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砂鯨を追う 六砂目 星賊団

オリジナル長編物語の六話目です。
一話目五話目。 
その他はマガジンからどうぞ。


その男は束ねた黄色の髪を風に遊ばせて塀の上に座っていた。砂の海がよく見える小高い丘には誰もいない。
箱に詰められたウィーウィー達は静かに眠っている。
男の傍らには一本脚の生き物ラニットが立ち、モクモクと紫煙のような溜息をはいている。

「ラニット…そんなに溜め込んでたのか…可哀想に」
 
男は静かにそう言って、ラニットの柔らかな薄紫色の短い毛を撫でる。
不満もないが満足でもないという顔をしたラニットは何も応えずモクモクと溜息を吐き続けた。

「おい、プルイエル…おまえ、こんなにウィーウィーばっかどうすんだよ」

ふいに塀の下から声が聞こえる。
塀の上の男、プルイエルは下を見てにやりと笑う。

「この間立ち寄った星のお姫さん覚えてるだろ?あの子はコレが好きだと思うのさ。いくらで買うかなぁ」

「うわっ…悪いやつだな。あの子、お前に惚れてたろ」

「ダギン…俺は特定の誰かを好きにならないよ。それに惚れたのはあっちの勝手だ」

ダギンはやれやれと笑う。
プルイエルはそういう奴だった。

「しかし、よくこれだけのウィーウィー集めたな」

箱は十箱はある。
一つの箱に四、五匹のウィーウィー達が入っているようだ。
この星にいくらウィーウィーが多いからって流石に集め過ぎだとダギンは思う。

「まぁ、俺だし?」

涼し気なプルイエルを見て、何か嫌な感じがした。こいつ…まさか…。

「お前…嫌な予感がする…」

「それは、まぁ、俺だし」

「頼むよ…また入星禁止の星が増えるのは勘弁してくれ」

プルイエルは基本的には良い奴だ。
ただ、常識が通じない。
プルイエルにとって欲しいものは手に入れるべき物であり、だからこそ手に入れてくる。
それは時に手段を選ばないため、管理の厳しい星の場合「入星禁止」をくらうのだ。
そうなると商売にならない。

「ダギンは小煩いなぁ」

「馬鹿野郎。俺はなぁ、団長がそんなだから色々な意味で厳しい副団長なんだよ。ちったぁ考えろ。プルイエルのせいで皆食いっぱぐれたらどーすんだよ」

ダギンは知っている。この愚痴に意味はない。言いたいだけだ。

「それは…ない。俺が俺の団を壊滅させるわけないだろ」

塀の上のプルイエルと目が合う。その瞳はただひたすらに真っ直ぐだった。
だらけていようが、本気を出そうが、プルイエルという男はどうしようもなく長だった。

銀河をまたにかける行商集団「星賊団」
それを一代で纏め上げた男。
ダギンは溜息を付きつつ、なんだかんだ長として役目を果たすプルイエルを尊敬している。

「ま、団長。そういうことなら、ウィーウィー売りにはやくいこうぜ。」
「それに、今回は俺も砂鯨を追う。大金になるぞ!!」

ほぼ同時。セリフが重なる。
ダギンは聞き逃さなかったその台詞の意味を思って頭を抱えた。

こいつ…やっぱり駄目だ。馬鹿野郎だ!!
忘れてた!!プルイエルは、とんでもない事を急に言い出す奴だった!!



「星賊団かぁ…仕方ないね」

「この星じゃ防ぎようないしな」

リリベットの言葉に、マレンゴも頷く。

「だから、リリ。レーヴェには言わないでくれよ」

「知ったら喧嘩になるもんね…」

「相性悪いからな…あの二人は…」

二人は揃って身震いをした。
星賊団はたまに星にやってきては異星の品を置いていく代わりに、色々なものを持っていく。
今回はウィーウィーが目にとまったのだろう。
マレンゴの店のウィーウィーも気がついたら彼等の積荷になっていたわけだ。

『まだ、一度も会ったことがないけど…どんな人達なのかしら。レーヴェが髪を逆立てて怒ると怖いから……どうかレーヴェは星賊団の人達に会いませんように!!』

想像しただけで恐ろしい…。
そんな事を思っていたリリベットは、そういえばと思い出す。
異性からやって来た不思議なせんせいはどうしたっけ?
店を見渡すと、せんせいはまだ飽きずにウィーウィーをこねくりまわしていた。
よほど気に入ったのだろう。
しかし、そろそろ止めないとまずいかも。

「あっち!!」

遅かった。
流石にこねくり回され飽きたウィーウィーが発熱した。
せんせいは思わず手を離す。
ウィーウィーはほよよんっと床で一弾みし、棒きれのような足で地面を捉えた。

「キィーキィー」

そして、新たな主に抗議の声を上げる。
せんせいはそんなウィーウィーに頭を下げて謝っている。

「ごめんね、ごめんね」

リリベットは溜息をつく。
ウィーウィーの下になってどうするのだ。
あんな小さな生き物に説教されるなんてチキウ人はとても弱いのかもしれない。

マレンゴもヤレヤレといった感じで一人と一匹を眺めていた。

✽✽✽✽✽ 

「リリベット、次はどこに行くの?」

「んー、槍とかの武器屋さんかな」

僕は小脇にウィーウィーを抱えリリベットの後を追う。
ウィーウィーはあの後宥めてなんとか腕におさまってもらった。
この星は不思議なことだらけだ。
地球ではありえないような環境ばかりだ。
ここが遠い銀河の果である事をひしひしと感じた。

「そうだ、せんせい」

「なに?」

「せんせいは食べる種族?飲む種族?吸い取る種族?」

「……えっと」

リリベットからの急な質問に僕は少しだけ戸惑った。

「せんせいは見たところ食べる種族っぽいけど」

リリベットと目が合う。
じっと見つめると不思議な輝きがある瞳。
やっぱり綺麗。

「せんせい?」

「あ、ごめん。えっと、食べる種族です…たぶん」

「そっか。じゃーせんせいのぶんは何か食べられる物探さないとね」

リリベットはそう言って前を向く。
危ない、危ない。
彼女の瞳は魔力でも宿っているかのようだ。
見ると目が離せなくなる。
しかし、それどころではない。
せんせいの分はだって?
じゃあ、リリベット達は何を食べるっていうんだ?

「ねぇ、リリベット達は…」

「私達は飲む種族だから、飲み物を買うよ?」

質問は先回りされた。

「そっか。あの、実はね。リリベット。僕は食べるし、飲む種族なんだ」

僕は自分の食料のことなんて頭になかった。
平和ボケもいいところだ。
地球から遠い惑星に、何故自分の食料があると信じて疑わなかったのだろう。 

「そうなの?!両方……なかなか不便なのね…せんせいは」

リリベットは驚いた声を出した。
このあたりの星ではどれか一種類しか摂取しないようだ。
地球で当たり前のように飲み食いしていたのが凄く懐かしく感じる。
ここに来てそんなに経ってない……いや、どれぐらいの時間が過ぎたのだろう。
二つの太陽の位置は変わったように見えない。 
お腹は空いてないから時間は経ってない…と思っているだけかもしれないと考え少しゾッとする。
なんの文献もない、なんの確証もない。
僕は今本当に旅人だった。

「た、食べれるものあればいいな…」

「大丈夫でしょ。なにかしらあるわよ」

気弱になった僕と、あっさりとしたリリベットはテント街を抜けて広場の反対側へ出た。

「武器屋は下の階層にあるから、先にそっちでもいい?」

「もちろん。僕は何も知らない旅人だから大人しくリリベットについていくよ…」

そのまま通路へ入ろうとした時だった。

「へい!そこの異星人のお兄さん!!」

黄色い髪をなびかせた長身の男が声をかけてきた。
やたら整ったその顔は女性のように美しい。
瞳はアメジストのような紫色をしている。
肩に蝙蝠のような、兎のような、それでいて鷺のような生き物を乗せている。

そんな男が長い足でツカツカと向かってくる。
異星人に知り合いはいないし…なんだろう…と眺める僕の前にリリベットが割って入る。

「誰?」

「おや、麗しいお嬢さん。ハロー」

男は急に割って入ったリリベットを気にすることなくにこやかに挨拶をした。

「ハロー。で、この人になんの用?」

リリベットは険しい表情のまま挨拶をした。
黄色の髪の男はおぉ怖いとおどけた感じで呟いた。

「そう警戒するなよ。砂の星のリリベット。君の噂はかねがね聞いているよ?砂の海に落ちて戻ってきた女神様」

「あら、どうも。で、そういうあなたは誰なの?」

ピリピリとした空気が場に漂う。
僕の小脇のウィーウィーもその空気を感じ取ってソワソワした。

「リリベット…あの…」

「せんせいは黙ってて」

「あ、はい」

リリベットは少しの隙も見せずに男をみた。
男はそれでもどこか楽しそうな顔をしている。

このままどうしたら…と思っていると遠くから声が聞こえてきた。

「プルイエルー!てめぇ!問題を起こすなとあれほど言っただろーがっ!!」

その声は段々と大きくなり、次の瞬間黄色い男の体は吹っ飛んだ。
朱色の髪の巨体が、彼にドロップキックをかましたのだ。
肩に乗っていた不思議な生き物はひらりと宙を舞って着地した。

砂埃をあげながら黄色い男は地面に倒れた。
僕もリリベットもウィーウィーも呆気に取られてしまった。

「いやぁ、すまんすまん」

朱色の髪と髭の男はそう言いながらこちらに頭を下げてきた。
リリベットはハッとしたようにすぐ警戒態勢に戻る。

「あなた…達は誰。なんで彼に声かけたの?」

「あぁーもう。ほら、みろ。プルイエル。お前のせいで嫌われてるじゃねーか。馬鹿野郎」

朱色の髪の男は困ったなというふうにあたまをかいた。黄色の男はピクリとも動かず地面に横たわっている。

「すまねぇな。嬢ちゃん。俺らの団長の躾がなってなくて。俺らは星賊団。俺は星賊団副団長のダギンだ。そこの異星人と少し話がしたかっただけだ。ま、あと、あんたともな。」

ダギンはやれやれといった感じでこちら見る。
星賊団?なんだ?名前的に海賊みたいな?
悪い人たちなのだろうか…。

「星…賊団。あなた達が。そんな大きな組織がなんの様なの…」

リリベットは少し困惑したような顔をした。
僕は後ろからそっと声をかける。

「ね、ねぇ、リリベット。とりあえず謝ってくれたあの人は悪い人じゃないんじゃないかな。話だけでも聞いてみようよ…」

おずおずとした僕の提案に、小脇に抱えたウィーウィーも小さく鳴いて同意する。

「……。せんせいはお人好しね。でもいいか。あなたは話が出来そうだから、この先の武器屋ででもいい?」

リリベットは溜息をつきダギンにそう提案した。
ダギンは頷くと伸びている黄色い髪の男を担ぎ上げた。不思議な生き物もその肩にのる。

こうして、星賊団と、リリベット、異星人の僕という不思議な組み合わせは下層の武器屋へ行くこととなった。

7砂目へ


《作者ヘトヘト》
まだ陸から進まんのかー一い!!

星賊団、なかなかキャラが私の中で定まらず書いてきゃなんとかなるでしょと書いたら軽いノリの団長にしっかりものの副団長という王道なコンビに。
おかしいな。
プルイエルはもっとカッコイイかんじのはず。
だって『革命のエチュード』なのに……ノンプルスウルトラなのに……。

ラニット。お気に入り。

リリベットについて少し出てきましたね。
地球の外の事って進み具合がまったくわからないですよね。
異世界物で必ず朝と夜があるの結構不思議だとおもってたんですよね。
まぁ、前にリリベットが夜の期間と言っていたので砂の星にも夜はあるようですが……

あぁ、次辺りには海に出たい…いや、まだなのか…
作者も彼等の動きに合わせ少しずつ書いているためわかりません。

結末は決まっていても、運命のいたずらは起きるもの。


銀河の果から愛を込めて
出会った物語。
それぞれ進む物語。

©2022koedananafusi

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