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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第6話

〇フェデリックの邸宅・客間(朝)

   叙勲対象者に選ばれ、驚きを隠せないエレナ。
   嬉しそうなフェデリック。

N「勲章には3つの種類がある。下からブロンズ、シルバー、ゴールドの順にランクが上がり、ゴールドを貰えるのは毎年たった1名のみである。ゴールドの勲章を授与された者は元老院入りが許され、大きな権限を与えられる」

〇お城・司令官室

   苛立ち、部屋を歩き回るルドルフ。
   ミザリー、ルドルフの様子を黙って見ている。
   リリー、無言でうつむく。

ルドルフ「やってくれたな」
リリー「……」
ルドルフ「何か言ったらどうなんだ、えぇ!!!」

   怯えるリリー。
   ルドルフ、怒りでゴミ箱を蹴る。

ミザリー「あらあら、ゴミ箱が」
ルドルフ「リリー、どうして舞踏会から逃げたりしたんだ!?きみが逃げたおかげで聖騎士団の評判はがた落ち、おまけに……ミランダ伯を助けたことで、エレナの評価が高まっている。どうして解雇したんだと咎められてしまった!ミランダ伯は今度の叙勲対象者にエレナを選んだらしいではないか!」
リリー「……から」
ミザリー「聞こえないわよ」
リリー「エレナが強化してくれなかったから!大体、あんな化け物と1人で戦えるわけないじゃない!」

   リリー、息が荒い。
   ルドルフ、ため息をつく。

ルドルフ「(冷静に)きみには心底がっかりだ」

   ルドルフ、頭を抱えて、

ルドルフ「ああ、もう勲章は絶望的だ……」

   ルドルフ、司令官室から出ていく。
   ミザリーとリリーの間に沈黙が訪れる。

ミザリー「はーあ、よりによってエレナに手柄を立てさせるとはね」
リリー「別にいいでしょ」
ミザリー「は?」
リリー「ミランダ伯は助かったらしいし、それでいいじゃない」

   ミザリー、リリーに近づいて、

ミザリー「あんたさ、それ本気で言ってる?」
リリー「な……何よ。人の命より重いものはないんじゃないの?」

   ミザリー、これ見よがしにため息をつく。

ミザリー「あんたは4週間、謹慎処分。団長命令よ」
リリー「はぁっ!?」
ミザリー「謹慎処分中はお給金も出ないから。そこんところヨロシク」

   ミザリー、司令官室から出ていく。
   足音が遠ざかる。

リリー「クソっ!」

   リリー、ゴミ箱を蹴る。
   ゴミ箱は蹴られ過ぎてあちこち凹んでいる。

〇ミランダ伯邸

   ミザリー、ミランダ伯邸訪れる。
   執事、扉を開ける。

執事「本日はどのようなご用件で?」
ミザリー「我が聖騎士団がミランダ伯爵様へ大変なご無礼をしてしまったようで……。本日はその謝罪に伺いました」

   執事、考え込む。

執事「どうぞ」

〇ミランダ伯邸・主の間

ミザリー「失礼いたします」

   ミランダ伯、ミザリーをじっと見る。

ミランダ伯「……」

   ミザリー、涙を流しながら、

ミザリー「どうか……先日の聖騎士団・リリーのご無礼をお許しください」
ミランダ伯「……」
ミザリー「この通りでございます」

   ミザリー、深々と頭を下げる。

ミランダ伯「まさか正義の聖騎士団が我先に逃げるとは誰も思わなかったことでしょう」

   ミザリー、下を向いて涙を流しながら、

ミザリー「そのことでございますが、実はリリーは助けを呼びに行くつもりで走り去ったのです。しかしその間、聖騎士団前団長であるエレナが皆様方を助けたようでして……」

   ミランダ伯、顎に手を当てて考え込む。

ミランダ伯「そうでしょうか?聖騎士団のリリーは走り去る直前、エレナ様と何か話していましたよ。その場には剣と弓の使い手フェデリック・ド・フーシェもいた。助けを呼びに行かずとも3人で戦えたのでは。実際、エレナ様とフェデリック・ド・フーシェで魔獣を倒したのですから」
ミザリーM「エレナとフェデリック・ド・フーシェが?」

   ミザリー、顔を上げて

ミザリー「伯爵様がそうお思いになるのも無理はありません。今日のところは失礼いたします」

   ミザリー、お辞儀をして去る。

ミザリー「(小声で)エレナ……貴族と共に舞踏会へ行っていたとはね。何か企んでいるに違いないわ」

   カツンカツンとミザリーの足音がする。

〇お城・リリーの部屋(夜)

   リリーの瞼が腫れている。

リリー「謹慎だなんて……」

   誰かが近づく音がする。

ミザリー「ごきげんいかが」

   リリー、苛立って、

リリー「何しに来たのよ」

   ミザリー、ふっと笑って、

ミザリー「あら、怖い。いい話をしに来たのに」
リリー「いい話?」
ミザリー「謹慎を解いてあげようと思って」

   リリー、驚く。

リリー「な」

   ミザリー、自分の人差し指をリリーの口にあてる。

ミザリー「ただし条件があるわ」

   ミザリー、人差し指をリリーの口から離す。

リリー「条件?」
ミザリー「エレナとフェデリックとかいう貴族の周辺を調べて欲しいの。エレナは何か狙いがあって舞踏会に行ったはず」
リリー「……」
ミザリー「謹慎も解けるし、ルドルフにはあなたを許すよう話をつけておくから」
リリー「分かった。謹慎はすぐに解いてよね」
ミザリー「はいはい。もう今から自由にしていいわ」

   ミザリー、去る。

〇お城・司令官室(夜)

   ミザリーとルドルフが抱き合っている。
ルドルフ「それで?ミランダ伯は何て?」
ミザリー「うーん、許してはくれなさそう。当然よね、死にかけたんだから」

   鼻で笑うルドルフ。

ルドルフ「エレナを叙勲対象者に選ぶくらいなら、いっそ魔獣に食われてしまえばよかったものを」
ミザリー「あらあら、悪い顔になってるわよ」

   ミザリー、ルドルフの顎を撫でる。

ミザリー「でも、思わぬ収穫もありそう」
ルドルフ「収穫?」
ミザリー「ふふ。まだ内緒♡」

〇フェデリックの邸宅(翌朝)

   リリーが訪ねてくる。

エレナ「リリー、どうしてここが」
フェデリック「ミザリーに何か言われて来たのか?」
リリー「今日は2人に話があるの……。いえ、その前に」

   リリー、深々と頭を下げて、

リリー「舞踏会でのこと、ううん、その前からのこと、本当に悪かったと思ってる。ごめんなさい」

   戸惑うエレナ。
   無言のフェデリック

エレナ「リリー、頭を上げて」

   リリー、頭を上げない。

リリー「嫌!エレナが私を許してくれるまで、頭を上げない!」

   エレナ、あきらめた様子で、

エレナ「分かったわ。許すから。頭を上げて」

   リリー、素早く頭を上げて、

リリー「(笑顔で)本当!?本当に許してくれるの?」
エレナ「うん、分かった。許すよ」
リリー「ありがとうー!!!」

   リリー、エレナに抱きつく。
   リリー、ニヤリと笑う。
   フェデリック、その様子を見ている。

   少し間を置いて。

リリー「ところで、2人はいつから恋人関係なの?」

   エレナ、赤くなる。

エレナ「恋人では……ないわ」
リリー「(白々しく)ええ!?じゃあ、どうして2人で舞踏会に行ったの?」
エレナ「それは……ちょっと今、私たちは協力関係にあるというか……」
リリー「(前のめりで)協力関係!?何の?」
フェデリック「ストップ!」

   フェデリック、手をパンパンと叩く。

フェデリック「そろそろお茶にしないかい、お嬢さん方」
リリー「(無邪気に)わぁ、いいわね!」

   3人で楽しくお茶をする。
   リリー、馬車に乗って帰路に就く。
   フェデリック、馬車を睨みつけている。

エレナ「リリーも改心したのかしら」
フェデリックM「一体、何を企んでいる?」
フェデリック「いいかい、エレナ、リリーには気を付けるんだよ」
エレナ「フェデリックったら、大げさね」

   エレナ、部屋へ入る。
   フェデリック、エレナを心配そうに見つめる。

(続く)


第7話↓


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