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砂鯨を追う 一砂目 地球

―それは旅をしていた。
-それは落下する。

そして、それは一人の青年の旅の始まりになった。

銀河の果から愛を込めて。
辿り着く物語。
始まった物語。



僕は何食わぬ顔をして、パスコードを打ち込んだ。
朝の挨拶だっていつも通り出来たはずだ。
「こんな事するタイプじゃないよなぁ」
自分でやってる事が、あまりに自分らしくなくて独り言が漏れる。
今からやる事は、この研究所の、いや、この地球でのタブーだ。
とてつもない緊張感が全身を駆け巡り、足を上げることさえ躊躇わせる。
「本当、柄じゃない、、、」
そう呟いた声は微かに震えている。
じゃ、何故、そんな緊張感と戦ってまでこんなことをしているのかと問われると、その理由は白衣のポケットの中にある。

事の起こりは半年前。

✽✽✽✽✽

「よう、来たな!」

その男はいつ見てもくたびれたツナギを着ている。
久々に会ったその時も、くたびれたツナギを着て出迎えてくれた。

「やぁ!相変わらずだね…所長」

僕は片手をあげてこたえながら、彼の元に歩いた。

「お前もな!先生。相変わらず真っ白で、ずっと引き篭もりか?」

無精髭が生え日に焼けた顔をニコニコとさせ男はそう言った。

「まぁね。研究室に缶詰だよ。」

僕は数名の護衛と一緒に北の端にある観測所を訪れていた。
普段はあまり外に調査に行く側にならないが、北の端の観測所の所長が僕の昔馴染という理由で(本当は皆、北の端まで来るのが面倒なだけだと思う)何かあると訪れる事になっている。

今回は隕石が採取できたらしく、それを預かりにやってきた。

「早速だけど、隕石を見せてほしい。」

僕は隕石が好きだ。
宇宙からの贈り物。

近隣の星と交信が始まった現代でも、やはり隕石は浪漫だ。
どんな物質で出来ているのか、どんな所を旅してきたのか、どこから来たのか、知りたい事は山ほどある。

1秒でも早く研究所に持ち帰り、隕石との対話にとりくみたかった。

実はワクワクして昨日は眠れていない。
防衛ネットが地球に張れるようになってから隕石はなかなかお目にかかれないものになってしまった。
防衛できる代わりに、貴重なサンプルも霧散する。早く改善してほしい。出来れば僕が生きている間に。

そんな僕をやれやれといった表情で見た所長は、僕をグイッと自分の腕で引き寄せた。
そして、周りに目配せしながらヒソヒソと喋りだした。

「今回のは普通の隕石じゃない。研究所にバレたらあっという間に金の亡者に取り上げられちまう。だから、お前……こっそり持ち帰れ」

「えっ?!」

「ばかっ!!声がデケェよ……とりあえず見せてやるから俺の部屋に来い。連れてきてる護衛にはいつも通りの隕石見せておくからよ…」

所長の顔に目をやると、どうも冗談ではないらしい。
彼だって、今言ったことがどれほど危険かわかっているはずだ。
貴重な資料を横領だなんて…。
でも、彼は仕事は真面目だし、なにより宇宙を愛している。
そんな彼が言うのだから、相当な代物なのだろう。
僕は静かに頷いた。

そして、所長の部下に手伝ってもらいながら、護衛を引き剥がし彼の部屋に行った。


それは丁寧に布に包まれていた。

サイズは氷砂糖くらい。
形も似ている。
色はローズクォーツに似て薄いミルキーなピンク色をしている。
違うのは光を受け反射する部分が七色に変わること。星のように瞬くこと。

「凄い……これ、隕石?地球の鉱物じゃなくて?」

僕は夢中でそれを眺めた。

「そいつは、そのまま降ってきた。間違いない。俺が観測したんだからな。」

所長は誇らしげにそう言った。
もし、彼の言うことが本当なら、これは世紀の大発見だ。
こんな美しい隕石は世界中探したってない。月をくまなく探しても、火星をくまなく探してもないかもしれない。

それほどまでに、美しい隕石だった。

「お前なら、そいつを大切にして、そして調べてくれるだろ?」

「そりゃ……もちろん……」

この美しい隕石との対話は素晴らしいだろう。
所長の言うように、研究所に渡せば純粋に対話する事は不可能になるだろう。
しかし、それは、とんでもないリスクだった。

「俺は、この隕石から何かを感じるんだ。とても、大切な何かだ。それを知りたい。金や権力に塗れていないお前なら、この石の心を覗けると思うんだ。」

そんなことを所長は大真面目に言ってくる。昔から、この人の熱さには勝てない。
それに、僕だって、この隕石との対話は……逃せない気がしていた。

「どうするの?」

隕石から視線を外さず、所長に問いかける。
これを観測所から研究所に見つからずに持ち込むには掻い潜らなければならない防衛システムがいくつかある。

「任せろ。お前は研究所のシステムが甘いことをしらない。あんなものは見てくれだけで、甘々なんだよ。」

所長は自信満々にそう言った。
何する気なんだ…。
怖いから聞かないでおこう。
所長の感じからして、システムのハッキングだろうが、触らぬ神に祟りなし。
知らないほうがいい事もある。

「任せるよ」

そう言って僕は隕石にしばしの別れを心の中で告げ、引き剥がした護衛たちの元に戻った。特に怪しまれた様子はなかった。
普段からフラフラしがちだからだろう。
その後、普通のいつも通りの隕石を眺め、その場で研究所にデータを送り、ケースに隕石をいれた。

そして、特になんの問題もなくコッソリ、美しい隕石も連れ帰った。
どうやったかは……秘密。

✽✽✽✽


真っ白でチリひとつ落ちていない無機質な廊下を、僕は白衣をなびかせ歩く。
たまにすれ違うのは自動掃除ロボットだけだ。
やはり、この時間は人がいない。
それもそうか。
何時も居る皆はありもしない会議に招集されて、会議室に向かってるはずなんだから。

『おはようございます。この部屋のNo.は47926です。御用件をどうぞ。』

各部屋に搭載された管理システムがカメラで僕を認識した。
優秀だが、今はその優秀さが恨めしい。
何故なら、今から僕のする事はこの研究所の、いや、今の地球でのタブーなんだから。


あの美しい隕石との対話は実に素晴らしかった。

観測所から渡されたローズクォーツに似た隕石は光に透かすとキラキラと輝いた。
空で輝く星の瞬きに似たそれに自分が吸い込まれる感覚を覚える。
様々な装置を使い解析を試みた。地球にはない成分で出来ている事、しかし、水晶に近い性質であること、ほんの僅かだが振動し続けていることがわかった。
振動は何かのメッセージの可能性があった。
近年、目覚ましい技術の発展で近くの星からのメッセージは音声でとれるようになったが、遠い星からのものはわからない。

振動を音に変えられないか試行錯誤し、そして成功した。

それは、鯨の歌に似ていた。
とても深く、とても優しく、とても柔らかく、まるでその音がキラキラと輝いているような錯覚に陥った。

そして、その音に近いモノを発する星を遥か遠くまで旅をしている衛生が捉えた事があることがわかった。

僕はそれを調べた。
どうやら地球に近い環境ではないかという推測と、その星から発信される生命体と思われる音声のいくつかの解析はされていた。
しかし、隕石から聴こえる音に近いものの分析何故かされていなかった。

研究を重ねるうちに、隕石から聴こえる音が故郷の事を語っているように思えてきていた。そして、その星には何かがあるのだと思えた。

日に日に、気持ちが募っていく。

『僕は、この隕石の故郷へ行かなくてはならない』

そんな事を思う。
不思議と。

そして毎夜夢を見る。

それはとてつもなく大きな鯨がきらめく夜空に向かってジャンプする夢だ。キラキラと水飛沫が輝いている。
幻想的な夢だ。

夢の中で何時も、一瞬鯨と目が合う。
その目は、なにかを伝えようとしている。
とても大切な何かを。
そう感じる。

そして、ハッとして目が覚める。
無機質な自分の部屋で。


『こんな、なんの根拠もない事で』

手元で忙しくパスコードの書き換えをしながら、僕は飽きれて笑う。
まさか、研究者という立場で、夢に見た景色があまりに美しく、その星に行けば同じ景色を見れるかもしれないと思うなんて思わなかった。
そんな夢みたいな事の為に、現在は試験段階であり、禁忌とされている星間移動装置を無断で使おうとするなんて、馬鹿げている。

確に、隕石の事は僕も知りたかった。
けれど、それは研究者として当たり前の好奇心で、こんな、国家どころか、地球的犯罪に手を染めるなんて思いもしなかった。


『こちらのゲートはプロテクトEです。』
「わかってるよ」
『退出をお願いします。』
「それは出来ないよ」
『こちらのゲートはプロテクトEです。』
「知ってるよ」
『退出をお願いします。』

AIとの不毛なやりとりをしながら、緻密な配電盤を弄る。
警備システムが作動したとしても、6秒ほど時間がある。

「一応、3秒ってことだけど…どうしようかな…つま先だけ分解できなかったりしたら……嫌だなぁ…」
『システムが3秒なら3秒です。我々にミスはありません。パーフェクト。』

弱々しい独り言に、AIが淡々と応えてくる。
いやぁ、ミスはないとか言い切るこの性格……プログラミングを担当した人にそっくりだなぁと苦笑いした。

「では、君のその能力確かめさせてもらうよ」

配電盤の蓋をカチリとしめる。
一瞬の静寂が空気を支配した。

『こちらはプロテクトE………了解しました。ゲートホールを開きます。良い旅を。』

カチリと合わさった小型のハッキングAIがゲートホールを開いてくれた。
上手く行ったと息を吐いたと同時に、警報音が鳴り響いた。

「急げ急げ!」

『緊急警備システム作動!プロテクトEの突破!全システム停止まで6秒前…』

自分の生まれた星との別れだというのに、こんなに忙しないとは…思いもしなかったなと僕は笑った。

『5…4…』

飛び込んだ光の柱の中で自分の肉体が小さなブロックにわけられる感覚を味わう。痛みはない。
ただ、あまりに気持ちが悪く、あまりに非現実的なそれは、意識が遠のき一瞬で終わった。

二砂目へ


《作者の言い訳などなど》
ここまでお読みいただき有り難うございます。
えぇ。雑ですね。『色々調べて書けやぼけぇっ』てね。
ほぼ骨ですね。肉足りない。
私の身体とそっくり。貧弱。
このあとも雑ですから、我慢できる人だけ読んでください。

どんな研究所やねん。甘すぎるねん。
違うのよ。主人公が頭良いのよ。

まだ始まったばかりです。
私の頭の中では結構先まで続いています。

気が向いたあなたは続きが出たら読んでくださ
い。
気が向かなかったあなたは…そうですね、他の記事を読んでくれたら嬉しいです。

間に普通に記事も書きますので、いくつかだしたらマガジンにまとめようかな。

銀河の果から愛を込めて。
物語のはじまり、はじまり。

©2022 koedananafusi

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