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夕暮れ。早く、家に帰ろう。

二回目の緊急事態宣言が発出されて、うちの会社も久しぶりの在宅勤務が始まった。今のところ、週2回程度は在宅勤務になるかというところなのだが、またこういう生活が2ヶ月程度は続くのかな。どうだろう。あまり先々のことを考えてもね、わからないことはわからないわけで、そこにごろんと転がしておくしかないんだよ。
ただ、はっきりしていることもあるぞ。
手洗い、マスク、三密回避。具合悪けりゃ家に居るってこと。そして人と会ってマスクなしに会話しないこと。つまり、市井の人間にできるベストプラクティスを愚直なまでに継続すること。それしかないのだ。継続は力なり。非力ではあるかもしれないが、無力ではない。

在宅勤務。それはそれで結構仕事は捗ったりする。
オフィスで仕事をしている時、いかに雑事に振り回されているかってことだな。確かに集中は出来る。けれど、集中できる環境だけあれば、幸せだとも限らない。
時には煩わしいと思う職場の人間関係も、実は大事な人生のスパイスだったのだよなあ、きっと。オフィスで仕事できる幸せ。そういうものも確かにあるような気がするのだよな。日がな一日、誰とも会話せずにキーボードを打ってると。
わかりやすく言えば、寂しいのだ。
煙草の本数だけが増えてしまう。
例の流行り病を機に、やめたほうがいいですよと言われているのだが、
わかっちゃいるけどやめられねえ。
青島幸男は実にいい歌詞を書いたものだ。

夕刻、自宅での仕事を終え、会社に業務終了の連絡を入れてから、仕事用のPCをシャットダウンして、スーツから普段着に着替え、近所のスーパーへ買い物に出る。
久方ぶりの、外の空気。
4月の在宅勤務の時は、この時間でも、まだ外は明るかったんだよな。それがどうだ。今はまだ1月なんだ。18時だもの。とっぷり陽は暮れている。これからはだんだん、そんな事で季節の移り変わりを感じて行くんだろうな。
一昨年前までの、それまで普通にあった日常。季節の移り変わりは、居酒屋のおすすめメニューの変化で感じていたんだっけ。
もう外食しなくなってどのくらい経つんだ。気付けば、もはや僕には「行きつけ」と呼べる店は無くなってしまった。あの忌々しいウイルスは、僕からも、そんなかけがえのないものを奪っていったんだ。そして、きっと、もっと大切なものを奪われた人だっているはずで。

また救急車が通る。今日何度目だ。
うちの近所に基幹病院があるから、多いのは当たり前なんだけど、それにしてもさ。とにかく、運ばれている人。また運ばれている人の家族の人たちの気持ちも考えるとね。とにかく、ご無事で。そして医療従事者の皆さんも、本当にお疲れさまです。自分自身も医療に隣接する分野で仕事させてもらっているし、昨年は大怪我をして、実際に入院したしね。あの時は病院の人たちに良くしてもらったんだ。本当にありがとうございます。

そんな事を考えつつ、スーパーに行く道すがら。
近所の家々から香る、夕餉の香り。
どこかの家では、魚を煮付けたのか、醤油と砂糖の甘じょっぱい香りがする。あるいは、どこかの家ではカレーを煮る香り。其処此処の家から立ち上る、生活の香り。
みなさん今日も一日お疲れ様でした、と声をかけたくなるほどに、抱きしめたいくらい愛おしい、それぞれの生活があって。

僕もまた、手料理ではないけれど、スーパーで美味しいお惣菜を買ったんだ。それに、家に帰ればちょっと良い、スコッチウイスキーもあるんだ。
さあ、僕も早く家に帰ろう。

(了)

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