コレクショニズム

「都合のいい時だけ見つめるのは、変質者のすることよ」
かつての恋人と別れてから、ちょうどいい捨台詞を思いついて地団駄を踏んだ。
ああ、私のルブタンに傷がつく。
さっきの逢瀬。あの人は最後まであの人の舞台の上で陶酔していたなあ、と眺めていたら、いつの間にか舞台に引きずり出されてエピローグをつけられてしまった。

「僕はもう今迄の僕ではなくなっているかもしれない。それでも君のことを見つめ続けるよ。もしかしたら、この先でまた会えるかもしれない。神様が導いてくださる」
とかなんとか言われたっけ。

思い出したらだんだん腹が立ってきた。
なんで私たち別れたんだっけ。
あなたの浮気が治らなかったからでしょうが。
もし神様が見ているのなら、あなたのその屹立しっぱなしの男根に稲光を落とすでしょうよ。
今日会ったら股間にぶちかまそうと思っていた、スタッズのついたルブタンのクラッチ、急に勿体無くなってぶちかますのをやめた。
股間を眺めていたら生暖かい体温を思い出して、その瞬間ぞわあっと身の毛が逆立って、もう私は彼のことを愛していないのだと知った。
なんという幕切れ。
でも彼はこの視点から舞台を観ることが出来ない。

きっと彼のコレクションケースの中に、良い子ちゃんの私は綺麗に陳列されていることでしょう。
彼の夢を応援した、健気な少女として。
それが私の抜け殻だとはきっと永遠に気づかずにいるのでしょう。
彼の周りにかつて存在していた女性達の霊が私に微笑む。
お疲れ様、あなたも大変だったわね、よく頑張ったね、と。
重たい殻を彼の元に置きっ放しにして、私は新しく生えた透明な羽を羽ばたかせて彼女達のいる場所に向かう。
そこは男の庇護するような目線など必要としない女性達の楽園なのだろう。
悔しさに、ルブタンを傷つけることもない素晴らしい世界なのだろう。
あなたは永遠に私達の抜け殻を愛でていれば良い。
かつて私が抱いた愛情は、抜け殻とともにあなたの側に置いておいてあげる。

#小説
#短編小説
#散文
#恋愛

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?