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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第3話

〇宿・エレナの部屋(翌朝)

   フェデリック、カーテンを開ける。

フェデリック「(明るく)おはよう、エレナ」
エレナ「う……ん……」

   エレナ、起きない。

フェデリック「朝だよ」
エレナ「もう起きるって……」

   エレナ、目を開けない。

フェデリック「起きないならば……」

   フェデリック、エレナに顔を近づける。

エレナ「わー!起きるってば!」

   エレナ、起きる。

〇レストラン・テラス席(朝)

   エレナとフェデリック、向かい合い座っている。
   2人、コーヒーを飲む。

フェデリック「(笑いながら)まさかあんなに朝が弱いとはね」

   エレナ、ばつの悪い顔になる。

エレナ「うるさいなぁ。いいでしょ、別に」

   エレナ、コーヒーを一口飲む。

エレナ「それで?何?話したいことって」
フェデリック「きみと今後の作戦を立てたいんだ」
エレナ「作戦?」
フェデリック「そう。確実にミザリーへ復讐するためのね。まず、ミザリーの他に聖騎士団はリリー、ソフィアナ、アンナがいるね。この3人をこちら側に取り込みたい。そして…司令官のルドルフだが、黒い噂が絶えない男でね。なんでも元老院入りを狙っているらしく、元老院のメンバーに賄賂を贈っているようなんだ」

   エレナの表情が凍り付く。

エレナ「元老院入り?賄賂?何それ……」
フェデリック「元老院に入れば、国王に進言もできるし、自分たちのやりたいように国を動かせるからね……」
エレナ「……そういえば、私が解雇されたあの日、ルドルフは司令室で勲章がどうとか言ってたわ」
フェデリック「そう。勲章されれば元老院入りに一歩近づくからね。とにかく元老院に入りたくて堪らないんだろ」

   エレナ、拳を握る。

エレナ「じゃあ、貴族より貧民を助けた私が邪魔だったの?貴族に怪我をさせたことで勲章されなくなるから?」
フェデリック「……まぁ、そういうことだろうね」

   エレナ、怒りで震える。

エレナ「自分の目的のために貧民を見捨てろと言ったこと……許せないわ。そんな奴が人々を守れるはずない!」

   フェデリック、心配そうにエレナを見つめる。

フェデリック「まずは聖騎士団のリリー、ソフィアナ、アンナを味方につけよう。そしてルドルフの悪事をつきとめ、議会で暴こう。最期にミザリーを孤立させる。もちろんきみのご両親への詐欺事件で起訴し、今までやったこと全てを吐かせよう」

   エレナ、ふと通りの家族を見る。
   子どもと両親が手をつなぎ、仲睦まじく歩いている。
   貴族の馬車が通る。

エレナ「……どうしてあなたはミザリーに復讐したいの?」
フェデリック「え……」
エレナ「だって、あなたは貴族なんだし、このまま暮らせばいいじゃない。どうして危険を冒してまで私に協力するの?」
フェデリック「きみは……覚えていないのかい?」
エレナ「何を?」

回想シーン
×    ×    ×
   幼いフェデリックが泣き叫んでいる。
   魔獣が子どもを睨みつけ、襲いかかろうとしている。
   フェデリックの母が建物の瓦礫に押しつぶされている。

フェデリック「助けてー!助けてー!」

   幼いミザリー、通りかかる。

フェデリック「そこの人、助けて!どうか騎士様を呼んできて」

   ミザリー、嫌な顔をし、立ち去る。
   フェデリック、絶望する。
   幼いエレナが駆けつける。

エレナ「大丈夫!?」

   エレナ、手のひらを重ねて魔獣に向ける。
   魔獣、小さくなり、逃げ出す。

エレナ「今、騎士様を呼んでくるね」

   エレナ、走り出す。
   フェデリック、意識を失う。
   騎士がやってくる。

騎士「おい、おい!大丈夫か!?くそっ、母親はもう駄目だ。せめてこの子だけでも」
×    ×    ×

フェデリックM「あの時……ミザリーがすぐに助けを呼びに行ってくれれば、母さんは死ななかったかもしれない。」

   フェデリック、エレナを真っすぐ見つめる。
   風が吹いている。

フェデリックM「でも、この子のおかげで僕は助かった」

フェデリック、エレナの手にキスをする。

エレナ「いきなり何?」
フェデリック「忠誠のキスさ」
エレナ「意味分かんない!」

   エレナ、顔が真っ赤になる。

〇街・ブティック

   リリー、買い物を楽しんでいる。

リリー「ええと、あれと……それと……これ!色違いで全部ちょうだいね」
店員「ありがとうございます」
リリー「はぁ〜楽しい!戦闘ばかりじゃ疲れちゃうし、買い物って最高!」

   リリー、店を出る。手にはたくさんの荷物。
   エレナ、リリーの前に現れる。

エレナ「リリー」
リリー「エレナ!?こんなところで、どうしたの!?」
エレナ「話があるの、リリー」
リリー「話?」
エレナ「私が聖騎士団を解雇になったことよ」
リリー「解雇!?自分から辞めたんじゃないの?」

   エレナ、驚く。

エレナ「そんな話になってるの!?私は解雇されたのよ。ルドルフによってね」
リリー「ルドルフに?」

   リリー、深いため息をつく。

エレナ「それでね、リ……」
リリー「ああ、もうやめて!面倒だわ」

   リリー、心底面倒くさそうな顔をする。

リリー「解雇されたとか、そんなことはどうでもいいの!ルドルフに逆らえって言いに来たの?そんなの無理だわ」

   リリー、エレナに背を向ける。

リリー「私は聖騎士団として働いて貰ったお給金でこうやって買い物ができれば満足なの。面倒なことに巻き込まないで」

   リリー、辻馬車をとめる。

エレナ「待って、リリー!私たち仲間でしょう?」
リリー「仲間?何言ってんだか。正義感を振りまいていつも私を面倒なことに巻き込んでいたくせに」
エレナ「そんな……」
リリー「(御者に)出して」

   辻馬車、走り去る。
   フェデリック、エレナに近づき、無言で抱きしめる。
   エレナ、泣き続ける。

〇フェデリックの邸宅(夜)

   真っ赤に目が腫れたエレナ。
   メイドがハーブティーを出す。

フェデリック「飲んだら?」

   エレナ、無言で飲み始める。

フェデリック「少しは落ち着いた?」

   エレナ、黙っている。

エレナ「(小声で)……なかったんだ……」
フェデリック「え?」
エレナ「仲間じゃなかったんだ……」

   エレナの涙がハーブティーに入り、小さな水しぶきが立つ。

エレナ「ずっと仲間だと思ってた。人々を助ける喜びを感じてるんだと思ってた。馬鹿みたい。そう思ってたのは私だけだったのね……」
フェデリック「きみは立派だよ、エレナ。その優しさに救われた人はたくさんいるさ」
エレナ「そうかな……」
フェデリック「そうとも」
フェデリックM「かつての僕も」
フェデリック「まだソフィアナとアンナがいる。明日は僕も一緒に話をつける。さ、今日はゆっくり眠ろう」
エレナ「ん……」

〇薬草研究室

声「ソフィアナ」

   ソフィアナ、集中して薬草の調合をしている。

声「ソフィアナ」

   女の人が入ってくる。

女「ソフィアナってば!」

   ソフィアナ、驚く。

ソフィアナ「ああ、ごめん。何?」
女「んもう、何回呼んだと思ってるの?お客さんよ」
ソフィアナ「私に?」
女「そう言ってるじゃない」

   女、エレナとフェデリックに視線を向ける。

ソフィアナ「あ……」

〇薬草研究室・中庭

   エレナ・フェデリック・ソフィアナ、歩いている。

ソフィアナ「話って?」
エレナ「えと……私が解雇されたことなんだけど」
ソフィアナ「うん」
エレナ「驚かないの?」
ソフィアナ「うん。そうかなと思ってた。誰よりも正義感の強いエレナが自分から聖騎士団を去るわけないし…」

   エレナ、ホッとする。

ソフィアナ「それで?」
エレナ「どうして追い出されたのか、真実を知りたいの。だから、協力して欲しい」
ソフィアナ「協力?」

   エレナ、頷く。

エレナ「ミザリーとルドルフの周辺を洗って欲しい。ほら、私はもうお城には入れないから」
ソフィアナ「……。それってかなり危険よね、私が」

   エレナ、無言。

ソフィアナ「私ね、自分の意思で聖騎士団に入ったわけじゃないの。両親が、娘を正義の聖騎士団に入れたら鼻が高いだろうって……。それで入ったのよ。エレナみたいに人助けをしたいわけじゃない。だからその……エレナに協力して……それがバレたら両親は何て言うかな」

   フェデリック、何かを言おうと口を開ける。
   エレナ、フェデリックを制止する。

エレナ「ソフィアナが両親を大切にする気持ち、分かるよ。でももし、気が向いたら、ここへ連絡して」

   エレナ、連絡先を書いてソフィアナに渡す。
   エレナ・フェデリック、去る。
   ソフィアナ、2人の背中を見つめる。

〇アンナの家

   アンナ、うさぎのぬいぐるみに話しかけている。

アンナ「ねえ、どうしてミザリーってあんなに怖いのかなぁ?」
ぬいぐるみ(アンナの声)「元気出しなよ、アンナ」
アンナ「そうよね。ありがとう」

   窓に石がコツンとぶつかる。
   アンナ、窓の外を見る。
   外にはエレナとフェデリックが立っている。

アンナ「あ」

   アンナ、外に出る。

アンナ「エレナ」
エレナ「アンナ、久しぶりね。ミザリーにたっぷり虐められているようじゃない」

   アンナ、泣き出す。

アンナ「うっ、うっ……エレナぁ。戻ってきてよ」
エレナ「あのね、今日は話があって来たの」
アンナ「話?」
エレナ「単刀直入に言うわね。私たちと手を組まない?」
アンナ「手を組む?」
エレナ「そう。聖騎士団は今、ミザリーとルドルフのせいで、めちゃくちゃ。内部のいじめは見て見ぬ振りだし、貴族ばかりで貧民を助けない」

   アンナ、強く頷く。

エレナ「私にはあなたの優しさが必要なのよ」

   アンナの目が輝く。

アンナ「私が必要なの?足手まといじゃないの?」
エレナ「そうよ」

   エレナ、アンナとフェデリックの手を握る。

エレナ「私たち3人で手を組むの、互いの目的のために」

(続く)


第4話↓



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