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優しさ沁みる、ポルトのタコご飯【ポルトガル紀行③】


ポルトに到着してから、3日目の朝。

それまで朝昼晩と現地のご飯を食べ続けていたせいか、あっさりしたご飯が恋しくなって目が覚めた。


「朝ごはん、何食べる?」

朝起きてすぐに聞いてくる相方の言葉にうーんと小さく唸って、

「なんか、あっさりしたものが食べたい」と返す。

どうやら彼もわたしと同じことを考えていたようで、わたしの言葉に神妙な顔つきで頷く。

「じゃあ、タコのご飯はどう?」

このタイミングで出てきたその提案は、もうこれ以上ないくらい完璧な提案のように思えた。


飽きたのなら和食を食べればいいじゃないか、なんて言われそうだけれど、たとえ現地のご飯に飽きてしまったとしても、

前もってリストアップしてきた料理をすべて食べずに帰るわけにはいかない、と食い意地の張ったわたしたちには、

ここで和食に手を出すという選択肢なんて、これっぽっちもなかったのだ。

じゃあ、せめてポルトガル料理の中で少しでも和食に近いものを、ということで、わたしは彼の提案に乗ることにした。


そのお店は、観光客で朝から賑わう、カフェや食堂が連なるドウロ川沿いのエリアにあった。

パステルカラーの壁を見上げながら、Googleマップで20分以上ぐるぐる同じところを歩き回ってようやく見つけたそのお店は、階段を一段上がった、バルコニーのような、通り道のような場所にひっそりと佇んでいた。

まだ薄暗い店内に向かって声をかけると、にこやかなおじさんが二人お店の中から出てきて、分厚いメニューを手渡しながら熱心にメニューの説明をしてくれる。

それがあまりにも熱心なので、少し申し訳ない気持ちになりながらやんわりと遮って、

「Arroz de polvo(タコのご飯)はありますか?」と聞く。

「もちろん」と変わらずにこやかに笑って、おじさんはお店の奥に戻って行った。


間も無くして、大きなお鍋に入った「Arroz de polvo」と、

一緒に食べるとおいしいと聞いていた「polvo frito(タコの天ぷら)」が運ばれてきた。

鍋にたっぷり入ったArroz de polvoを、取り分け用の大きなスプーンでお米の上に豪快にかけていく。

タコやえび、イカといった海の幸がゴロゴロ入っていて、そんなにお腹は空いていないのに、ついつい調子に乗ってたくさんよそってしまう。

見ると、さっきまで「そんなにお腹は空いてないからシェアしよう」と

言っていた彼も、わたしに負けじとスープと具材を
ご飯にかけていた。

「いただきます。」

蓋を開けた瞬間から鼻先をくすぐるいい匂いに食欲が刺激されて、つい待ちきれなくなって、勢いよくスプーンをお米の下に潜らせた。

「んん…これ、タコの雑炊だ!」

「トマトベースなのに、あっさりしてるね。なんか懐かしい味。」

一瞬だけ顔を見合わせて、その後はもう、夢中になって食べ続けた。

トマトベースのスープには魚介の旨味が凝縮されて
いて、薄味だけどオレガノの香りがアクセントになっているせいか、全体的に味がぼやけることなく、ちゃんと引き締まっている。

あっさりしているのに、旨味が浸透しているから飽きない。

こういう素材を生かした調理法だから、ポルトガル料理は和食に少し似ているのかもしれないな、と思っていたら、

「なんか和食に似てるねえ。これだったら毎日食べられそう。」

と、にっこり笑って彼は言った。

わたしたちは、またもや同じことを考えていたみたいだ。


「これもおいしいから、食べてみて。」

Arroz de Polvoに夢中になっていたわたしは、そう言われてPolvo Fritoの方にも目を向ける。

大きく丸まったタコにフォークを刺し、かじりつく。

さくっと軽い衣の中には、肉厚でジューシーなタコがたっぷり詰まっている。

肉厚で食べ応えがあるのに、柔らかくて食べやすい。

「こんなタコ、初めて食べた。」

そのおいしさに目を見開いて感動を伝えるわたしに、

「日本とは違って、水蛸を使ってるんだろうね。」

と教えてくれる。

今まで、日本のタコを食べてもあまりおいしいと思ったことがなかったわたしは、なるほど、種類が違うのかと納得する。

…それにしても、このタコは、本当においしい。

穏やかな港の風景を眺めながら食事をしていたら、カモメが何度もご飯を狙ってテーブルの近くまで寄ってきた。

それをモップで一生懸命追い払ってくれるおじさんのおかげで、わたしたちは無事に落ち着いて食事を終えることができた。

(料理が届いた瞬間。このすぐ後から、カモメと
おじさんの戦いが始まる。。)


お会計をしてお店を出ようとすると、ちょうどお店の人たちもお昼時だったようで、店内では銀色のお皿にじゃがいもやサルディーニャを乗せたプレートを頬張るおじさんたちが見えた。

「こういう、地元の食堂って感じがいいねえ」

そんなことを言い合いながら、ポルトの優しくて懐かしい味に心もお腹も満たされたわたしたちは、港の見える、こじんまりとした食堂を後にした。

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O Muro Antigo Restaurante
R. Cima do Muro 20, 4050-089 Porto, ポルトガル

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※このnoteは、2020年3月時点の情報をもとに書いています。

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