一場面物語〜聖剣物語〜
朽ち果てた建物に光が差す。
その光は隙間を縫うように建物内部を照らした。
美しいなぁと私はその光に、溜息をもらす。
崩れ落ちたドームが長い戦いの記憶を呼び覚ます。
周りの苔むした感じから、この場所が長い間放置されたことを知る。
火薬と怒号と血のニオイ。
混沌に堕ちていく世界がそこにはあったのだ。
その中で彼と私は出逢った。
そして、力強く握りあった。
まるで、運命に導かれるように。
強かった。
けれど、私は彼の心を知った。
握る手の震えを感じていた。
繊細な胸のうちを秘め、それでも前に進むあの頃を懐かしむ。
小鳥がどこからか飛んできた。
不思議そうに私を見つめてくる。
お前たちがまた、空を飛べるようになったんだねと私は優しい気持ちになる。
気がつけば青い空に雲が湧く。
緑の匂いが世界を満たしている。
世界は聖剣と呼ばれる剣を手にした者によって、導かれた。
戦いの終焉。ボロボロだった世界は、それでも、立ち上がったのだ。平和を願う沢山の手によって。
その最初の一振りが大きな波になって、世界はそれを選んでくれた。
私が一番そばで、それを見ていた。
共に駆け抜けた命は今はきっと、幸せに暮らしている。彼もきっと。
私のような存在は、必要ないのだと思う。
必要であってはいけないのだと思う。
もし、もう一度…。
もうあんな戦の日々は無くていい。
彼は私のことは忘れてしまっただろう。
人の記憶は脆いから。
私が忘れないでいるからね。
しまわれた記憶の欠片に永遠に在り続ける。
朽ち果てた建物に光が差す。
その光は隙間を縫うように建物内部を照らした。
崩れ落ちたドームが長い戦いの記憶を呼び覚ます。
周りの苔むした感じから、この場所が長い間放置されたことを知る。
その中央に蔦に絡まれ苔むした剣が眠る。
勇者との日々に思いを馳せ。
けして叶わぬ揺れる想いを抱きしめて。
サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。