鼻歌

合皮の靴履くくらいなら、裸足で私は構わない。
まずいカレーを食べるなら、お腹をすかせたままでいい。
柔軟剤の芳香が好みでないのなら、ミントティーをふりかけた芝生の上に、洗い立ての真白いシーツを広げよう。
オークのテーブルを買うお金が無いのなら、使われなくなったグランドピアノの天板を剥がして、辞典の上に乗せればいい。

ありのままの自分が好き!
なんて世迷いごとは口が裂けても言わないけれど、
私に授けられた射干玉のような髪も、桜貝のような爪も、水蜜桃のような肌も私は大好き。
だから、私は髪は染めないし、爪も塗らないし、脱毛サロンだって契約しない。
そんな私に
「どうして染めないの」
「今ならキャンペーンしてますよ」
そんな台詞を投げつけないで。
私をがんじがらめに縛らないで。

お金がなくても構わない。
ただ、いじましく生きるのは耐えられない。

上野公園の彫刻を眺めながら大学へ向かうのは、別にタクシーに乗るお金がないからではない。いくつかある選択肢の中で、天気が良かったから散歩を選んだだけ。めぐりんの車窓から眺める上野公園も好きだし、タクシーで向かう快適さも好き。お金は欲しいけれど、それは選択肢の幅を広げるための手段に過ぎない。

霞を餐し露を嚥み、たとえ飢えてもコリドー街などという貧民窟には足を踏み入れず、自らの責任の範疇を超えた行動は慎み、如何なる場合においても、阿ることを良しとせず、調和の中に自らを生かし、自らのために美しくあろうとして、且つその美しさに甘えずに、姿勢を正して生きたいと。

#エッセイ
#日記
#短編
#美意識

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