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ブライガー小説版以後

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小説版「銀河旋風ブライガー」をベースにした二次小説です。
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MOVE 14

 ◆◆◆

 ソドム外輪の崖の内部をアイザックは歩いていた。
 入り組んだ通路から通路へ、そして崖の縁に沿って歩き、更に上の階層にあがり、張り出した崖どうしをつなぐ橋を渡る。ひとつの洞窟の入り口で名前を告げると、ランプを下げたナルキネ族が、内部で何方向にも枝分かれした洞を先に立って案内した。

「こちらでございます。ごゆっくりどうぞ」

 まるで蟻の巣のように、枝分かれした先がそれぞれ小部屋になっ

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MOVE 13

 ◆◆◆

 部屋割りが決まらずに終わったミーティングのあと、全員が集まるのは五日ぶりだ。
 あの夜、連絡だけを入れ、二人はメイの予定通りクアンのトラックで翌朝ソドムの北の朝市に着いた。途中、ガス欠でアイザックが乗り捨てていたホバーバイクを回収しつつ、二泊するほどのゆっくりペースで帰ってきたのだった。
 到着したメイはポロポロ泣きながら真っ先にシンに飛び付き、身長の逆転し始めた弟に結構な剣幕で怒ら

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MOVE 12

 皆にメモを残した。ほんの少しの着替えも用意していた。けれどその時はまだ、、朝市でクアンを見つけても、ここへ着いてもまだ、、この先どうするかなど、はっきりしたものは無かった。
 最初はこのまま東の方へ回って、海レタスと呼ばれる野菜を見に行く事も考えていた。それは野菜ではなく、海岸の岩場で採取する海草だとさっき言われて、ルイーズ達と大いに笑った。
 リンダの頼みを果たして、ルトを見て、海レタスを見て

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MOVE 11

 ◆◆◆

 メイを乗せたトラックは川沿いを北へ進む。円環都市の周辺や南側に向けては乾燥気味のワイルドステップが広がっているが、今見えている景色の中で緑はどんどん濃くなってきていた。
 ルトの畑を、初めて見た。てっきり木に生っているものと思っていたが、どうやら背の高い一年草に見える。
 荷台に立ち上がって、なんとか景色が見渡せる。どこまでも続くルト畑と張り巡らされた用水路。所々に木に囲まれた集落や

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MOVE 10

 ◆◆◆

 聞いた事もないようなお町の取り乱した声に二人は叩き起こされた。
 ホバーバイクを地下通路に引き入れて、キッドは暗闇の中へ滑り出した。地下通路はこれが初走行になる。ボウイが確認してからの筈だった。障害になりそうな岩などがないか、慎重に飛ばしていく。床に簡単な金属の板が並べてあるだけで、他は岩盤が剥き出しになっていた。所々、染み出した水が溜まっている。黴混じりの土の臭いがするが、ソドムの

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MOVE 9

 ◆◆◆

 ポンチョはちょっとイライラしながら地下基地を後にした。既に自分の物として確保した紫縞の小型機を北に向ける。行き先は円環都市の東側だが、一応、街の真上は避けて飛ぶようにはしている。
 何にイラつくと言って、もちろん地下通路だ。こっちは闇の始末屋なのだ。そうと知らせて取引をした訳ではないが、街に繋がっている抜け道があるなど、宇宙のドーム建築に穴が開いているも同然ではないか。殺人も厭わず引

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MOVE 8

 ◆◆◆

 最後の一隻がドームを出ていく。ここで、ひいてはこの星で最大クラスの戦艦。おあつらえ向きにこのクラスは二隻あったので、片方は戦艦タロターネと命名され既に東へ旅立った。最後まで残っていた戦艦カバローネは当然、西の守りに就く。戦艦を投入するほどの巨大な敵は今は見当たらないが、アルカナの乙女達の名を戴いたからには、人々の心の支えとして力強く君臨するだろう。
 キッドとボウイが地下基地の確認に

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MOVE 7

 ◆◆◆

 ソドムはかつて、外の崖、内の壁に挟まれた巨大なドーナツ状の檻であった。今もそれらの殆どは形をとどめ、場所によっては終日、日が射さない。
 脱走者組織がAZ を倒すために一斉蜂起した後、人々はソドムから外へ逃げるよりは、内へ、豊かに暮らすマモンの街へと意識が向かい、壁の打ち壊しも方々で行われたが、崩しても崩しても切りのない長壁である。さらに壁の内側の深い谷は、崩した壁をいくら落とし込ん

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MOVE 6

 ◆◆◆

 最初の話では離発着が正常に行えるかどうかを確認するだけの筈だった。なにしろそれをしなければ、光速母船ブライガーで北極を飛び立っても中に入れない。それくらい急な引っ越しだ。そんな訳だから、ボウイ一人で用が済むものをキッドがああだこうだと理由を付けて同行を決めると、二人で行くならあれもしてこい、これも済ませておけと、、、そんな流れである。
 床面を掃除するだけで二日がかりだった。ブライス

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MOVE 5

 ◆◆◆

 メインゲートがあるのが1F と言うことになる。そこはほぼ倉庫と整備用ハンガーで占められており、その上が最上部のアラートハンガーと、カタパルト。天井には巨大な円形の区切りが見えた。

「おー、、おおっ?!こーゆーことかぁ!うっひょ~」

 地下基地へ到着してからボウイはもう騒がしいことこの上なかった。この階でもまたひと声あげると壁際へ走り、必要なパネルをあっさりと探し当てていた。持ち場

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MOVE 4

 ◆◆◆

 翌朝、保守点検の日常作業は全てストップされ、ドームに暮らす者全員が司令部のミーティングルームに集められた。モルサが前に立ち、マリアーノとアイザックがサイドに座っている。
 進行役のモルサはまずシンを呼び寄せると、昨日のフライトで見た現象を皆の前で説明させた。次には四人のナルキネ族の番だった。

「ばあさんの従姉妹でカジャッハ島に嫁いだ人が言うには、島の言い伝えではグィラ・ル・ルーって

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MOVE 3

 ◆◆◆

 ハンガーの灯りは三分の一ほどしか点灯していないようだった。J9 ONLY /KEEP OUT 。殴り書きされた紙切れが貼りつけてある通用口のドアを開けて、ボウイは一瞬息を止めた。ついでに足も止まった。つい先日まで整備用の道具やら大型機械やらでごちゃごちゃになっていたハンガーの内部がすっかり片付けられている。
 そこに有るのはただ一機、ブライスターのみ。もう一機のブライスターは本来の定

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MOVE 2

 ◆◆◆

 周囲十キロ程度の島の西側からブライスターを進入させる。中央に聳える山のおかげで気づかれぬように島に入るのは容易だった。
 一島一村。昔から二百人ほどを維持してきた規模の小さな島だった。マモンの兵士が来て半数近くがどこかへ連れ去られ、女子供は山間の施設へ、男たちは村のあった場所に隔離され、島ごと外部との接触を失ったのはもう二世代も前の事だ。彼らが強制されたのは小さな機械の製造だった。

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MOVE 1

 ◆◆◆

 司令部二階の窓からエントランスポーチの屋根に上がり込んで、キッドはドーム越しの星空を眺めていた。
 仰向けに寝転んで、なんとなく両手を空に伸ばす。透明のあの丸いドームに触ってみたい。インテリアのスノードームを両手で包み込むようにだ。ドームに包まれているのは自分だけれど。もう何度もからかわれたが、それでもやっぱり、アステロイドのドーム建築によく似たこの眺めが好きだとしか言いようがない。

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