見出し画像

【シナリオ分析】 「2分の1の魔法」編 ※ネタバレ注意

みなさんこんにちは。
株式会社LOCKER ROOMの比暮ななみです。
月見バーガーを一度しか食べないまま、秋が終わりました。
とても悲しいです。
新作のN.Y肉厚ビーフポテトは監査しましたが、かなり美味しかったです。
食べてない方はぜひ食べてみてください。


そんな話はさておき、本題に入ります。
前回noteでは弊社で行っているシナリオ分析についての記事を書かせていただきました。

今回は、ピクサー・アニメーション・スタジオが制作している『2分の1の魔法』という映画について弊社が行った分析を紹介していこうと思います。

この映画を選んだ理由

この作品を分析する作品に選んだ理由としては、「BS2とキャラクターアークがリンクしていない作品だから」という点です。
詳しくお話しすると、
BS2というハリウッド式の最強物語構成テンプレには、「迫り来る悪い奴ら」というターンが後半に入ってきます。
その名の通り、悪い奴らが迫ってくるので、その時の主人公はもうピンチ!だったり、やばい!だったり、心情は下がり気味だったりするのですが、
この作品は「迫り来る悪い奴ら」のターンで主人公はなんと「アゲアゲ」になるのです。
こういうふうに、物語上起きている事象と、主人公の心情は必ずしもリンクしないというのが物語の面白いところで。
それをしっかりと読み取れるようにならないと、そういう物語は作れない!ということでこの作品を分析する映画に選びました。




※※以下からの分析は、ネタバレを含みますので、ご注意してください※※





BS2分析

ここからは、BS2分析とキャラクターアークに分けて分析結果を記していきます。
※あくまで弊社内での分析結果なので、これが正しいとは限りません

第1幕

  • オープニングイメージ

    • 「昔は魔法がありふれていた世界だったが、今は魔法がなくなった」という説明をし、視聴者に今の世界の状況を簡単にわからせます

    • ピクサーの映画は、今の世界の状況をナレーションとともに簡単に説明することが多いですね

  • テーマの提示

    • まず、よわよわしい主人公と奇天烈な兄、大胆なお父さんという、物語の主軸になる2人を映し出します

    • しかし、この2人はなんだか仲良しという感じではなさそうです

    • 反対の性格を持つ兄弟なので、よわよわしい主人公からしたら奇天烈なお兄さんの存在が鬱陶しい様が見てよく分かります

    • また、主人公が今は亡きお父さんに憧れているということ、クラスでいじめられており友達がいないこともよく分かります

    • この一連の流れを見るだけで、主人公がどんな立ち位置なのか、そしてどんな思いを抱えているのかがなんとなくわかるようになっています。そして、それがこの作品の「テーマ」に直結するのです。

  • セットアップ

    • 主人公は、いじめられて友達のいない自分から、新しい自分になろうとリストを作り、さまざまな挑戦をしますが、ことごとく失敗をします

    • さらにこの失敗に、兄が関係しているのもポイントです

    • 主人公はこの失敗により、また兄を嫌いになり、そしてまた自分の殻に閉じこもろうとするのです

    • 自分の殻に閉じこもる、というのは何か自発的に行動するのを避けるような「楽して生きる世界」を指しています

    • この「楽して生きる世界」こそが、キャラクターアークの中における主人公の「普通の世界」になります

    • 主人公が変わるには、この普通の世界である「楽して生きる世界」を飛び出さなければいけません。それが次のきっかけから訪れます

  • きっかけ

    • 主人公が普通の世界から飛び出すきっかけは、今は亡きお父さんからのプレゼントである魔法の杖をもらったことから始まります

    • 魔法の杖をもらうだけでは何も始まりません

    • 主人公が魔法の杖を使って死んでしまったお父さんの下半身だけを復活させたことがきっかけになります

    • お父さんは下半身だけしか復活していません。それを見た主人公はお父さんが大好きなので、ちゃんと全部蘇らせて、会いたい!となるわけです。ここから物語が動き始めます

      • テーマの提示部分で今は亡きお父さんへの憧れ部分をしっかりと描いているから、きっかけで主人公が「お父さんを完全に蘇らせたい!」という気持ちになることがスムーズに理解できます

  • 悩みの時

    • 悩みの時、というのはきっかけが起こってから新しい世界に踏み込むまでに悩んだり、躊躇したりする時のことをいいます

    • この作品でいうと、お父さんを蘇らせるためにはマンティコアに行かないといけないとわかり、マンティコアに行くまでの一瞬の悩みが該当します

      • なぜマンティコアに行かないといけないのかというと、お父さんを蘇らせるのに必要な不死鳥の石がマンティコアにあるからです

    • しかし、この作品は比較的悩みの時が少なく、すぐにマンティコアに向かうことを決心します

    • これは、主人公が父親に会いたさが大きいゆえに、あまり悩まずに進めたのかもしれないと考えています

第2幕

  • 第一ターニングポイント

    • 第一ターニングポイントとは、主人公が新しい世界へ足を踏み入れる瞬間のことです

    • 今まで「楽して生きる」ことを選び、積極的に何かをしてこなかった主人公ですが、父親のために不死鳥の石を探しにマンティコアに向かいます

  • サブプロット

    • サブプロットとはメインプロットのターニングポイント後の衝撃を和らげながらも、さらにストーリーを前進させるブースターロケット的な役割をするところです

    • 基本的にちょっとした場面転換的な役割を担い、読者に息抜きをしてもらうポイントです

    • この作品でいうと、「マンティコアと出会うところ」と「マンティコアが暴れて火事になったところからお父さん助けるところ」が該当します

    • どちらも、今まで消極的だった主人公からすると、自主的に何かをするという変化していく様子が楽しめます

  • お楽しみ

    • お楽しみとは観客に対するお約束を果たす場のことです

    • ポスターや予告編で使った一番おいしい部分がここに該当します

    • この作品でいうと、「お父さんとお兄ちゃんと主人公がダンスするシーン」や「カーチェイスシーン」がそこにあたります

    • また、お楽しみパートでは、キャラクターアークでいう《嘘》を抱えていない場面を映し出します

    • この《嘘》は後で説明しますが、簡単に言うと「無自覚に持っている固定概念」的なものです。「愛されてない」だとか「自分は弱い」など無自覚に自分に暗示をかけているものが《嘘》なのです

    • 主人公は『自分は愛されていない』『自分は恵まれてない』という《嘘》を抱えているのですが、ここでは兄とお兄ちゃんと楽しくダンスをしたりして、《嘘》を抱えていないような描写が伺えます

  • ミッドポイント

    • ミッドポイントとは主人公が《絶好調》になる(実は見せかけだけの絶好調だが)。もしくは、これ以上悪くなりようがないほど《絶不調》になる瞬間のことです

    • この作品の場合は《絶好調》になります

    • 該当する部分は、主人公がどうして初めて魔法を使い、橋を架けられたときのことです

    • 自分は魔法を使えた!と絶好調になります

  • 迫りくる悪い奴ら

    • 冒頭でもお話ししましたが、この作品は「BS2とキャラクターアークがリンクしていない作品」です

    • そのリンクしていない部分の代表が、この「迫り来る悪い奴ら」の部分です

    • 「迫り来る悪い奴ら」というパートはその名の通り、「悪いこと」や「敵」となるものが迫ってくる時のことです。

    • 悪いことが起こる!ではなく、その予兆を見せます

    • 大体は悪いことが起こる予兆や敵が迫ってきている時は物語の登場人物は「ハラハラ」「ドキドキ」して「どうしよう・・・」となるものなのですが、この作品の場合はなぜかノリノリでかわしていきます

    • この作品で該当する迫り来る悪い奴らは以下の場面です

      • 警察が追ってくる

      • スライムゼリー的なもの

      • 水責め

  • 全てを失って

    • 「全てを失って」パートでは、その名の通り何もかも失う時のような場面のことで、ミッドポイントの《絶好調》とは逆の《絶不調》になります

    • この作品で言うと、結局不死鳥の石を見つけられず、散々飛び回ったのにも関わらず行き着いた先が主人公の通う学校だったことが要因で兄と喧嘩し、離れるところが「全てを失って」にあたります

    • ずっと兄と一緒に新しい世界を進んできたのにも関わらず、主人公は兄を失ってしまいます

  • 心の暗闇

    • 「心の暗闇」は名前の通りここは夜明け前の闇のようなもので、主人公は深く考え、心の奥底を探るもの。全てを失い、闇に葬り去られたような場面を描きます

    • この作品で言うと、「兄と離れ、自分は何もできなかったと落ち込む」場面のことです

    • 主人公は、新しい自分になるリストを書いたノートを見返し、結局なにもそのリストを達成することはできなかったと気づきます

    • そのノートとともに、主人公は途方にくれます

第3幕

  • 第2TP

    • 第二ターニングポイントでは、闇に葬り去られた主人公がここから立ち直り進むための解決策を見出す場面です

    • 主人公はノートに書いたリストを眺めるうちに、そのリストに書いてあること全てを兄と全部やっていたことに気づきます

    • ここで、自分にとって兄が必要な存在だったことに気づきます

      • 自分の邪魔をしてくるばかりの兄だと主人公は思い込んでいたのですが、そうではなく、自分には兄が必要で、兄はきちんと自分を愛してくれていたのだと気づきます

  • フィナーレ

    • 「フィナーレ」パートでは、第三幕ですべてのまとめをします。第二幕での教訓の学びを活かし、主人公の直すべき点が治ります

    • メインプロットもサブプロットも主人公が勝利して終わり、古い世界は新しい世界へと変わり、新たな秩序が生まれる様を描きます

    • このフィナーレのために、この作品では最後の戦いのようなものが用意されます

      • この最後の戦いとは、主人公と喧嘩別れした兄が偶然不死鳥の石を見つけたことが起因で発生します

      • 兄が取った不死鳥の石を戻そうとする働きにより呪いが発動。学校の石などが集まってドラゴンが兄を襲います

      • 主人公は新しい世界を旅する中で覚えた魔法を全て駆使してドラゴンを倒そうと頑張ります

      • 母やマンティコアが駆けつけてくれ、兄も含めた3人にドラゴンを倒すことを任せ、主人公は父親の復活の魔法を唱えます

      • 父親の上半身がだんだんと現れてくるのと同時に、主人公のもとにドラゴンが迫ります

      • お兄ちゃんは主人公へ、父親と会うことを譲ろうとしますが、主人公は父親に会うのをお兄ちゃんに譲り、ドラゴンを退治することにしました

    • 上記の最後の戦いに勝利した主人公ですが、倒したドラゴンの石に阻まれ、復活した父親の元へ駆け寄れません。

    • しかし、主人公は父親とお兄ちゃんのハグする姿をしっかりと見守ります

    • 前の主人公ならば、兄に父親と再会するのを譲らないでしょうし、お兄ちゃんと父親のハグを見守ることなんてできなかったでしょう

    • けれど新しい世界での旅をすることで、主人公は兄への意識が変わり、そして自分も兄を受け入れられるようになっていました

  • ファイナルイメージ

    • 「ファイナルイメージ」とは「オープニングイメージ」と対のビートであり、本物の変化を見せる場です。オープニングイメージと対になるようにするのが基本です

    • 対になっていることがわかりやすいように、この作品はOPと同じような構図やナレーションでファイナルイメージを作成しています

    • 主人公がクラスの人気者になっていたり、兄と仲良しな様子だったりとまるで反対です

    • 主人公はこの新しい世界の旅を通して、憧れの父親のように「大胆な人間」になれたのです


キャラクターアーク分析

次に、キャラクターアークの分析の結果を記していきます。
※あくまで弊社内での分析結果なので、これが正しいとは限りません

キャラクターアークには3つの基本形があります

①ポジティブアーク

最も好まれ、共感を得るアーク
何かに対して不満や否定的な考えを抱く主人公が困難に出会い、自分の中のネガティブな側面を克服。
主人公がポジティブな変化を遂げ、ストーリーが終わります。

キャラクターからつくる物語創作入門書

②フラットアーク

初めから主人公の在り方がほぼ完成されているアークで、これも人気作品に多いパターンです。ヒーローは大きな成長や変化をほとんど必要としないため、アークはフラット(平坦)であり固定的。
むしろヒーローに触発された脇役たちが成長し、周囲をとりまく世界が変化します。

キャラクターからつくる物語創作入門書

③ネガティブアーク

多くのバリエーションがありますが、基本的には「ポジティブなアークの逆」で、人物が転落します。ポジティブなアークでは欠点がある人物がよい方向に成長しますが、ネガティブなアークの人物は最初よりも悪い状態になって終わります。

キャラクターからつくる物語創作入門書

今回の『2分の1の魔法』においては、①のポジティブアークの基本形がぴったりですね

ポジティブアークだと基本形が定まったあとは、以下の5項目を探って行きます

①《嘘》

人々が信じている「嘘」のこと
何かが欠けていて、変化を必要とする状態。それがポジティブアークのはじまりです。その欠けている部分こそが「嘘」なのです
例えば「強い者が正しい」「子供は面倒で手がかかる」など
基本的に物語に登場する主人公は、そういう嘘で内面が固められています

キャラクターからつくる物語創作入門書

『1/2の魔法』における主人公の《嘘》とは、『自分は愛されていない』『自分は恵まれてない』だと私たちは分析しました。
だからこそ、主人公は常に被害者のような面で生きているのです。
その《嘘》を克服することが、この物語のテーマに紐づくのです。

②《WANT》

「WANT」とは、人物が手に入れたがっているもので、表面的な解決のために追い求めているものです
また、「WANT」とはほぼ例外なく、他人から得られるものや物質的なものです
例えば「王になる」や「愛される」など

キャラクターからつくる物語創作入門書

『1/2の魔法』における主人公の《WANT》とは、『父親に会いたい』だと私たちは分析しました。
彼はずっと父親に会いたくて、そして父親のように大胆な人間になりたかったのです。

③《NEED》

「NEED」とは、人物にとって必要な真実のこと
「嘘」の誤った観念の解毒剤のようなものであり、人生で最も大事なもののこと
また「NEED」は形がないものです
例えば「謙虚さと思いやりを学ぶこと」「魂の自由を受け入れる」など

キャラクターからつくる物語創作入門書

『1/2の魔法』における主人公の《NEED》とは、『自分が愛され、恵まれていると気づく』ことだと思います。
父親に会いたくて突き進んでいた主人公ですが、父親とやりたかったことは全てお兄ちゃんとやっていたことに主人公は気づきます。
彼が父親のような人間になるために必要だったのは、父親に会うことではなく、自分が愛され、恵まれていると気づく』ことだったのです


④《ゴースト》

ゴーストとは、「なぜ嘘を信じるようになったのか」という原因部分です
例えば「祖母から愛されなかった」や「母はひどく嘘つきである」など

キャラクターからつくる物語創作入門書

『1/2の魔法』における主人公の《ゴースト》とは、憧れである父が死んだこと、そして友達がいないこと、兄が奇天烈で事件ばかり起こしてること、など複雑に絡みあっていると思います。
それらが原因で彼は『誰にも愛されていない』『自分は恵まれていない』と思い込むのでしょう。

⑤《普通の世界》

「普通の世界」とはいわば舞台設定のこと
主人公にとって離れたくない、または離れられない場所であり、冒険に出る前の足場のこと
たとえば「平和で豊かな世界」や「厳格で冷たい伯母のいえと寄宿舎」など

キャラクターからつくる物語創作入門書

『1/2の魔法』における主人公の《普通の世界》とは、『楽して生きてる世界』だと考えられます。
魔法がなくなってもいろんなものが使え、母親が世話をしてくれ、兄はかまってくれる(主人公は最初は厄介だと思っている)。
そんな楽して生きている世界が主人公の生きている世界なのです。


以上のキャラクターアークをまとめると、『1/2の魔法』という作品は、

友達もおらず、兄は邪魔ばかりしてくる。母親は自分のことをわかっていない気がするし、大好きな父親も亡くなってしまった。
それゆえに『自分は愛されていない』『自分は恵まれていない』と考えている主人公だが、魔法を使い父親を復活させる旅を通して、
家族(特に兄)に愛されていることを学び、憧れの父親のような大胆な人間に近づけた話。

だと考えます!


いかがでしたか?
あくまで弊社のプロデューサー陣での分析の見解なので、これが正しい訳ではありませんが、
『1/2の魔法』という映画は、しっかりと脚本の要点が綺麗に抑えられ、特にSAVE THE CATの法則の乗っ取り方は見事だと思いました。

弊社ではこういったシナリオ分析を通じて、「いい物語とは何か」「みんなが理解でき、そして咀嚼でき、その上で心を動かされる物語は何か」をしっかりと勉強していきたいと思っています。

次回は『エターナルサンシャイン』を予定しています!ぜひお楽しみに!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?