見出し画像

「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第1話

【あらすじ】
世界を魔物から守るため、5人の乙女が選ばれ、聖騎士団が結成された。正義感に溢れるリーダーのエレナは特殊な能力である強化魔法を使い、いつも仲間を強化して自分は魔物の攻撃を防ぎきれず、傷ついてばかりいた。
 ある日、魔物との戦いで負傷したエレナは倒れてしまう。目を覚ますと、聖騎士団の解任通知が届いていた。納得できないエレナは仲間4人に頼ろうとするが、誰も味方になってくれない。さらに、親友のミザリーからは「ずっと追い出す日を夢見ていたの」と言われてしまう。
 自分を犠牲にして仲間を強化した挙句、聖騎士団から追放されたエレナは強化魔法とは真逆の弱体魔法で仲間たちや司令塔に復讐することを誓う。

【主な登場人物】
聖騎士団の戦士たち:エレナ(団長)
          ミザリー(副団長)
          リリー、ソフィアナ、アンナ(団員)
エレナの協力者:フェデリック
聖騎士団の司令塔:ルドルフ
元老院の長:セナ―トゥス

〇市街地(夕)

   「キャー」、「わー」、「逃げろ!」という人々の声がする。
   幼い子ども、震えている。後ろには全壊したデパート。
   子ども、怖くて声が出せない。
   大きな魔獣、子どもを呑み込もうとしている。

エレナ「待ちなさい!」
ミザリー「その子を離しなさい!」

   魔獣、振り向く。

エレナ「私があいつを引きつける。リリー、アンナ、子どもをお願い。怪我させないでね」

   リリー・アンナ、黙って頷く。
   エレナ、剣を抜き魔獣にとびかかる。
   ミザリー・ソフィアナ、エレナに続いて剣を抜きとびかかる。
   魔獣、子どもを離す。
   子ども、泣き叫ぶ。
   リリー・アンナ、子どもを受け止める。

リリー「もう大丈夫だよ」
アンナ「怖かったですね。怪我はありませんか?」

   子ども、頷く。

子どもの母「アルフレッド!」
子ども(アルフレッド)「ママ!」
アルフレッドの母「あ……あ……聖騎士様、ありがとうございます。何てお礼を申し上げればよいのか」
リリー「ご無事でよかったです。お礼なんて…聖騎士団としての務めですから」
リリー「(アンナに向かって)私たちもいくよ」

   リリー・アンナも剣を抜き、魔獣にとびかかる。
   魔獣、聖騎士団全員をビルに叩きつける。

エレナ「うぅっ……」

   エレナ、仲間たちを見渡す。皆倒れている。

エレナM「やっぱり…連日の戦闘で体力が残っていないのね……」

   エレナ、決意した表情。

エレナ「みんな!」

   仲間たち、エレナの声に気づく。

エレナ「今から私の魔法で皆の体力を強化する。いい?そしたら、一斉にあいつに斬りかかるわよ」
ミザリー「エレナ!魔法で皆を強化している間は、自分のことを強化できないんだよ!?攻撃されたら、またエレナだけボロボロになっちゃうよ」
エレナ「私のことはいいの。皆を強化している間に、あいつをやっつけてくれるって信じているから。じゃあいくよ」

   エレナ、強化魔法を使う。
   仲間たち、回復する。

ミザリー「エレナ、ありがとう。皆、エレナの気持ちを無駄にしないよ。あいつを斬るよ!」
ソフィアナ・リリー・アンナ「うん!」
全員「はぁぁぁぁー」

   魔物、斬られる。
   そのまま灰になって消える。

街の人々「助かった」
    「ありがとうー!!!」
    「さすが聖騎士団」
アルフレッド「お姉ちゃんたち、ありがとう」
アルフレッドの母「本当にありがとうございます」

   人々、聖騎士団に拍手する。
   エレナだけがボロボロで顔を上げることができない。

街の人①「エレナ様だけ、ボロボロだな」
街の人②「本当だ。聖騎士団の団長なのにね」
街の人③「もしかしてさ、エレナ様だけ弱い……とか!?」

   街の人①〜③、互いに顔を見合わせる。

〇お城・王の間(夜)

   国王、玉座に座っている。
   聖騎士団の司令塔・ルドルフ、聖騎士団の前に立っている。

ルドルフ「よくやってくれた。今日も大切な国民を守ったな」

   ルドルフ、国王をチラっと見る。
   国王、黙って聖騎士団を見つめる。

国王「我が聖騎士たちよ、よく国民を守ってくれた。礼を言おう」

   ルドルフ、誰からも気づかれないようニヤリと笑う。

ルドルフM「連日押し寄せてくる魔物から国を守っている聖騎士団。その聖騎士団を束ねているのは司令塔の俺だ。次に叙勲されるのはきっと……」

   聖騎士団、国王の言葉に喜び深くお辞儀をする。

ルドルフ「さぁ、今日はもう疲れただろう。ゆっくり休むがいい」

   聖騎士団、国王とルドルフにお辞儀をし、王の間から去る。

エレナ・ミザリー「(他3人に手を振って)おやすみ」

   エレナ・ミザリー、中庭のベンチに腰掛ける。

ミザリー「……エレナ……」
エレナ「ん?」
ミザリー「無理しないで。仲間に強化魔法を使ってばかりで自分がボロボロになってるじゃない」
エレナ「ミザリー、そんな……無理だなんて」
ミザリー「私にだけは嘘をつかないで。心配なのよ。親友だから」
エレナ「うん。ありがとう、ミザリー」
エレナM「聖騎士団副団長であり、私の親友でもあるミザリーはいつも私を優しく気遣ってくれる。仲間には見せられない弱さも見抜いて、いつもこうして助けになってくれる」
エレナ「ありがとう。大好きよ、ミザリー」

   エレナ、ミザリーに微笑みかける。
   ミザリー、微笑み返す。

〇お城・エレナの部屋(翌朝)

   けたたましい音が鳴る。

ルドルフ「緊急出動、緊急出動、聖騎士団はただちに街の西部地区へ行ってくれ。市民が魔獣に襲われているとの情報が入った」
エレナ「また!?ここのところ、異常なほど多いわね」

   エレナ、おでこに人差し指と中指を当て、仲間にメッセージを伝える。

エレナ「皆、出動よ」
仲間たち「はい!」

〇貧民街(西部地区の手前)(朝)

男「助けてくれー」
女「(泣き叫びながら)あなたぁぁぁ」

   男、小さな魔獣に襲われている。血だらけ。

エレナ「みんな」

   仲間たち、エレナを見る。

エレナ「先に行ってて。私はあの男性を助けてから追いかける」
アンナ「え、でも……」
ソフィアナ「ルドルフの指令は西部地区に出た魔獣の討伐では」
リリー「そうよ。それに、小さい魔獣だし、一般の兵士でも対処できるはずよ」
エレナ「求められた以上、私はあの人を助ける。指令が出ていなくたって関係ない」
ミザリー「……分かった」
    「皆、先に行って戦うよ。昨日エレナに強化してもらったばかりだから、体力も残っているでしょ?」

   仲間たち、頷く。
   4人、西部地区へ向かう。

ミザリー「エレナのそういうとこ、尊敬するよ」

   ミザリー、エレナにウィンクする。

〇貧民街・古い家の前(朝)

男「助けて……助けて……」

   魔獣、グルグルグルと唸っている。

エレナ「伏せて!」

   エレナ、魔獣を一瞬で斬る。
   魔獣、灰になる。
   女、男に駆け寄り、抱きしめる。

女「ああ、あなた!あなた!無事でよかった」

   エレナ、男女の様子を安堵した表情で見つめる。
   女、エレナの方を向く。

女「聖騎士団様、ありが」

   エレナ、倒れる。

女「聖騎士団様!?」

〇西部地区

   エレナ以外の聖騎士団たち、傷だらけで息が荒い。

聖騎士団「(肩で息をして)はあ、はあ」

   魔物の手には血を流している老人が握られている。

ミザリー「はあ……はあ……みんな、きっともうすぐエレナが来るよ」
ソフィアナ・アンナ「……」
リリー「本当に?来ないんじゃない?だってもう随分経つよ。もしかして、エレナだけ逃げたんじゃないの?」
ミザリー「……」
男性の騎士「大丈夫か!?要請があって、応援に来たぞ」

   聖騎士団、ホッとした表情になる。

男性の騎士「皆さん、ひどい怪我だ。ここは私に任せて」
     「はぁぁぁぁー」

   男性の騎士、魔獣を斬る。
   魔獣、灰になる。
   老人、地面に転がる。

老人「うぅ……」

〇お城・王の間(夜)

   ルドルフ、苛立つ。
   国王、黙っている。
   聖騎士団の4人(エレナ以外)、うつむいている。

ルドルフ「一体どういうことなんだ!!??えぇ、ソフィアナ!!!」
ソフィアナ「……」
ルドルフ「私は今朝、確かに西部地区で魔獣の討伐をしろと命令を下したはずだ。一体どうして西部地区に団長であるエレナの姿がなかったんだ!?なあ、リリー!!!」
リリー「……」
ルドルフ「しかも、よりによって、オズワルド伯に怪我をさせるなんて…。何か言ったらどうなんだ、アンナ!!!」
アンナ「……」
ミザリー「ルドルフ司令官、実は西部地区へ行く前、貧民街で男が魔獣に襲われていたのです。それで、エレナは……その……そちらの救助に…」

   ルドルフ、怒りがヒートアップする。

ルドルフ「何だって!?」
ミザリー「私たち全員で止めたんです。でもエレナが聞かなくて」
ルドルフ「……つまり、エレナは勝手に命令を破ったということだな!?」
ミザリー「その通りです」

   国王、フーーーっと長いため息をつく。

国王「ルドルフ、もうよい。命令に背いたとはいえ、エレナが我が国民を守ってくれたことは揺るぎない事実だ。しかし、問題はオズワルド伯……。このままエレナに何のお咎めも無しではオズワルド伯が逆上するに違いない」
ルドルフ「エレナの処分につきましては、この私にお任せを」
国王「ふむ。ではルドルフ、お前に一任しよう」

   ルドルフ、国王へ深くお辞儀をする。

〇お城・エレナの部屋(朝)

   暗闇。エレナ、少しずつ目を開ける。

メイド「エレナ様.…..。よかった、ようやく起きられましたね」
エレナ「ようやく?どのくらい寝てたの?」

   エレナ、ベッドから上半身を起こす。

メイド「5日ほど」
エレナ「え、5日!?西部地区の討伐は?どうなったの?」
メイド「さあ?私は戦いのことは存じ上げておりません。あ!」

   メイド、思い出したように手紙を取り出す。

メイド「司令官のルドルフ様より書簡が届いておいでですよ」
エレナ「そう。ありがとう」

   エレナ、書簡に目を通す。

エレナ「ちょっと待って。何これ」

   エレナ、手紙を落とす。

エレナ「聖騎士団を解雇?どういうこと?」

   メイド、落ちた手紙を拾い、驚きの表情。

エレナ「今すぐ出かける」
メイド「え、でも……今起きられたばかりですよ」
エレナ「いいから!正装を用意して!」
メイド「……かしこまりました」
エレナM「ルドルフ司令官、一体どういうつもり?」

   エレナ、おぼつかない足取りで司令官室へ向かう。
   廊下がやけに長く感じる。

〇お城・司令官室

   バン!と扉が開く。

ルドルフ「やあやあ、エレナじゃないか」

   エレナ、ルドルフを睨む。

ルドルフ「怖い顔をして、美人が台無しだよ」
エレナ「……ないで」
エレナ「(声を張り上げ)ふざけないで!これは一体どういうことなの?」

   エレナ、解雇通知を広げる。

ルドルフ「ふぅ。見ての通りだよ。きみは解雇された。」
エレナ「どうして?私が何をしたというの?」
ルドルフ「僕はあの日、西部地区へ行けと指令を出したはずだよ」
エレナ「それは……。でも、貧民街にも魔獣が出たのよ。放っておけるはずないでしょ」
ルドルフ「きみが貧民なんぞを助けている間にオズワルド伯が怪我を負ってしまわれたんだ」
エレナ「でも、オズワルド伯は助かったんでしょ?」
ルドルフ「命さえ助かればいいってもんじゃない。大切な方になんてことをしてくれたんだ!」

   ルドルフ、エレナに背を向ける。

ルドルフ「いいかい、エレナ。命っていうのは平等じゃないんだ」
エレナ「え……」
ルドルフ「貧民と貴族が同時に襲われていたら、きみは貴族を助けるべきなんだ」
エレナ「なっ、」
ルドルフ「だってそうだろ?多くの税金を納め、この国を支えてるのは貴族たちだよ」
エレナ「なんてことを」
ルドルフ「貴族が1人減ればこの国にとって大きな痛手だ。でも貧民が1人減ったところで、何も変わらない。むしろ国にとってはプラスだ。」
エレナ「それは違う!」

  エレナ、怒りで身体が震えている。

エレナ「貴族はたまたま貴族に生まれただけ。貧民だって好きで貧民に生まれたわけじゃない!!!人間は平等なのよ。貧民と貴族が同時に襲われていたら…私は両方助かる道を選ぶわ!!!」

   ルドルフ、ため息をつく。

ルドルフ「もういいさ。とにかくオズワルド伯に怪我をさせた事実に変わりはない。きみには責任を取ってもらう。……まったく……勲章がパアだ」
エレナ「私だけ?他の皆は責任を取らないの?」
ルドルフ「他の皆?何を言っているんだね?貧民街に行ったのはきみの独断だろう」
エレナ「……え、でも、ミザリーは、」

   エレナ、言葉がうまく出てこない。
   ルドルフ、無言でエレナを見つめる。

ルドルフ「きみはもう聖騎士団じゃないんだ。これ以上この城に留まるならば、不法侵入者として捕えなくてはならないが」

   エレナ、司令官室から追い出される。

〇お城・中庭

エレナ「ミザリー!!!」

   ミザリー、エレナに気づく。

ミザリー「あら、エレナ」
エレナ「聖騎士団を解雇されたわ。私が貧民を助けたからって……。ねえ、ミザリーからルドルフ司令官の誤解を解いてくれない?だって、あの時はミザリーも応援してくれたじゃない」
ミザリー「応援……ねぇ」
エレナ「お願い!」

   エレナ、ミザリーの腕を掴む。

ミザリー「きゃあああああああ」

   周囲の人、ざわつく。
   兵士、駆けつける。

兵士①「どうされましたか?」
ミザリー「この人が……急に……」

   ミザリー、真っ赤になった腕を兵士に見せる。

兵士②「おい、女ぁ!聖騎士団団長のミザリー様になんてことを!」
エレナ「え、そんなに強くやってないわ」
   「……え、今なんて?ミザリーが団長?」
兵士②「ごちゃごちゃうるさい!」
兵士①「こいつは前団長のエレナだ。解雇されたらしい。気でも狂ったか」
兵士②「連れていくぞ」

   兵士①・②、エレナを北の塔へ連行する。
   ミザリー、楽しそうに笑う。

ミザリー「バイバーイ」

〇お城・北の塔(暗く、汚い、鉄格子)(夜)

エレナM「どうして……どうして……」

回想シーン
×    ×    ×
魔獣から人々を守るエレナ
孤児院でボランティア活動をするエレナ
街の人々と楽しそうに話すエレナ
×    ×    ×

エレナ(金切声で)「どうして!」

   しんと静まり返る北の塔

エレナ「これまで、聖騎士団の団長として魔獣から人々を守ってきた。ううん、それだけじゃない。孤児院でボランティア活動もしてきた。人々のために行動してきたじゃない!それなのに、それなのに……」

   雨が降り、雷が鳴り始める。
   コツコツと誰かの足音が聞こえる。

声「ごきげんよう、エレナ」
エレナ「誰?」

   ミザリー、現れる。かがんでエレナと視線を合わせる。

エレナ「(嬉しそうに)ミザリー!もしかして、助けにきてくれたの?」
ミザリー「助けに?馬鹿言わないでよ」

   
見下した目つきのミザリー。

エレナ「え?」
ミザリー「最期だから教えにきてあげたの」

   ミザリー、二ヤっと笑う。

ミザリー「あんたが大嫌いだった。ずーーーっと聖騎士団から追い出す日を夢に見ていたの」

   エレナ、動揺が隠せない。

ミザリー「人助けばっかりして、傷ついて……馬鹿みたい。何の苦労もしていないお嬢様。ちょっと強化魔法が使えるからって団長に就いて」

   雨が降り続いている。

ミザリー「あんたがいると団長になれないんだもの。邪魔で邪魔で仕方がなかった」

   ミザリー、立ち上がる。

ミザリー「でも、あんたのおかげで団長になれたんだから、お礼くらいはしないとね。明日の朝にはここから出られるようにしてあげる。家にプレゼントも届けておくわ」

   ミザリー、去る。
   エレナ、絶望の表情。

エレナ「(声を上げて泣く)うあああああっ」

〇お城・北の塔(翌朝)

   兵士①が鍵を開ける。

兵士①「出ろ」

   エレナ、無言でうつむきながら出る。

メイド「エレナ様……!」
エレナ「(小さな声で)これからここを去るわ。今までありがとう」

   エレナ、去る。
   メイド、心配そうにエレナの後ろ姿を見つめる。

〇エレナの家(豪邸)

   門に「差し押さえ」の紙が貼られている。
   エレナ、不安な表情のままドアを開ける。

エレナ「お父様、お母様……」

   返事がない。
   エレナ、部屋に入るが誰もいない。

エレナ「おと……」

   エレナ、机上の手紙を見つけて読む。

エレナ「そんな」

M(手紙)「エレナへ
  商人に騙され、偽物の首飾りを高額な値段で買ってしまいました。
  これ以上この家に住むことはできません。
  父さんと母さんは、ここを離れます。
  誰も恨まないでください。
  強く生きてください。
  愛しているよ。
            父・母より」

エレナ「まさか……」

回想シーン
×    ×    ×
ミザリー「家にプレゼントも届けておくわ」
×    ×    ×

エレナ「これもミザリーがやったというの……」

   エレナ、手紙を握りしめて泣く。

エレナ「許さないわ、絶対に」

   エレナ、家を出る。
   雨が降り続いている。
   エレナ、振り返って家を見つめる。

エレナ「もう帰るところもないのね……」

   エレナ、さめざめと泣く。
   銀色の長髪の男、エレナの様子を物陰から見ている。

                       (続く)
第2話↓



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?