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少女A伝

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短編小説集です。
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2016年9月の記事一覧

封印の赤い蝋

あなたに最後に会うと決めた日に、
私は赤い口紅を新調した。
銀座の松屋でそれを丁寧に塗られる時、私の唇は刷毛のしなりに合わせてその形を変えてみせた。
力を抜き半開きにした口の隙間から、白い歯が見える。
少し斜めにした鏡を見下ろした時、私は初めて自分がどんな表情で白いシーツの中のあなたを見下ろしていたのかを知った。
向かいのシャネルのソファは、私とあなたの待ち合わせ場所だった。姿勢を正してそこに座っ

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