたってからとかさ。年齢差もあるし。あしながおじさんになりたまえよ、トレヴァー。アシェンバッハはいかんって自分で言ってたじゃんか!ぬぬぬ。

それから、2作品に共通しておりますが、登場する女性陣がとても良い!なんか嬉しいなあ。

一線を越えた2人と、新しい世界に一歩踏み出したジーン。更には郷愁に誘われるジーンから不穏な空気を感じさせられますが、今後が気になるところです。それに、ちょいちょい街でまだ幼いオズとすれ違うの、いいなあ。今後リンクしてくるのかな?楽しみです。

はあ、とにかく好きな作品でした。ストーリーもですが、構成が映画的でとてもドマチックなんです。トレヴァーの甥のもう1人のジーンが、トレヴァーの手記を読むという形で物語が展開します。甥ジーンと私たちは、同じ目線に立ってかつてのトレヴァーとジーンを追想していくことになり、より感情移入しちゃって仕方ありません。

更に細かい所がとても好みなんです!まず、ジーンが与えられた書斎。ミニマル?は?何それ?シンプルより雑然の美を愛する私にとって、理想の部屋なんだよな、ジーンのお部屋って。植物や本にレコード、好きな物に囲まれたがやがやした空間。素敵です。落ち着きそう。カバー絵、扉絵が最高!

そして音楽の好みもど真ん中。禁じられた快楽の一つである音楽は、テオにもジーンにもとても魅力的に映ったに違いありません。音楽と共に歩んでいても魅力的な時代ですもん。80’sと言えば、な、シンディ・ローパーとかカルチャークラブ。CDが出てくる頃かあー。90’sのニルヴァーナ聴くなら、だったら70’sのチェッペリンやジミヘン、ビーチ・ボーイズも聴かなきゃ。絶対好きじゃん。吾妻先生と同年代なのかしらん?親近感。部屋の趣味も一緒だし、きっと気が合うに違いない(←勝手に)。

と言う具合で、前回から引き続き、長々と好きを駄々洩れさせて参りましたが、それ故またもや長尺となりましたので、強制的に終了します!

ところで、アーミッシュの方々はやっぱりワクチンは打たないのでしょうか?「予定説」はこの際ひとまず置いておいて、どうか、ワクチン接種だけは、宜しくお願いしたいものです。

ということで、推します。


この記事が参加している募集

#マンガ感想文

19,984件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?