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ハロー・ガーデン

短く刈り込まれた芝が青々としている。
そこへ可愛らしい模様のタイルが飛び石のように並べられ、中央の噴水へと訪問者を誘う。

見たこともない花々が、良い香りを漂わせ手を振ってくる。
私は足早に、そこを通り過ぎる。

空を見上げると見事な晴天である。
自分の濡れたコートが馬鹿みたいに見えるくらいの、清々しい晴天。
頭上を鳥のようなものが羽ばたいているが、小さいのでよく見えない。

蔦の絡まる白亜の屋敷は、美しいのにどこか物哀しく目の前に鎮座している。


噴水の広場についたとき、テーブルと椅子を備えた東屋に彼女がいることに気が付いた。

「やぁ…」

私は少しためらいがちに、しかし、ハッキリと彼女を見ながら声をかけた。
彼女はちらりと私を見て

「やぁ…君か」

と短くこたえた。
こたえたかと思うと、次の瞬間にはものすごい勢いで喋りだした。
目線は手元のうさぎのようなモノに注がれている。

「あぁ、魔女だと噂をするものがいるんだね。仕方のない子達だ。この森には命が豊富にあるからね。そういうことなのだろう。しかし、はて…必要なぶんは、あったと思ったけれど、あれ?しまってしまったのだっけ?そんな意地悪はしていないよ。いいや、大丈夫。雨?雨は駄目だよ。ただでさえ、遠慮してるのに、そんなに遠慮させたらへそを曲げるよ。あぁ、すこしね?少しならいいかな。けれど、魔女ってのはいただけない。そうだろ?私は集会は嫌いだし、呪いの類も苦手だし、なんならもっと上手いやつのが上手くやってるってものだろ?あー、勝手に?それは知らないよ。私の知らないことは、知らない。知ってほしいなら、知らしめてこなきゃね。跳ね返ってもいいのなら…だけど…うふふ」

そして、ひとしきり喋り終えた後、私を見た彼女はキョトンとした顔をした。

「おや。人違いだ」

「いや、違わ…」

「いいや。人違いだよ。君……新顔だね」

「……」

「ふーむ。庭の位置はわかったのか。いい目をしているね。でも、白亜の屋敷がみえている。ふふっ。まぁ困らないだろう。」

私は居心地の悪さにモゾモゾとした。
早く要件を済ませて帰りたかった。

「とにかく、これを」

一通の手紙を差し出す。
彼女との距離は3mほどあった。
瞬間、突風が吹き手の中の手紙が攫われる。

そして、ひらひらと彼女の手に渡った。
冷や汗が出る。

そんな様子を楽しそうに見つめて彼女は言った。

「本当に、いい目をしているね。これからもあそびにおいで。あとで返事を寄こすと、あの偏屈に言っておいてくれ」

私はくるりと背を向け、走り出したいのを我慢して、来た道を正しく帰った。

途中で見たこともない花々が間違いなく、手を振っていたが、それもなるべく見ないように、過ぎていく。

森の端まで来て、やっと、深く息をする。


「なんだったんだ……あそこは………」


声も掻き消える大雨の中、私は一人呟いた。


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