見出し画像

「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第2話

エレナN「聖騎士団とは、魔物から人々を守るために結成された。元老院の長であるセナ―トゥスが団員を指名し、王が任命する。そして、司令官の下で動くのだ。人々は近年頻繁に出現する魔獣に頭を悩ませており、聖騎士団はまさに彼らにとって正義のヒロインだ」

〇街・市場

   魔獣が現れる。
   逃げる人々。
   聖騎士団の4人が戦っている。

ミザリー「皆で呼吸を合わせて、あいつを斬るよ。アンナ、足をひっぱらないで!」

   聖騎士団、苦戦している。
   街の人々、聖騎士団を応援している。

街の人①「あれ?4人?団長のエレナ様は?」
街の人②「本当だ。エレナ様がいない」
街の人③「いつもエレナ様だけボロボロだったもんな。弱くてクビになったんじゃねぇか」

   街の人①~③、大声で笑う。
   エレナ、街の人①~③の会話に聞き耳をたてる。

エレナ「(小声で)何も知らないくせに」

   エレナ、戦闘の様子を見る。

エレナ「随分と苦戦してるようね。でも、もう私は聖騎士団じゃないんだし、関係ないわ」

   エレナ、足早に立ち去る。

〇古い宿屋(夕)

   エレナ、宿に入る。

宿屋の主人「おいおい、ねえちゃんよぉ。部屋に男なんか連れ込まれちゃ困るんだが」

   宿屋の主人、酔っぱらっている。

エレナ「男?何のこと?」
宿屋の主人「すっとぼけてんじゃねぇよ。ついさっき、『エレナの知り合いだー』って男が部屋に通せと言ってきたんだ。うちは1人分の代金しか頂いてないんでね。連れがいるんだったら、追加で払ってもらおうか」

   宿屋の主人、目が据わっている。
   エレナ、長いため息をつく。

エレナ「分かったわ。なんのことか分からないけど、追加で払えばいいんでしょ」

   エレナ、宿屋の主人に金貨の入った袋を投げる。

宿屋の主人「ぅお、おお…」

   宿屋の主人、袋の中を覗く。
   十分な枚数の金貨が入っている。

宿屋の主人「へへ。まいどあり」
エレナ「お釣りは結構だから、ここを去るまで二度と話しかけないでちょうだい」

   エレナ、部屋に向かって階段を上る。

宿屋の主人「なんだぁ、お高くとまりやがって。しっかし、こんだけありゃ、たんまり飲めそうだ」

   宿屋の主人、金貨に頬ずりする。

〇宿・エレナの部屋(夕)

   エレナ、ドアを開ける。
   銀色の長髪の男がベッドの上に腰掛けている。

男「やあ!」

   男、笑顔でエレナに手を振る。
   エレナ、警戒して腰にさしている短刀に手を伸ばす。

男「おいおい、物騒だなぁ。仲良くしようよ」
エレナ「仲良くですって!?あなたは誰なの、どうしてここにいるの!?」

   エレナ、男を睨み続けている。

男「聖騎士団の前団長・エレナだね?」
エレナ「なぜ知っているの?」
男「さっきから質問ばかりだなぁ」
エレナ「当然よ!いきなり見知らぬ男が現れて、私のこと、泊まっている宿まで知っている。あなた一体なんなのよ!?」

   エレナ、短刀を男に向ける。

男「落ち着いて、落ち着いて。話すから、まずはその物騒な物をしまおうか」

   エレナ、まだ短刀を男に向けている。

男「ふーっ。ま、じゃあ、そのまま聞いて」

   男、エレナに微笑む。

男「僕の名前はフェデリック。フェデリック・ド・フーシェ」
エレナ「……ド?つまり、貴族ってこと?」
フェデリック「そう、確かに僕は貴族だ」
エレナ「貴族様が私に何の用?」
フェデリック「きみだって、貴族ではないが名家のお嬢様じゃないか。いや、『だった』と言うべきか」

   フェデリック、エレナの目の前で紙を広げる。

エレナ「……これは」
フェデリック「そう。これはある首飾りの契約書だ。それも偽物の首飾りのね」
  エレナ、短刀を床に落とす。

エレナ「まさか」
フェデリック「そう。そのまさかだ。きみのお父さんが騙されたあの首飾りの契約書なんだよ」
エレナ「まさか……あなたが」
フェデリック「いや、僕ではない。僕はこれをある商人から入手したんだ」

   エレナ、苛立つ。

エレナ「さっきから何が言いたいの?お父様とお母様の居場所を知っているの?」
フェデリック「いや、居場所は分からない。でも、きみの両親を詐欺にひっかけた黒幕なら知っている」
エレナ「もしかして」
フェデリック「そう、きみが想像している人物——。―—きみのかつての親友であり、聖騎士団団長になったミザリーだ」

   フェデリック、エレナに背を向ける。
   窓の外には木枯らしが吹き、木の葉を揺らしている。

フェデリック「僕もきみと同じさ。ミザリーに恨みがあるんだ」
エレナ「恨み?」
フェデリック「そう。あの女がとっても憎いんだ」

   フェデリック、エレナの方を向く。

フェデリック「だから」

   フェデリック、エレナと握手しようと手を差し出す。
   フェデリックの美しい銀髪が揺れ、笑みを浮かべている。

フェデリック「一緒に復讐しないか?」
エレナ「え……」

〇お城(夜)

   王の間から去る聖騎士団の4人。
   お城の廊下を歩いている。

リリー「つっっっかれた」
ソフィアナ「今日の魔獣は手ごわかったわね」
アンナ「やはりエレナがいないと、なかなか勝てませんね」

   ミザリー、アンナを睨みつける。

ミザリー「馬鹿言わないで。あんな女、いてもいなくても同じでしょ」

   ミザリー、1人で歩き出す。

リリー「おお怖っ」
ソフィアナ「エレナが去ってから、苛立ってるね」
リリー「何で怒ってるんだか。自分は団長になれたくせに」
アンナ「……あの、ミザリーの前でエレナのことを口に出すのはマズかったでしょうか」
ソフィアナ「……うーん」
リリー「ま、触れないでおきましょ。ほら、『触らぬ神に祟りなし』って言うでしょ」
アンナ「でも、どうしてエレナは去ったんでしょうか……」
リリー・ソフィアナ「さあ」

〇酒場(夜)

   活気のある酒場。
   大勢の男たちが飲んで騒いでいる。

男①「いいぞ、もっと飲め!」
男②「おーい、もっと酒をくれ、肉もだ」

   給仕女性、ビールと肉をテーブルに置く。

給仕女性「はいよ!ビールと肉!」
男③「今日はえらく気前がいいじゃねぇか」
宿屋の主人「おお。今日は臨時収入が入ったんだ」
男①「そいつぁ景気がいいや!」

〇宿・エレナの部屋(夜)

   しんと静まり返る部屋。
   部屋にはエレナとフェデリックがいる。

エレナ「復讐ってどういうこと?」
フェデリック「復讐は復讐だよ。僕もミザリーが憎くて堪らないんだ……」
フェデリックM「殺したいほど……ね」

   窓の外で若い男性の悲鳴が聞こえる。
   若い男性、魔獣に襲われている。
   エレナ、フェデリック、窓の外を見る。
   エレナ、心配そうな表情。

フェデリック「助けるのかい?」
エレナ「(我に返って)助ける?馬鹿言わないで。私はもう聖騎士団じゃない。すぐに正義の聖騎士団様たちが来てくれるでしょ」

   聖騎士団、来ない。

若い男性「誰か!誰か助けてくれ」

   誰も助けにこない。
   エレナ、ため息をつく。

エレナ「……仕方ないわね」

   エレナ、手のひらを重ねて魔獣に向ける。

魔獣「???」

   魔獣、みるみるうちにネズミくらいまで小さくなる。

若い男性「ハァハァ…」
    「……???何でいきなり???」

   魔獣、逃げ出そうとする。
   若い男性、魔獣を踏みつぶす。
   エレナ、その様子を見届けてからカーテンを閉める。
   フェデリック、拍手する。

フェデリック「お見事」
エレナ「……」
フェデリック「今のは?強化魔法とは少し違うようだが」
エレナ「今のは…強化魔法とは逆の弱体魔法よ。聖騎士団にいた頃は使ったことがないけれど、使ってみたの。初めてだけど、意外と使えるものね」
フェデリック「弱体魔法?」
エレナ「そ。弱体魔法で魔獣の、いいえ魔獣じゃなくたって構わないの。とにかく相手を弱体化させることができるのよ。でもこの魔法は…」
フェデリック「魔法は?」
エレナ「お母様と使わない約束をしていたの」

回想シーン
×    ×    ×
エレナの母と幼いエレナが家で話している。

母「いいこと、エレナ。あなたには強化魔法で人を救う道に進んで欲しいの」
エレナ「救う?」
母「そう。色んな人を助けて欲しいの」
エレナ「分かった。じゃあ、強くする魔法だけ使う」
母「うん」
エレナ「弱くする魔法は使わないよ」
母「約束よ」

×    ×    ×

エレナM「でもお母様、エレナは仲間を強化し続けた挙句、見捨てられました。もう……もう自分のためだけに魔法を使いたいです」

   エレナ、フェデリックを見つめ、握手しようと手を差し出す。

エレナ「手を組むわ。お互いの目的のため。私とあなたでミザリーに復讐して…私はお父様とお母様を見つけ出す」
フェデリック「今日からきみと僕は仲間だ」

   エレナ・フェデリック、握手する。
   エレナ、笑う。

フェデリック「そうと決まったら、明日に備えてそろそろ寝よう」

   フェデリック、ベッドに入ろうとする。

エレナ「……!?ちょ、ここで一緒に寝るつもり?」
フェデリック「(子犬のように可愛く)え?駄目?」
エレナ「駄目に決まってるでしょ!床で寝なさいよ!」
フェデリック「……別に襲わないよ」

   エレナの顔が赤くなる。
   フェデリック、床に寝転がる。

エレナ「ローソク消すわよ」

   エレナ、ローソクを消す。

フェデリックM「本当に襲わないのに……今はね」

(続く)


第3話↓



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?