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おまじないの話の続き

探し物が見つかるおまじない。
そんな便利なものがあったとは。
先輩はスマホ片手にそのおまじないをおしえてくれた。
「えーとね、清水の音羽の滝に願掛けて 失せたる〇〇のなきにもあらずって3回言いながら探すと出てくるって!」
……長いよ、覚えらんないよ。
そう思いながらも必死に3回おまじないの言葉をつぶやき、探すことにした。先輩のせっかくの提案を無碍にするような後輩になってはいけない。そう思った。

可能性がある場所は当然探してある。見つかるわけがな……「あったーーー!!!」
そう、見つかったのだ。しかもかなり呆気なく。
ギフトの七森はやはり、きちんと値札を外していた。
どうやら貼り付けが甘かったらしく値札だけがシートから落ち、わりと見つけやすそうな場所にぽつんと落ちていた。
先輩は、ドヤ!と言わんばかりの顔をしてこちらを見ていた。
わたしはというと、この瞬間にこのおまじないの信者になったのだった。


──時は数年後。
先輩は家の鍵を無くした。
仕事が終わり、いそいそと家の前まで行ったが肝心の鍵が無かったのだ。
「ねえ、家の鍵がないんだけど」
先輩とは職場が変わったあともやり取りをすることが多かったのだが、この日ほど悲壮感のある連絡は初めてであった。
「え?よく探しました?」
「探したよ」
「ロッカーの中じゃないですかね、じゃあ」
「やっぱり、そう思う?」
「はい……多分」
わたしたちは職場に向かう際に、私物などを鍵のかかるロッカーに保管している。そこにあるだろうとわたしは睨んだのだ。
「ちょっと戻って探してみる」
少し早く仕事が終わったと喜んでいた先輩は結局いつもの仕事終わりと変わらない時間にまた職場に戻る羽目になった。


その数分後、乗り換えをしくじり、全然関係の無い駅のホームを撮した写メが届き、さらにその数分後ロッカーに鍵がなかったという旨の連絡が来た。

先輩は当時、一人暮らしであった。鍵がなければ着替えもできないし、寝ることも出来ない。わたしはもう既に先輩とは離れた土地に暮らしており、先輩を泊めることすら出来ない非力な後輩であった。

──大ピンチである。

鍵を無くした場所に心当たりはなく、手当り次第問い合わせたものの、鍵は見つからず時間だけが残酷に過ぎていった。

……ふと、わたしはあの日のことを思い出した。値札事件である。
早速LINEをした。
「姐さん、あのおまじないってやりました?」
「おまじないってなにー!?なんもやってないけど!!」
なんていうことだ。あの日あんなに効果を実感したおまじないをまだやっていないだなんて!わたしはすぐにLINEを送り返した。
「ちょっと!あの音羽のやつですよ!値札見つかったやつ!」
「あーー!あれか!!ちょっとやってみるわ!」

実は値札事件の後、すこし高価めなボールペンを同じ場所で紛失した。やはり何度も探したが見つからず途方に暮れかけていた時にこのおまじないを実行し、まんまとボールペンを見つけていたのだ。勿論そのことは先輩に報告済みである。

先輩は、新幹線が乗り入れる大きな駅構内で、ボソボソとおまじないを呟くさすらい人となった。
街中にいくと、たまに1人で喋っている人を見ることがある。露骨に避けていたのだが、もしかしたらあの人もまた、探し物をしていただけなのかもしれない。そんなことを考えていたら先輩からすぐにLINEがきた。

「見つかった!!」

さすがにドン引きした。
わたしの場合は狭い箇所で無くしたものを探していた。先輩はどこに落としたのかわからない鍵を手探りで何時間も探していた。探し物のスケールが違う。
「え、どこにあったんですか!?怖いんですけど!!」信者も怖がり出す始末である。
「それがさー!1回問い合せた時にはないって言われたんだけどー!おまじないした後聞きにいったらさっき届けられたっていわれたー!」
ええ…そんなことって、あるんだ…
先輩の運が強いのか、おまじないがすごいのか、そのどちらもなのか、とにかく先輩は鍵を見つけ出し無事に帰宅することが出来たのだ。

先輩もまた、このおまじないの信者となった。

おわり。

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