勝手に1日1推し 54日目 「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」水城せとな     漫画

アニメ化ないし(実写)映画化される作品って、漫画にしても小説にしても本当に面白いし、素晴らしいですよね。若い頃は蓮っ葉に構えて「私だけが素晴らしさを知っている、コッチの方がいいわよ!」なんて自分や同じ感覚の持ち主にのみ理解できるという特別感に陶酔し、世間的に盛り上がってる作品を毛嫌いしている節がありましたが、落ち着いてくると、「おいおい、分かってないな。数ある作品の中から選ばれるのには、訳があるんだよ!」と素直にその事実に目を向けられるというか、何というか。

さて、本作もBL初心者でしたもので、映画化されて初めて原作を知りました(映画は未見です)!読んでみて、納得。たまげた!純粋に凄いなって思いました。だって私、こんな恋愛したことないもん。こんなに誰かを好きになって、こんなに苦しんだことってないもん。ここまで徹底的に恋愛を描いているというのにラブストーリーという感じは受けず、その深さ故、人生とは?人生における恋愛とは何ぞや?的なヒューマンドラマとして読めました。ラストもハッピーエンドだって手放しには喜べなかったし、単純にこのまま幸せになっておくれと願わずにはいられませんでした。泣くよ、ホント。てか、どのように映像化されたのか映画が気になりまくりです~。

優柔不断で恋愛にもルーズな大伴恭一。そんな恭一に一方的に思いを寄せる大学の後輩今ヶ瀬渉。大学卒業後数年・・・既婚の恭一、ゲイの今ヶ瀬が再会。2人の運命が動き始める。

というのがざっとしたあらすじです。

まずは、タイトルが秀逸!丸々1冊をタイトルが集約しております。完璧すぎて唸りました。はぁ、素敵です。

「窮鼠(恭一)はチーズ(魅惑的な日々を送る)の夢を見る」はぁ。

「俎上の鯉(今ヶ瀬)は二度跳ねる(2度抵抗する)」はぁ。

うっとり。窮鼠=追い詰められて逃げ場を失ったネズミ、俎上の鯉=相手の意向や運命に任せるほかに方法がない、ってまんま恭一であり、今ヶ瀬でしょう。凄く凄く文学的じゃない?タイトルだけでなく、本編の2人の会話や独白、心理描写がひたすら美しかったです。

どうして世界がこんなに明るいんだ もしもこの場に 空き缶があったら 蹴とばしていただろう グラスがあれば 叩き割っていたと思う           そこには彼女がいた         

この一節なんて、惚れ惚れするほどに文学的です。

あの頃・・・・あなたを好きだなんて言えるはずもなかった俺は ただ    ・・・・ただ それを口実にあなたの指に触りたかっただけなんです

これ、これなんてさー、いつの時代のどこの幼子がいってんだってくらいでしょ?素敵です。戦時中、赤紙が届いた青年が、幼馴染の思い人に持ち物を1つ、思い出にともらい、出征。戦後帰国し、もうとうに結婚したかつての思い人に思いを告げるシーンじゃないんですよ!どんな身体的接触より思いの深さ、切実さを感じます。その愛し方に胸が詰まりました。今ヶ瀬の一途さ、恭一に向ける、どうすることもできない自分自身をも溺れさせそうなほどの狂おしい愛がとにかく鮮烈です。それでも下品さが漂わないのは、この文学的で美しい表現のおかげかなあと思います。(たまにゲスい・・・)

上記のように、冷静と情熱の間(江國香織先生じゃないです)で、理性と衝動、欲望の間で揺れる2人が、正に、冷静と情熱の間(江國香織先生じゃいです)で描かれております。お互い、割り切れない思い、伝えきれない感情を抱え、本心を隠し、隠され、嫉妬し、嫉妬され、愛し、愛され、長い時間が流れるんですが、何があったのかを細かく描写していないのに、流れた時間とその間の思いを感じさせるんですよね。うまい。

更に、ゲイじゃない男性が、男性と関係を持つという意味、不安、覚悟、その心情がここまで克明に描かれている作品にも初めて出会いました。前からこちら視点のお話が読みたいなって思っていましたし、リアルだなって思いました。自分は彼とは違う世界の人間だ、男の矜持も捨てられない、でも、そんなこと言ってられないほどの衝動に突き動かされるという葛藤、手に取るように分かりました。だからこそ、ゲイの男性がゲイじゃない男性を愛することに対する不安と覚悟、その心情もより現実味を持って感じられました。どちらも理解できるだけに、愛の困難さが身につまされました。

部分的にはここが面白い、とか、ここが素敵、とか、言えるけれど、全編通すとどう表現したら良いか分かりません。それでもとてつもなく魅力的な作品です。

隘路(あいろ)は お前だ そして 俺だ

震える!最後までなんて美しいの!(涙)ここの下り最高だよう。人生とは、通行の困難な道を歩いていくようなもの。支障となるものは常に彼であり、自分自身でありまするってね。ラスト数ページだけでも読むに足るって思っちゃう。やっとスタートラインに立った2人のオープンなエンディングも清々しいです。

それにしても、好きになると可愛く見えるって分かる。実際本当にその通りだって思います。「愛す可し」ですよー。どんな人でも好意を持つと可愛い部分が見えてくるから不思議だよね~。KAWAIIは世界的ワード。威力抜群です。可愛いと言われたい・・・・

ということで、推します。







この記事が参加している募集

#マンガ感想文

20,045件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?